ヒョーテイジャッカル 〜12.全力疾走〜
文化祭当日。は昨日あった事はには話さなかった。
は鈴菜と一緒に学校へ登校すると、は目を輝かせて出し物を見ていた。
「・・・鈴菜っ。うちのクラスの劇って何時から!?」
「えーっと。午後の一番最初ですから・・・1時30分ですね」
「じゃあそれまで暇かっ!?」
「は大丈夫ですけど、私は駄目ですわ。劇の最終チェックがありますし・・・」
「それまで、出し物見てても平気だよなっ!」
「え・・・えぇ」
興奮しているに、鈴菜は多少引き気味だったが、の輝かしい顔に目を細めた。
「1時には、戻ってきて下さいね」
「おうわかった!」
は短く返事をすると、混み合う人混みの中へ消えていった。
「・・・すごっ」
は小声で呟いた。
すでに外部からの客もきており、学園内は混雑してきていた。
今は、右手にわたあめ、左手にヨーヨーを持って完全にお祭り気分でいた。
「先輩ー!」
「んー?」
突然聞こえた自分を呼ぶ声に、は振り返った。
そこには、鳳の姿があり、笑顔で手を振っていた。
「どうしたんですかー先輩。一人で」
「・・・・・・一人で見ちゃ悪いかよ」
「誰も悪いなんて言ってませんよ」
長太郎は困った顔でひらひらと両手を振った。
は訝しげな目で長太郎を見ながらも、わたあめを食べる口は動かし続けた。
「先輩今暇ですか?」
「んー?まあそうじゃない?」
「そうですか!じゃあ一緒に見て回りませんか?」
「はあ?」
小さくなってきたわたあめから口をはなし、は長太郎を見た。
未だに長太郎は笑っていた。
「ほら!一緒に行きましょうよ!」
「え?ちょっ・・・っ!」
長太郎はの手をとると、人混みの中に入っていった。
「先輩っ!これやってみましょうよっ!」
長太郎がそう言って指を指したのは、どこかのクラスの出し物の射的。
は一瞬気だるそうに見たが、すぐにその目は輝いた。
「・・・あたしやる」
「わかりました!・・・・・あ!宍戸さん!」
「おー長太郎じゃねえか」
ハチマキをつけた宍戸が、長太郎の所へ寄ってくると、周りの女子が少し五月蝿くなった。
その間に、は係りの人から射的銃を受け取ると、早速狙いを定めた。
「長太郎一人か?」
「いいえ。先輩と一緒です」
「?アイツどこいんだよ」
「え?そこに・・・」
と長太郎は指を指すと同時に、スパーンと気持ちのよい音が聞こえた。
ポトッと落ちたのは空き缶で、そこには「氷帝学食券2000円分」と書かれてあった。
手早くは次のたまをセットすると、狙いを定めた。
そしてまた、パーンッと音がすると、「カフェテリアドリンク無料券」の空き缶が落ちた。
周りからは歓声が聞こえたが、は気にせずに最後のたまをセットすると、狙いを定めた。
そして、軽くまた「学食券2000円分」を落とすと、射的銃を係員に返した。
「・・・アイツすげぇな」
「しかも、あれは狙ってましたね・・・」
「あぁ・・・」
宍戸と長太郎が苦笑しながら話を交わすと、が長太郎のもとへ歩いてきた。
「・・・終わった」
「凄かったです先輩!」
「・・・アンタはやんないの?」
「ええ」
「ふーん」
と長太郎は宍戸と別れると、また人混みの中へ入っていった。
「・・・そう言えばさ」
がポツリと呟いた。
「何ですか?」
長太郎が優しく問うた。
「アンタ。名前何ていうんだっけ?」
「・・・・・・鳳 長太郎です・・・」
「あ。そう言えばそんな名前してたな」
「・・・酷いですよ」
「・・・ごっ、ごめん」
流石に名前を覚えてくれなかったのは、きつかったのか、長太郎は少し項垂れた。
「先輩っ・・・」
「すっすまん!お詫びになんかすっから!」
慌てて言っただが、口走ったことを言った後に後悔した。
「本当ですか?」
先ほどまでとは違う、長太郎の表情に、は嫌な予感を感じた。
「じゃあ・・・」
長太郎は笑うと、人差し指をの前に突き出した。
は反射的に目を瞑った。
「俺のこと、名前で呼んでください!」
「へ?」
予想しきれなかった言葉に、は間抜けな声を出した。
「・・・そんだけでいいのか?」
「あっ。あと、俺も先輩の事、名前で呼んでいいですか?」
「・・・別にいいけど」
「ありがとうございますっ!」
長太郎が満面の笑顔で笑った。
は何故か脱力感を覚え、つられて笑った。
「あ!」
「なっ・・・何だよ!」
「先輩!笑った方が断然いいですって!」
「っ・・・・!」
初めて言われた言葉に、は顔を真っ赤にして、全力疾走でその場を去った。