新年が明けてから、まだ早々も経たぬ頃に、ふと目の前に眩しい光が射した。 …その眩しさに目を開けられないままでいた時に、ふと影がかかって漸く目を開けられた頃、その影の主が異様に此方に視線を向かせている事に気付いて、睡魔の奥から少しばかり引っ張り出される破目となった。 曙の神は朱に染まる 「大佐、起きて下さい、大佐ー!」 「……煩いですねぇ…まだ、五時前ですよ、アニス。…寝かせて下さい」 カーテンは既に開け放たれ、初日の出といわんばかりの朝日が、大佐と呼ばれた男、ジェイド・カーティスと、起こし役のアニス・タトリンを照らしている。 …新年の幕開けとして選んだ宿で、年越し後に早々に寝入った筈が、今は何故か、先程からずっと耳元で何度も何度も自分の名をアニスが呼んでいる。いつもなら元気ですねぇと関心せんばかりのその声も、睡眠への欲求が耐えない者にはただ騒がしいものでしかなかった。 「もう“五時”なんですよ!初詣いきましょーうよーう!!」 駄々を捏ねる子供のようにして、アニスはジェイドの被っている毛布をばっと取上げた。途端、観念したのかジェイドはゆっくりと起き上がり、目の前のアニスをじっと不機嫌そうに見ている。 睡眠を憚られたことが相当こたえるのか、いつもなら余裕な笑みを浮かべている食えない性格である彼も、流石に今は笑みなど浮かべる事が出来ていないらしい。乱れた髪を鬱陶しそうにジェイドが片手でかきあげ、眼鏡をかける。そんなジェイドを見つめながら一寸置いて、アニスは変わらぬトーンの高い声でねだった。 「たーいさ、初詣行きましょう?」 「……お断りします。ルーク達と行けば良いでしょう?」 ぷく、とアニスはいかにも納得がいかないと言った表情をし頬を膨らませる。 「ぶー。だってルークもティアもガイもナタリアも、みーんな初日の出を見たいからって先に行っちゃいましたよう。まだ寝てるのは大佐だけなんですからね!」 それはぬかりましたね、と小さく呟く。いつも一番早く起きているのは、普段であればこのジェイドだ。の筈が、新年に限ってあのねぼすけルークよりか遅い起床だというのは少々残念な気がした。まあ多分、ルークは随分と眠たそうの顔をしながら行ったのだろう…というのは安易に想像がついたが。 「ねー、私達も行きましょう大佐」 「……一人で行きなさい。私は眠たいんです」 「い・や・で・す!誰がお賽銭出してくれるんですか?!」 「……賽銭くらい自前で出したらどうですか、アニス」 どうやら、てこでも自分を連れて行くつもりらしい。賽銭なんて一桁のガルドくらいしか出さないだろうに、そこまで金の亡者でしたか、というのは置いといて、未だに目の前をうろつく睡魔に今にも屈してしまいそうなのだ。…元々、初詣をしに行くことは全然興味もなかったし、つまりは今までまともにやったこともないので、興味も一切湧き出てこない有様だ。 「………はぁ…」 「あ!大佐今溜息つきましたね?!新年早々幸せ逃がしちゃってどうするんですかー?!」 「構いませんよ、幸福でなくともね」 ビシ、とこちらを指差しながらそう言うアニス。しかし眠たそうにしていてもジェイドはジェイド、いつもの嫌味はしっかり言える様だ。アニスはとうとうじれったくなったのか、がし、とジェイドの腕を掴んだ。 「んもう!初詣は縁起がいいんですよ!大佐がいらないんなら私がその分幸せ貰いますから行きましょうよー!」 どういう理屈なのか、と思ったが、どうやら通じなさそうだ。 「ねぇ大佐〜、大佐〜、アニスちゃんお願いします♪なんでも言う事きいてあげちゃいますからっ♪」 「……なんでも、ですか…」 すりすりっ、といかにも甘えモード全開でジェイドに擦り寄る。そんなアニスの頭をひとつ撫で、そっとその掌を華奢な肩に触れさせたところで、頃合を見定めたかのように一気にグイッと引っ張った。 「はうあっ?!」 一気に視点が反転して、暗かった筈の視界が朝日にと変わり、目の前をチカチカと光らせ――そして、それは遮られる。 「――――なんでも、というのなら、早速きいて頂きましょうか」 そう言いながら此方を見下ろすジェイドの表情は、笑みは、そしてその視線は、既に一切の眠気など帯びていない。まさに、初日の出の逆光の下、覚醒したといってもいいくらいの。この変貌振りに、先程までおねだりを繰り返し、上機嫌でトーンの高い声を出しまくっていたアニスも、一気に顔を青ざめる。――自らの身に、危機を直感的に感じた。 「…た、大佐…ちょ、まっさっか…」 「その『まっさっか』ですね。」 ニッコリ、といつものごとく余裕そうに笑むジェイドに、何故かいつも以上に恐怖感を感じるのは気のせいではない。 咄嗟に逃げようと足をじたばたと動かし、自らの肩を掴んで押し倒したその手を必死でどかそうと抵抗する。が、勿論それは敵う筈などなく、寧ろ余計に羽交い絞めにされてしまう。 「大佐っ…、やっ…!」 「怖がらないで下さい。別に…ただ、初詣よりも相応しい縁起の良いものをするだけですよ」 「…縁起のいいもの…?」 そう言われても考え付かないのだろうか、アニスはきょとんとした顔をする。その反応に満足なのか、クスッと笑むと、彼女を押し倒している手を緩め肱をつき、より距離を縮め、その状態で呟いた。 「姫始めですよ」 「…ヒメハジメ?」 そんな言葉は耳にした事がないのか、益々疑問符を浮かべるアニス。 ジェイドは眼鏡をくっと人差し指と中指で器用に上げた。 「……姫始めというのは、種々の事柄をその年に初めて行う日のこと。正月に姫飯を食べ始める日とも、『飛馬始め』で馬の乗り初めの日とも、『姫糊始め』の意で女が洗濯や洗い張りを始める日ともいわれますね」 「へぇ〜…で、これとどんな関係があるんですかぁ?」 ジェイドに説明されてなんとなく分かったものの、この押し倒されている状況と関連付かないのか、相変わらず疑問は残ったまま。…既に緊張感が緩んでいるのか呑気そうな表情のアニスをニヤリと笑み見下ろし―――いきなり、その腕を強く掴んで強引にその唇を奪う。 「んっ…んんんっ?!」 いきなりの行動に慌てふためくアニスを尻目に、即刻その唇を放すと、額がくっつくくらい近い距離のまま話しだす。 「――姫始めには、もう一つ意味がありましてね…『新年にはじめて男女が交わる事』という意味もあるんですよ」 「え…っ」 その言葉に、ジェイドの意図を完全に理解したのか、体を硬直させるアニス。 が、それには既に遅すぎた。 「と、言う訳ですから…説明もし終わったことですし、覚悟は出来ていますよね?」 「たたたた、大佐…そ、それは流石に…ちょっと…」 表情を明らかに青ざめながらアニスは目線を背ける。が、ジェイドはそれだからといってやめる気は全く無いらしく、ついている肱をより折って、いかにも面白いという微笑みを浮かべながらアニスを見つめた。同時にギシッ…とベッドが軋み、その音と同時にアニスは生唾をごくりと飲み込んだ。 「――アーニース。貴女は言いましたよね?『なんでもきいてあげちゃいますから』って。その言葉が嘘だなんて…そんなことはないですよねぇ?」 「で、でも…まさかこんなことするだなんて…」 未だに目を逸らしたままのアニス。青ざめていた顔色がいつのまにか赤く染まっている事に気がついた。 「……まんざらでもないみたいですがねえ…?」 「そ、そんなことないですっ!……んむぅっ!」 挑発にかられ、咄嗟に此方を向いたアニスの行動を見逃さず即座にジェイドはその唇を塞ぐ。そのまま抵抗する間もなく口内に舌が入り込み、息が荒く苦しくなってくるのを感じて、思わずぐいっと引き離そうとジェイドの肩を押す。が、それを許す筈もなく、腕を掴まれベッドの縁に押さえつけられた。 「んっ…っく、んんっ…」 角度を変えて何度も口付けられる合間に必死で息を懇願し取り込むものの、徐々に高まる体温には全く足りず、最初は力を込めていた腕にも抵抗の兆しが薄れてくる。 その頃合を見計らって、漸くジェイドは唇を離した。 「……はぁ…はっ…、はっ…」 荒く湿った息をつくアニスの頬に、愛おしげにちゅっと一つ口付ける。 それを境にそのまま肌の上をジェイドの唇が滑り、流れるようにして首元を這った。舌を出しつっと弧を描くと、アニスはこそばしさに似た感覚に耐えようと、目をぎゅうっと固く瞑った。 「あ………」 ピク、と僅かにアニスが反応する。未だに掴まれている腕が細かく震え、行き所を求めてベッドの上のシーツを掻いている。 「……アニス」 「た、たい…さぁ……」 声にして名を呼べば、アニスも弱弱しく名を呼び返す。そんな様子が可愛らしくて、喉の奥あたりがじわりともどかしげに疼いた。それは胸の辺りにも広がり身を痺れさせる――それの存在が何かなどジェイド自身理解していたので、ごくりと唾を飲み込んで堪える。 「……ふっ、ん、ああっ…ひううっ…」 皇かな地肌に手を這わせ、小さな膨らみへと手を伸ばす。途端にアニスの声が身元へ響き、それがより一層先程の胸焼けや疼きを増加させる。今にも勝手に動き出しそうな手に全神経を伝わせながら、そっと壊れ物を扱うかのように指先を、指の腹を、掌を次から次へと様々な場所へと滑らせていった。 「はうぅ…、あっ……大佐…すきで、す…」 その途切れ途切れに高まる声が混じった言葉が耳に辿り着くたび、少しばかり眩暈が起きた。 「アーニス、ほら、起きなさい」 「んうぅ………は、はうあっ!たたた、大佐、今何時ですか?!」 あれから、いつの間にか眠っていたらしい。最初は意識が朦朧としていたものの、すぐに本来の目的を思い出しガバッと一気に体を起こす。ジェイドは全然動じていない普段の涼しげな表情のまま、アニスに落ち着いてと諭した。 「八時ですよ。随分とよく眠っていましたねぇ…」 「すすす、すみませんっ…!あわわ、アニスちゃんとしたことが二度寝してしまうなんてぇっ…!」 明らかに混乱し困り果てて頭をブンブンと回すアニスを可笑しそうに見つめながら、ジェイドはクスクスと笑った。あまりにショックを受けているアニスの手を取り行動を嗜めると、アニスを見下げニッコリと微笑みながら言った。 「ルーク達もまだ帰ってきてませんし、初詣にはまだ間に合いますよ。…今からでも行きますか?」 「え…?」 ジェイドの言葉があまりに想定外のものだったのか、アニスは非常にきょとんとした表情をする。 「アニスが行きたくないなら良いですが。…そうですね、このまま第二ラウンドに突入でも致しますか?」 「わわわわわーっ!!!い、行きます!初詣行きます―――っ!!!」 慌ててそう叫んだアニスを見て、今度はジェイドは先程よりも面白そうに声をあげて笑った。 遅くも初詣に出かけた二人は、その後合流した仲間達に随分と問い詰められたとかなんとか。 辛くも漸く辿り着いき、祈りをする尻目に、自分の大好きなお金とか幸福とかよりも、隣にいる彼の事を思ってしまったのは、まだ心の中の秘密にしておくことにした。 A HAPPY NEW YEAR!! あとがき。 ジェイアニで初詣…というか姫始めネタです。 姫始めという言葉は文中でジェイドがいった通りです。実はコレ拍手で頂いた言葉に入っていたものでした。私はアニスと同じ様に全くこの言葉を知らなかったので調べてみたところ、なんかいい響きだな!と思い書き上げてみました。 でも姫始めが縁起物なのかは分かりませんでしたので、大佐的には縁起がいいということでお願いします(汗 新年早々R指定でいいのかっ…て感じですが、そこはまた愛です。とかいいつつもこれ元日過ぎてから書いたもので…ゲフンゲフン。 こんな話ですが、面白いと思って頂けたら幸いでございますー。 ※この小説に感想を送って下さる方は拍手・またはメールでお願いします。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |