何処までも続く思惑を持った、性質の悪い、細い指先と鋭い赤眼。 嫌になるほどのそれらの動きに、こんなに反応してしまうのはどうしてなんだろう? 悪洒落ゲーム 時計が指すは、昼も数刻過ぎた頃。 上機嫌な声と共に、待望の時間はやってきた。 大人数が一人残らず座れるような、とても大きなテーブルの上に、転々と皿が並べられている。更にその皿の上には、なんだかとてもきらきら輝いて見える、心くすぐる魅惑のお菓子がちょこんと乗っていた。 柔らかいスポンジを真っ白な生クリームでコーティングし、その上に鮮やかな赤色の果実を乗せた、我らがヒロインティア特製の『ケーキ』だった。 煌いて見えるそれを、更にきらきらと潤めく瞳をして見ているのは、ツインテールの少女アニス。 「きゃわ〜〜〜〜ん♪すっごい、美味しそ〜〜〜う♪」 目の前の光景に、思わずそんな声をあげている。無理もない。とても綺麗に作られたそれは、誰が見ても口の中に広がるケーキ特有の風味を思い出して心躍らせるものだ。アニスもまたしかり、食べる瞬間を今か今かと待ち続けている。 「ティア、なんでケーキを?」 ガイがふとティアにそう問うと、ティアは微笑ながら答えた。 「昨日、ルークやアニスが甘いものを食べたい、って言ってたから。最近お菓子とか、皆食べてなかっただろうし…丁度いいと思って」 「そうでしたの、でも、ティアのケーキが食べられるだなんてとても嬉しいですわ」 ナタリアがそう言ったので、思わずティアは頬を染めて照れた。と、そこでふと、ケーキをキラキラ瞳を輝かせながら見ている二人の存在に気付いて、 「皆、もう食べていいわよ」 そう、ティアがはにかむような笑顔で言った。その瞬間に、ルークとアニスを筆頭に皆は一斉に椅子に座り込む。 「やったーっ、いただきまーす!」 恐らく誰よりもそれを期待していたであろうアニスは、そんな風に一番大きく高い声をあげた。 アニスの次に続くのがルークで、まだ子供っぽさげなところがあるルークも、アニスみたいな声をあげてケーキにかぶりついた。 「う……っま―――!ティア、凄く美味しいよ!」 「る、ルーク…別にそんな」 「本当だって!なぁアニス!」 「うん♪はぁぁ〜…アニスちゃん幸せ…♪」 口の中に広がるケーキの甘さに酔いしれているアニスの表情は、まさに至福。 そんなアニスの真向かいに座るジェイドが、じーっとアニスの顔を見据えていた。あらかたケーキを食べつくしたアニスが、ふとその視線に気付く。 「はれぇ?大佐、何見てるんですかー?」 「いえ。アニス、口元にクリームがついてますよ」 「はうあ!マジですかっ」 言われて初めてアニスは気付いたようで、慌てて口元をごしごしと拭う。場所が分からなくて、とりあえず適当に拭って、もう一度ジェイドに尋ねた。 「とれましたぁー?」 「いいえ、まだですね」 「えぇ〜」 まだとれていなかったとは、なんと不覚。もう一度アニスはごしごしと拭うが、未だそれはとれなくて、ジェイドは思わずクスクスと笑い始めた。 「ま、だですか〜」 「はい」 暫くそんなやり取りをしていたが、アニスがじれったくてしょうがなくなってきたようだ。声色、というか呻きが濁ってくる。そこで漸く、ジェイドはすっとアニスの方に手を伸ばした。 テーブルを挟んでいるといっても、ジェイドの長い手はアニスの頬に十分に届いた。指先をつっ、と伝わせて、アニスの頬に残るクリームを掬い取る。そして自分のもとへと手を戻すと、ぺろりとそのクリームを舐めてしまった。 ジェイドのその行動に、アニスの顔がなんだか少し赤くなった。 自分の口元についていたクリームを食べられるというのは、予想以上…というか予想したこともないのだが、全く持って恥ずかしかった。 「甘いですね」 「そ、そりゃ〜ケーキですもん。大佐甘いの駄目でしたっけ?」 「苦手、というわけではありませんが、あまり多いのは」 ちらり、とアニスが視線を落とす。確かにジェイドはほとんどケーキに手をつけていなかった。三角の形をしたケーキのはしっこをちょっと削って食べただけで、それ以外は形を保ったまま。勿論、アニスが大好きな苺も見事に手付かず。 もったいないなぁ、という気持ちがアニスに浮かんできて、思わず目を細める。 ケーキを凝視するアニスの視線に気付いてか、ジェイドはにっこりと笑いながら、皿ごと自分のケーキを差し出した。 「私の残りで宜しければ、差し上げましょうか?」 「はうあっ!ももも勿論でぇーす♪」 やっぱりあげない、といわれてしまう前に、急いでアニスは手を伸ばしてジェイドからケーキを受け取る。なんとか手にとり自らの目の前に置くと、早速ががーっとものの数分で食べつくした。 「早いですねぇ」 「返してとか言われる前に食べないと、大佐何言うか分かりませんので」 「ハハハ、そうですか。私はそんなに性質悪くないんですがねぇ」 「へんっ、何処が悪くないって……」 「何か言いましたかアニース?」 「いいえぇ、なんでもないでーす♪」 笑顔の裏に隠された、言葉の節々が嫌味ったらしい会話を交わす二人。笑顔で毒づくアニスを見て、ジェイドは余裕そうにフッと笑った。 「そんなに言って欲しいなら言ってあげますよ。『返して下さい』とね」 「もぉ食べちゃったから無理ですよぉ〜!」 べーっ、と舌を出して反論するアニス。おまけにまたもや口元にはクリームが、今度はちょっとスポンジつきでついていた。学習しない、とはこういうこと。 ジェイドはその憎たらしい顔がどう歪むのか想像しながら――椅子から僅かに腰をあげ、テーブル越しにアニスを引き寄せた。 「はぇ?」 突然のことに疑問符を浮かべるアニス。しかし、ジェイドは容赦なくアニスの顔を引き寄せ、口元についているクリームを、ぺろりと舌で直接舐めとった。 まるで猫の舌でざらりと舐めあげられたような感覚が走り、しかも目を凝らせば、驚くほど間近にあるジェイドの顔。ぱちくり、と暫く瞳を瞬かせ、…そして数秒開けて、アニスは顔をボッ!と一気に赤面させた。 「た、た、大佐ッ?!」 「全部、とは言っていませんし。これで十分です」 あくまで『ケーキを取り返す為』と主張するジェイド。しかしアニスはそれよりも、ただ舐められた口元を押さえて真っ赤に顔を染め上げた。頬がたまらなく熱くてしょうがない。そんな照れまくるアニスをニヤリとした表情で見据えながら、ジェイドは僅かに舌を出して、まだ僅かに甘味の残る自分の唇を舐めた。 その仕草がなんだか妙に色っぽくて、不覚にも見惚れてしまい、アニスはぶんぶんと必死でその思考を打ち消す。意識を逸らす為に、反論しようとジェイドに詰め寄った。 「だ、だからって、これって…、」 「あぁ。どうせなら口移しの方が良かったですか?」 「え、遠慮しまっす!」 「おや、それは残念。徹底的に取り返してあげようと思いましたのに」 「ちょっ…!大佐止めて下さいよぉ!!」 ジェイドの大胆発言に、ただでさえ赤い顔を更に染め上げながら、アニスは必死に講義した。しかし、それを面白がるようにクスクスとジェイドは笑み、そしていきなりぐいっと再びアニスを引き寄せた。 「止めて欲しい?本当に?」 「う……し、知りません!」 「強情ですねぇ。ただ首を振れば済む事でしょうに」 「う゛〜…」 悔しそうに顔を歪めるアニス。そんなアニスの顎に手を置き、ぐいっと真っ直ぐ自分と顔を向かい合わせるようにしてやって、ジェイドは随分と耳に通る声で言った。 「正直に言ってみなさい。本当はどうして欲しい?」 「………ッ」 鋭い赤眼で見据えられて、まるで金縛りをかけられたみたいにアニスは抵抗出来ない。なんだかじっと見つめられると、麻薬が体に浸透していくみたいに、眩暈がしてきてしまう。とろんと瞳を潤ませながら、アニスはついに呟いた。 「キス……、して、下さい」 「分かりました。可愛い可愛いアニスのお願いに従って」 ニッコリ、と口元を微笑ませて。数秒の隙すら空けないまま、一瞬でジェイドはアニスの口を塞いだ。 「ん……」 口元から広がる、ぴりぴりと甘く痺れる感覚に、激しく酔う。 角度を変え繰り返される接吻、そして徐所に口腔内へと忍び込んでいくジェイドのそれ。絡み合う音と共に口の端から液が這い、そしてどんどん頭がおかしくなってくる。咄嗟に、ジェイドの腕をぎゅうっと掴んだ。 「ふふ。可愛いですね、アニス」 「ふ、ぅ………」 間近で耳に響く、ジェイドの声が頭の中を一杯にするような気がして、ひどくおかしな気分になる。眠気に似たそれに沈むように、アニスはゆっくりと目を伏せた。 「………………。」 真っピンクなハートが幾つも乱舞しそうな、お熱い雰囲気を醸し出す二人を目の前に、硬直して全く動けない四人。 ジェイドがアニスに手を出している…のは鈍感な約二名を覗いてなんとなく分かっていたものの、目の前でこう見せ付けられると、かなりキツイ。と、いうか恥ずかしい。自分たち以外に人がいなくて本当に良かったと思う。 更に、多分アニスは気付いていないのだろうが…多分ジェイドは自分たちがいることを分かってわざとやっているのだろうかた猛烈に性質が悪い。これはもうお茶目どころか愉快犯だ。 「………絶対に俺達を無視してるな、二人共…。」 「……………。」 真面目にこの状況を理解しているガイとティアはただ悩ましげに呻く。が、約二名は違う。 「じじじじジェイドとアニスってあああああーゆー関係だったのか…?!」 「まあ…!二人共、私たちに黙っているだなんて、なんて水くさい…」 「いやツッコミ所違うから、ナタリア」 呆れ返ってガイがビシッと突っ込む。こーゆー時天然な二人を相手にするのは更に悩ましいことだ。ガイとティアがハァー…と深い溜息をつきながら頭を抱えた。 「でもあの二人、親子に間違われたりしないかな?」 「ですわね…でも、私はあの二人を応援しましてよ!愛は何者にも負けませんわ!」 「「いや、だからツッコミ所が違うから」」 ルークとナタリアの的外れな天然会話に、思わずガイとティアが同時に突っ込む。 勿論未だ隣でジェイドとアニスのラブシーンは繰り広げられているわけで。 多分これは、全ての原因、というか全ての首謀者にあたるジェイドの気が変わるまで、随分性質の悪い悪戯は続くのであろう……そんな風に思いながら、更には未だ状況を理解しない天然二人に挟まれ、苦労人二人はもう幾度目かになる溜息をつくのであった。 ちなみに数時間後。 「あぁ、アレですか?勿論、貴方達がいるのを分かってやってましたとも。当然じゃないですか、あっはっはー」 「本気で性質悪いぞ、旦那…………」 こんな会話が交わされ、そして彼の真意を確かめて初めて、漸く悪戯の幕は閉じたのであった。 あとがき。 80000を踏んで下さったチャン様に捧げる小説です。リクエストは「ジェイドに振り回され照れるアニスと被害者の仲間達の日常」でした。 シチュエーションを詳しく指定して下さいましたので、結構すらすらと仕上げる事が出来ました♪…ただその分ちょっとギャグな雰囲気を強く書いてしまったかなぁ、と(笑)。でもそれ以上にジェイアニへの愛が伝われば幸せです。 ちなみに「悪洒落」は「わるじゃれ」と読みます。性質の悪い悪戯、という意味ですが彼のやることなすこといつでも性質悪い(笑)。 チャン様のみお持ち帰りOKです。こんな小説ですが、喜んで頂ければ幸いです。リクエスト本当に有難うございました! ブラウザバックでお戻り下さい。 |