目の前に、まるで壁で隔てられたかのように存在する、数メートルの間。 それを見て、ついに――ナタリア・ムツ・キムラスカ・ランバルディアことナタリアは堪忍袋の緒を切らした。 「ガイッ!!いい加減になさい!!」 これも、あなたのためのこと いきなり放たれたナタリアの怒りの言葉に驚いたのは、ガイ。 ここは町のとある宿屋―――ルークやティアといった他の者達は買出しなどに行った為に、今この部屋にはナタリアとガイの二人だけ。 宿屋の部屋はそう広くはない。寧ろ、少々狭いくらいだ。…そんな狭い部屋の中で、ガイは器用にも、ナタリアが座っている椅子から、この面積を生かしに生かし、数メートルの間を作り出していた。 ナタリアが叫ぶのも、無理はない―――のだが、ガイとしても、この行動は無理はない。 ガイは知る人ぞ知る女性恐怖症。 昔から幼馴染として、ナタリアもそれを知ってはいたが、近づくたびに離れ近づくたびに離れと、そんなことを毎日のようにされていては、流石に気がめいる。そうして、いよいよ今日その我慢が耐え切れなくなった。 「この間は一体なんですの?!」 「いや…その、だから…ナタリアも知ってるだろ?俺が女性恐怖症だって…」 「知っています!でも、いい加減我慢なりませんわ!」 痺れを切らし、ずんずんとナタリアはガイに接近する。ガイはそのナタリアのいきなりの接近にビクッと大袈裟(素)に肩を震わせ、速攻でずささささっと後ろに後退する。しかし、それを許すナタリアではなく、彼が下がれば下がるほど、これでもかと言わんばかりに追いかけた。 そうして数分…この狭い部屋での追いかけっこは、あまりにも愚か過ぎた。 案の定後ろの壁にドンッと背中を当ててしまったガイ。既に逃げ場がない事を、身を持って確信するが――既に遅い。 「な、ナタリア…ちょっと待っ」 「往生際が悪いですわ。覚悟しなさいなガイ」 ひいっ、と思わずそんな恐ろしさに満ち溢れた声を出して、ガイが情けなく壁をずるずると這う。しかしナタリアは彼を逃すつもりは、全く無い。そして彼に追い討ちをかけるように、すっと掌を伸ばす。 「ぎっ…」 ガイの絶叫が響くまで、そうそうに時間はかからなかった。 「これでよろしいですわ。ガイ、文句はないですわよね?」 「……へぇい」 ガイとナタリアは、部屋の中に設置されていた長椅子に二人で腰掛けていた。もはや半死人のようなガイの腕を、ナタリアがしっかりと組んだ状態で。 これはいい加減少しでも女性に慣れる為の努力をすべきというナタリアの提案と、彼が逃げないようにするため。ナタリアとしてはただそれだけのつもりだったが、これすらガイには地獄に感じるのか、目が明後日の方向を向き、腕は恐怖を形にするようにがたがたと小刻みに震え、力なく開いたままの口からは今にもエクトプラズムが出てきそうな勢いである。 そんなガイが近くにいることでストレスは解消されたのか、ナタリアは呑気に読書を始めていた。片手は組みながらだというのになんとも器用なことである。 暫くして、ガイもようやく少しはマシになってきたのか、目に生気を取り戻した。 ふとナタリアの方を見やると、そこには読書をしているナタリアの姿。 何を読んでるのか、と思い視線をずらして―――ようやく、気がついた。 腕が組まれているために、彼女が本のページをめくる度に―――肱あたりが、彼女の胸元あたりを擦れる。 一気にガイの中で、それに対しての赤面と……女性恐怖症であるが故の多大なる恐怖感が、同時に脳内を激しく渦巻いた。 「なっ、なっ、なっ、ナタリア……!!」 「あら。ようやく意識を取り戻したようですわね」 ナタリアはこの事に全く気がついていないようだった。 だからこそ余計にガイの精神を煽り――なんとかして、この腕を離そうと思った。 しかし、腕が離れることを瞬時的に理解したナタリアは、それをさせまいと、余計に強くぎゅっとガイの腕を掴む。 「逃げるおつもりですか、ガイ?!」 「ち、違いますよ!兎に角この腕を離してくださ…」 「なりませんわ!!」 ナタリアの強い言葉…いや、命令に言葉をなくし、ガイは言葉を詰まらせる。 それに納得したのか、ナタリアは懸命な表情を解き、安堵したかのような表情でガイを見上げる。 ほぼ、反射的に――ガイは、ナタリアを見てしまった。 これが俗に言う「上目遣い」ということを初めて知った――最も、彼女は全くその気はないが。 しかし、ただでさえ女性恐怖症であるガイに、それはあまりにも新鮮であり…、しかも、あまりにも免疫がなさすぎた。瞬間、一気に頬が紅潮し、ガイの全身がカタカタと震えだす。そして、次の瞬間。 「うわっ……!」 そんな声を出して、ガイはナタリアに組まされていた腕を素早く解いた。 解いてしまってから、それがどれだけ失礼なことだったか、ガイは気がついた。 まずい、そんなことを思いながら、バッとガイはナタリアの方を見た。 案の定、ナタリアは顔を下に俯かせ、いかにも落ち込んでいるようだった。 兎に角なんとかせねば―――と思って、ガイはぱん!と両手を目の前に合わせ、いかにも申し訳ないと主張するように深々と頭を下げた。 「わ、悪かった…!反射的とはいえ、失礼なことを……」 言ったはいいが、一向にナタリアの反応はない。 頃合を見計らって、そーっと片目を開き目の前の様子を窺うと、まだナタリアは下に俯いたままだ。…これはかなりヤバイ…!とガイは確信したのか、慌ててナタリアに近づいてもう一度謝罪しようとした。…が、その言葉は発することが出来なかった。 言葉を発するより先に、再び、片腕をぎゅうっとつかまれた。 「―――ッッ?!!」 「その言葉、本当ですわね?嘘だったなら容赦しませんわよ」 ……どうやら彼女のあの落ち込みようは演技だったようだ。 いきなりの出来事にまたもやガイの女性恐怖症が再発しそうになるが、ようやく再び捕まえた片腕をナタリアが離すわけがない。どれほど抵抗しようが、その腕はしっかりとナタリアにつかまれたままだ。 「ナタリア……ほんと、止め……」 「なりませんわ。私は、あなたの女性恐怖症を治す…いわゆる、手助けをしているのですわよ。私の好意を無駄にするなんてことはありませんわよね、ガイ?」 「勘弁してくれぇ……」 こんなことになるのだったら、最初から少しは我慢してあの間を少しでも埋めて置けばよかったな、とガイは後悔した。かなり今更なので、生憎その想いは叶うことはなさそうだ。 「これも、あなたの為ですわよ」 「かなりのお節介だぜ……ナタリア…うううっ」 「お黙りなさいな!」 既にかなり生気のない表情と、涙目で解放を訴えるが、この王女には全く通用しなさそうだ。 どうしてそこまでムキになるのか、それが教えられないのならせめて細かい事態に気付いてくれ、と問いたいところだが、その気力すら今のガイには存在していない。…そしてナタリアの方としては、この行動に一切の疑問を持たず鼻歌混じりにご機嫌上々な微笑みを浮かべていた。 「ふふふ。ガイの女性恐怖症は早々に治して頂かないと、私に見込みがございませんものね」 時折彼女が、そんな風に一人ぼそりと呟いていたが、それはガイの耳に届くことはなかった。 そうして、ほぼ強引な感じのまま、ルーク達が帰ってくるまでガイとナタリアは腕を組んだままだったそうだ。 彼女から見ればスキンシップをしているように感じられても、ガイから見ればかなりの試練で、そして仲間達から見れば何かの漫才の末のようなものに見えてならなかったらしい。 それ以来、度々リハビリの一貫だとかと、ガイの雄叫びが聞こえてきたが、仲間達はまたやっているなーと他人事の様に面白おかしく笑ったそうだが、果たしてガイの恐怖症がマシになったのかどうかはさだかではないという。 「こら!ガイ、脱走なんて許しませんことよ?!お待ちなさいな!!」 「やっぱり女性は…苦手だ〜〜〜〜っっ!!!」 どうやらガイのリハビリは永くかかりそうだ。 あとがき。 ガイナタ…というか、ナタリア→ガイ的な小説に仕上がってしまいました。 ガイの女性恐怖症をナタリアは一度は治してやろうと精を出すと思います。でも結局、逆に悪化させそうな勢いですね(笑)。勿論そのイメージで描きましたよ(笑 宜しければ楽しんで頂けましたら幸いです。。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |