「おはようございます、ヒルダさん」 「ああ……おはよう、アニー…………」 明るく微笑んで挨拶をするアニーとは裏腹、真っ青な顔色をし、体を自分で支えきれず、いかにも調子の悪そうなヒルダに、思わずアニーは慌てて駆け寄る。 「ひ、ヒルダさん、どうしたんですか?!もしかして病気…」 「違うわよ!大丈夫だから、心配しない…で………」 声が小さくなっていくと同時に、ヒルダの体はぐらりと傾き、バターン!と鈍い音を立てて倒れこんだ。 「ヒルダさんっ?!」 耳の奥の遠いところで、アニーの声が聞こえたようなきがしたけれど…すぐに、何も聞こえなくなり、ついにヒルダは意識を失った…。 あたたかなもの ぱちっ、と瞼の開く音がして、ヒルダは眼を覚ました。 体が重くてだるい。ちょっと動いただけで、頭がズキンと痛んだ。それらになんとか堪えて起き上がると、ぼーっとする目で周りを見渡した。よくよく考えて、ここは自分に分け与えられた部屋だ、という答えに辿り着いた。 「………私、なんで寝て……」 「風邪こじらして倒れたからだぜ」 「ふーん………。って、ッッッ?!」 いきなり横から聞こえた声に驚き、ヒルダはこれでもかと云うふうに引き下がった。 「な、な、なんでアンタがここにいるのよ、ティトレイ!」 声の主の正体はティトレイだった。思わず彼に向かって、怒りと戸惑いとを含めた声で、ヒルダは叫ぶ。相手は既に慣れているみたいで、さして驚きもせず、寧ろ楽しそうに微笑んでいた。 「看病だよ」 「アンタの看病なんかいらないわ」 彼の言葉を、ものの数秒でさらりと拒否するヒルダ。けれどティトレイはそれでも動じない。まだ、にこにこと笑顔を保ったままだ。拒否されてもここまでマイペースでいられる者を、ヒルダはそうそう知らない。だからこそこんなにも苦戦するのだ、と思い、ハァ、と溜息をついた。 「……看病なんかいらないって言ったの、聞こえたでしょ?さっさと出て行ってよ」 「でも俺、アニーにヒルダ見ててくれって頼まれたから」 「それでもいらないものはいらないの!」 「そうかぁ〜?俺がいた方が得すること、いっぱいあるぜ〜?」 まるで人の心の中に土足で入り込むみたいな上目遣いで、ティトレイはヒルダを見上げた。ヒルダは負けじと睨み返す。 「…………あんたにそんなのあるの?」 「ひっでぇな!あるだろ?この一流料理人ティトレイが、ヒルダのために栄養たっぷりのスープ作ってやるとか、俺のあつ〜い視線で見守っててやるとか……」 「後の方は絶対いらない」 「わーひっでぇ……」 きっぱりと拒否されて、これは流石にティトレイは落ち込んだようだった。数秒頬っておいても、復活する素振りを見せなかったので、流石に今のは言いすぎたか、と思い、渋々ながらもティトレイに近寄った。 「……………ほら。一流料理人が病人の為にスープを作ってくれるんじゃなかったの?」 そう呼びかけた瞬間、ティトレイがぱぁぁ、と太陽のような表情で微笑んだ。 「おう、勿論だぜ!じゃ、俺早速作ってくるなー!」 いきなり上機嫌になった彼は、スキップを踏むような足取りで部屋を出てキッチンに向かって走り出した。本当にアイツは単純でバカね、とヒルダは呆れたような表情で彼を見送っていた。 「ヒ〜ルダ〜!ティトレイ特製栄養満点スープ、おまちどおさ〜ん!」 数十分して、ティトレイが戻ってきた。片手にはトレイが握られており、その上には勿論、彼曰くスープが乗っかっている。ほこほこと、いかにも暖かそうな湯気がたっていた。 熱いうちに飲めよ、と言って、早速ティトレイはそれをヒルダに差し出した。 「……一応お礼は言っておくわ」 「ままま、礼なんていらねぇよ!俺とヒルダの仲じゃねぇか」 どんな仲よ、と心の中でツッコミを入れながら、ヒルダはスープを口へと運ぶ。スープ独特の、まったりとした食感が口腔内にじんわりと広がった。自称・天才料理人と呼ぶだけはある。やがて完食し、ごちそうさまと呟きながら皿を横の机に置く。 そして、ちらり、と横目でその料理人を見ると、ドキドキと、いかにも期待に膨らんだような顔で此方を一心に見つめている。そんな目で見られると、ヒルダはどんな反応をすればいいのか困惑してしまう。 「…おいしいわよ」 「! ほ、ホントかっ?!」 「嘘ついてどうするのよ」 「そりゃそーだけど、ヒルダが褒めてくれるとか、これ夢じゃねぇよな?!いやったぜー!!」 子供みたいに、ティトレイははしゃぎだした。あんまりにも喜びようがすごいので、なんだか言ったヒルダも恥ずかしくなってくる。 「あんたねぇ…、いい加減そこらへんで止め」 「俺、マジで嬉しいぜ!有難うなヒルダ―――!」 「?!!」 止めときなさい、と注意するよりも早く、それを遮るように、ティトレイはヒルダにがばっ!と抱きついた。 風邪で熱があるのとは、はたまた別の意味で、顔がカァー…ッと赤くなっていく。 「や、やめて、ティトレイ……風邪が移るわ」 控えめに抵抗するヒルダの腕を、あっさりと胸板の中に収め、まるごとティトレイは抱きしめる。ヒルダが熱のせいでよく頭が回っていないのをいいことに、ティトレイの行動は悪化していった。 体が熱いせいか、しっとりと汗ばんだヒルダの首に顔を埋め、辿り着いた先のうなじに口付けをした。途端に、ヒルダの体がビクッ!と跳ねた。 「ちょっ…!止めなさい、ティトレイ!」 「だって嬉しいんだもんよ、止まらねぇって」 まるでお構いなしのティトレイは、ヒルダの両手を掴むと、あっさりと彼女の体をベッドに押し倒す。 「待っ…」 「待たねえ」 声を遮り、押し倒したヒルダの上に乗っかって、そのままヒルダの口を塞ぐ。すぐにするりと舌を差し入れた。 「ん、む……っ!」 ヒルダの苦しそうな呻き声が漏れる。それでも執拗に舌を絡め、深い深いキスを続けた。やがてもう分の域に達するかともいうぐらいの時に、息が限界になったヒルダが、思い切り咳き込んだ。 「げほっ、げほっ…!」 「あ、悪い、お前風邪ひいてるんだったな」 能天気な彼の声に、ギッ!とヒルダはティトレイを睨む。 「分かってるなら離して」 「無理。それに、風邪引いてる時は軽ーく運動した方がいいらしいぜ?丁度いいじゃねぇか」 「なっ……何言ってんのアンタは!」 ヒルダは顔を真っ赤にして俯いた。ふふーん、とティトレイは楽しそうに微笑むと、ヒルダの体をより逃げられないように組み敷いた。 「いーだろ?俺のスタミナも一緒に分けてやるぜー」 「…………それ、何気にセクハラよ……」 「まーな」 そう言ってから、再びティトレイはヒルダにキスを落とした。今度は、掌がヒルダの体に伸び、摩るような手つきで触れ出す。 ヒルダはざわざわと逆立つような感覚が、体の真ん中から湧き上がる感覚に、声を殺して、身を捩る。けれど、それをティトレイは逃がさなかった。寧ろ掌に力を込めて、ヒルダの肌に吸い付くようにして手を這わし、そしてそれは上の方へと伸びていく。柔らかな膨らみに、包むようにしてティトレイの指先が食い込んだ。 「あ……」 這う感覚とは全く違う、れっきとした感覚の波が襲ってきた。思わず出た声を必死で押し殺すが、風邪で体力がまともに残っておらず、すぐに息切れが酷くなる。声の我慢も、そう長くは続かない。 「ふ、ぅ……あ、ティトレっ…」 「もうちょっと、耐えててくれよ」 苦しそうなヒルダを少しでも和らげようと、ティトレイはヒルダの額に手をあて、優しい声色でそう呟いた。ヒルダが控えめに頷くと、彼の手は再び、肌に触れた。長いようですごく短い時間をかけて準備を済ますと、ティトレイが入ってくる。必死に声を押し殺し、波に流されそうになっても、ヒルダは必死に耐えた。 やがて、風邪のせいではない、全く別の、お互い汗が交じり合ったとき、既に頭痛も体のだるさも忘れて、ヒルダは意識を手放した――― あれから一体どのくらい経ったのか、ようやく目を覚ました二人。前のはしゃぎようが嘘の様に、ティトレイがいかにも辛そうな様子で呻いている。 「へーっくしっ!うお…なんか頭がぐらぐらして変な感じだぜ……」 「移ったのよ!だから最初に言ったじゃない」 ベッドに顔を突っ伏していたティトレイが、ゆっくりとヒルダに向かって視線を移す。目がばちっと合った瞬間、いきなりティトレイがにっこりと笑った。 「…な、何よ」 「へへへ、だって、俺は風邪ひいたけど、変わりにヒルダは元気なっただろ?そしたら今度はヒルダに看病して貰えるじゃねぇか」 「?!」 突拍子もない言葉を突きつけられて、ヒルダは赤面した。 「ば、バカじゃないの!私は絶対しないわよ!」 そう叫び、ヒルダはそっぽを向く。しかし、それでもティトレイはにこにこと笑顔のままだった。ヒルダの拒否をものともせず、既に自分の希望が叶う事を肯定しているような、そんな、忌々しく、尚且つ胸をときめかせる笑顔で。 「……………ほんと、バカなんだから……」 溜息をつきつつも、ヒルダは確かに感じた、彼のささやかな温もりと優しさをやんわりと思い浮かべ、再び力なくベッドに突っ伏した。 あとがき。 作品強化期間リクエスト作「R指定で、風邪をひいたヒルダをティトレイが看病」でした。 風邪ネタはカップリング作品を書く上で欠かせないネタの一つですよね。R指定ということもありまして、どんな風に書こうかな……とずーっと悩んでいるうちに、ものすごい完成にまで時間がかかってしまい、申し訳ないです。途中でアビス発売があったのもありますが…。いい加減書けよ、と自分に鞭打ちつつ、ようやく完成した作品です。うう。少しでも喜んで頂ければ幸いです。 兎にも角にも、リクエスト有難うございました! ※この小説に感想を送って下さる方は拍手・またはメールでお願いします。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |