気付けば、とうに、悪夢のシルフィアの宣戦布告から約一ヶ月が経とうとしていた。
アーチャーのシドは、この一ヶ月での、シルフィアと彼女が引き連れている魔物たちに仕掛けられた様々な妨害工作によって、すっかり疲れ果てていた。
本来なら端整なはずの顔立ちが、疲れで目に見えて色艶を失っている。四時間目の終わりのチャイムが鳴ったと同時に、シドは崩れ落ちるように机に顔を突っ伏した。
(疲れた……物凄い、疲れた……)
もはやその切実な疲労により、言葉にもならない。
そんなシドはさておき、他のクラスメイトたちは、意気揚々と昼食を食べる準備をし始めている。机をくっつけあったり、はたまた中庭などに食べに行ったりしている姿が見受けられる。
本当はシドも、誰かと机をくっつけあって昼食を食べたりしたい…のだが。残念ながら、シドには一緒に昼食を食べれるような相手はいなかった。寂しい男である。
(いや、違う…!俺は別に友達がつくれない男じゃない!ただ、シルフィアの嫌がらせに対応するのに必死で、友達づくりを忘れてただけなんだっ!!)
言い訳をすればそういうことなのだが、やっぱり、内心はちょっと寂しい。
心細さに憂鬱になりながら、シドはようやく机から起き上がる。そして、朝買ってきた購買のパンを鞄から取り出すと、席を立った。
(さて、今日も一人寂しい昼食を済ますかな。ハハハ…)
凶室で一人寂しく食べるのは流石にやりきれなくなるので、普段からシドは一人、屋上でこそこそと昼食を取っていた。寂しい自分への皮肉を思いつつ、凶室を出ようとした途端、
「あ、シドくん!」
「リリィ?!」
愛しの幼馴染、リリィに呼び止められ、シドは思わずドキッとした。







BATTLE:2 アウトサイダー







「もしかして、何処かにごはん食べに行くの?ひとり?」
「あ…ああ。特に連れもいないし、適当に屋上にでも行って食おうかと…」
赤面を隠すように、眼鏡のフレームを上げながらシドは言う。こちらを見上げてくるリリィの大きな瞳を真っ直ぐ見るのがなんだか恥ずかしくて、目が泳ぎ気味になってしまう。
「そっかぁ。シドくん、相変わらずお友達つくるのへたなんだね」
「ギクッ…」
ところが痛いところを突かれ、シドは苦しそうに息を詰まらせた。
実は、リリィと一緒に過ごした幼少時代の時も、友達はリリィくらいだった。やはり寂しい男である。
「それでね、わたしは給食なんだけど…良かったら一緒に食べない?」
「! いいのか?! 女友達とかと食べるんじゃ…」
思わぬリリィの誘いに、正直な嬉しさで顔が明るんだが、唯一そこだけがシドは気がかりだった。
「いつもはそうなんだけどね。えっと、クロエちゃんはね、頭が痛いらしくて、白銀くんに付き添ってもらって保健室に行ってるの。アイリスちゃんは、さっきの授業の後片付けを任されたらしくて、さっき先生と行っちゃった」
「そうなのか…、それじゃあ…お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「えへへ、ありがとう、シドくん」
お礼を言うのはこっちの方だ、とシドは思ったが言わず、代わりに優しい微笑みを見せた。彼女のおかげで、今日の昼食は初めて楽しい時間になりそうだ。






「ねえ、シドくん。シドくんはお昼ごはん、それで足りるの?」
「え?」
凶室で、二人で昼食をとっていると、リリィが唐突にそんなことを言い出した。
シドは、自分の購買のパンと、リリィの給食とを交互に見据える。確かに、傍から見れば量的にも栄養的にも事足りなく見えるだろう。
「まあ、足りないっつったら足りないけど…一ヶ月くらいこれだと慣れたな」
「一ヶ月もパンなの?駄目だよ、だからシドくんそんなに細いんだよ〜」
「いや、ははは…。最初はちゃんと俺も給食だったんだよ。事情があってやめちまったけど…」
「そうなんだ…」
ここ魔界邪悪学園の昼食の取り方は、弁当派、給食派、購買派と三つに分かれる。寮に住み込んだばかりのシドには弁当を作る技量がないため、当初は給食の申し込みをしていた。
だがある時、シルフィアのはべらせている魔物の一人・ヴォーレスによって、給食のおかずが激マズおかずに変えられており、思いっきり吐いたことがあるため、やむなく購買のパンを買う日々となったのである……。
「あ、じゃあ、わたしのおかず少し分けてあげるね」
「え?!い、いいってそんな…!」
「だって、パン一個じゃ絶対に栄養足りないもん。はいっ、シドくん」
そう言って、リリィはから揚げをフォークで刺すと、シドの目の前にずずいっと示した。
(ちょ、ちょっと待てよ……これってもしかしなくても、間接キスじゃあ…?!!)
リリィの優しい気遣いに対し、こんな下心を抱いてしまう自分はいけないやつだなと思いつつも、シドは心臓の高鳴りを隠せない。
ドキドキと煩く鳴る鼓動の音とともに、シドは差し出されたから揚げに顔を近付け、控えめに口を開き、そして―――
ぱくっ。
「ウン。ウマイなこりゃ」
「って、ちょっと待てコラぁぁぁぁ!!!」
なんと、シルフィアが横から入ってきて、から揚げを食べてしまった。から揚げも間接キスも同時に奪われたショックで、シドは堪らず、わなわなと体を震わせる。
「あ、シルフィアさん。こんにちは」
「おう、こんにちは。なぁリリィ、アタシもお昼混ざっていいカ?」
「はい、いいですよ。ね、シドくんもいいかなぁ?」
「え?! いや、俺は……」
リリィと二人っきりで食べたいのに、と言いかけた途端、
「アタシも混ざってもいい……ヨナ?」
「………ハイ…」
有無言わさぬシルフィアの恐ろしい笑顔で脅され、シドの幸せな昼食タイムは、見事に妨害されることとなった。
(くそっ…シルフィアのやつ!!折角リリィと二人っきりの時間を邪魔しやがって…!!)
シドは、憎らしげにシルフィアを睨みつける。そんなシドの視線を察知したシルフィアは、ニヤリ、とあからさまな含み笑いを浮かべた。
「ナンダ。アタシの弁当をそんなに見つめて……そうだ、少し分けてやろうカ?」
「へっ?!いや、俺は別に弁当見てたわけじゃない!っつーかいらん!!」
「シドくん、ごはん足りないんだし、遠慮せずに分けてもらいなよ」 「で、でもなぁ……」
リリィにまで勧められ、困惑するシド。リリィのなら嬉しいが、正直恋敵のシルフィアにおかずなど分けてもらいたくはない、のだが……。
「アタシの弁当は食べられないってカ……?」
「分けて頂きます」
またもや、あの有無言わさぬ笑顔で脅され、シドはやっぱり抗えなかった。
「ホラよ」
「あ、ああ、どうも…って、………ッッ?!!」
向けられたおかずを凝視し、シドは声にあらない声をあげた。
そのおかずは、えげつない黒紫色をし、怪しい煙をたてながら、うごうごと蠢いていた。しかも時折、ぶしゅううぅと謎の効果音をあげる。食べた瞬間に即ポックリ逝ってしまいそうな雰囲気がバリバリである。
(てんめええ…!これ明らかに今までお前が食ってたおかずじゃないだろ!っつーか食えるかこんなもん!!)
シドが必死に心中で叫ぶが、リリィの手前、逃げる術は無さそうだ。しかも、天然なリリィがこのおかずの危険性に気付いてくれる可能性も皆無である。
「ホラ、早くしろヨ。遠慮せずにさっさと食え」
「ぐぐっ…」
もはやどうにでもなれ、と意を決し、シドが恐る恐るそのおかずを口に含んだ、次の瞬間―――



「っちょ…、悪い…!!俺、急用思い出したから行くなっっ!!!」
「え、シドくん?」
「じゃあまた今度なリリィ――――!!!!」



案の定、とてつもない吐き気と腹痛に襲われ、猛ダッシュでその場から立ち去ることを余儀なくされた。






「っはー……えらい目に遭った……」
結局、シドは、五時間目の授業をまるまる洗面で過ごしてしまった。ようやく吐き気と痛みが止んだので、足元はフラフラだし顔はゲッソリしているが、なんとか凶室に戻ってくることができた。
「お、シド、どこに行ってたんだよ。次は体育だぜ、早く着替えないと遅れるぞ」
「へ? あ、そうだったな…!」
凶室の入り口で偶然はち会った、体操服を身に纏った戦士レヴィンにそう言われ、シドは六時間目が体育だとようやく気付いた。既に自分以外の生屠たちは、皆着替え終わってグラウンドに行ってしまっているようで、凶室にはいない。
急がなければと、慌てて着替え始めたところで、ガラッ、と戸を開ける音が聞こえた。凶室に入ってきたその人物は、侍の白銀だった。いつもの着物姿であったので、まだ自分と同じく着替えていないようだ。
「お、白銀、よーやくお帰りか。クロエはもういいのか?」
「ああ。とりあえず授業には出て来いと言われてな」
「確かに、そうでも言わないとお前、ずっと付き添ってそうだもんな。ホラ、二人共、待っててやるから早く着替えな」
そう言って、レヴィンは腕を組んで机に座り込む。普段ならその行儀の悪さに目がいってしまうところだが、シドは今、別の意味で衝撃を覚えていた。
「……待っててくれるのか?白銀だけじゃなくて…俺も?」
「あ?当たり前だろ」
レヴィンのあっけからんとしたその答えに、シドは、じ〜〜〜ん…と強い感動を受けていた。
「レヴィン…お前…、あ…ありがとな…!」
「は?!っちょ、なんでそんなことでわざわざ礼なんか言うんだよ?!ハズイって、いいから早く着替えろよっ」
涙目で礼を言うシドに、レヴィンは顔を赤くして言い放つ。その様子を見て、白銀はフッと微笑んだ。
「まあ、シドは色々と苦労しているからな。照れずに有難く受け止めてやれ」
「別に照れてねェ!!」
「はははっ…」
その男同士の他愛ないやり取りに参加できたことが、シドはとても嬉しくて、自然と笑みが零れ始めていた。






その後、無事に六時間目の授業に間に合った三人。グラウンドに集まる生屠たちの前に、やがて体育の先生が姿を現した。
「皆さん、本日の授業はドッジボールを行います。……さて、生屠の皆さん。魔界でいうドッジボールとはなんでしょうか?生き残りを賭け、問答無用でボールという名の凶器をぶつけ合う死闘…それはまさにこの悪魔社会を鏡で写しているようなものです!!」
あ。なんか、この言い回し、聞いた覚えがあるかも。っつーか、体育の顧問もしてんですか、アナタ。
この瞬間、生屠全員の心境が一つになった。
「さぁ皆さん、今から好きに試合という名の死闘を繰り広げてください!!より悪魔らしい戦いをした人に成績をあげます!!」
(だぁぁぁ!!薄々予想してたけど、やっぱりこういう展開かよ―――ッッ!!)
今回もご丁寧に、心中で全力のツッコミをするシドだが、やはりさだめは変わらない。ゆらぁ、と彼の面前に、ドッジボールの球(いやなんか見るからに鉛だしドリルとかついちゃってるし改造しまくりですけど)を持ったシルフィアが、黒い笑みを浮かべながら立ちはだかった。
「さァテ。……そーゆーことだから、今日も覚悟シロヨナ?」
「すんません勘弁して下さい」
残念ながら、そんな言葉で許してくれるシルフィアの姉御じゃあないです。
「ヒャッホ―――ッッ!!!」
「ぎゃあああああ!!!」
シルフィアの掛け声と共に、魔物達も一緒になって、シドに改造球を投げつける。
シドは必死の思いで、紙一重でそれらをかわしているが、何せ襲い掛かってくる球の量が半端じゃない。しかも、昼にあんな激マズおかずを食わされた後だ。抵抗する体力は、そもそも、ほとんど残っていなかった。
「っお、お前等っ…一体この改造球を何個持ってやがるんだ……って、うわっ!」
ビシッ!!と球の一つがシドの頬をかすめ、その衝撃で、カシャン、と眼鏡が地の上に落ちてしまった。
シドの視界をが一挙に制限されたと同時に、急激に眩暈を覚えた。堪らず、がくん、とその場に座り込む。
「っうあ…、眼鏡…眼鏡が……っ」
「ククッ…眼鏡が無くなって急に動けなくなったってかァ?それじゃあ的もいいところダナ」
「今のうちに攻撃してしまいましょうッス、シルフィアの姉御!」
「モチロン。さぁ、魔物達、やっちまいな!!」
シルフィアの命令に従って、彼女と共に、ベリト・ジジ・ヴォーレスの魔物三人組が、一斉に改造球を振り被る。
「てめえら、シド一人によってたかって何してんだよ、あ゛ァ?!」
シドが絶体絶命に陥っている光景を目の当たりにしたレヴィンが、怒りを露にして叫ぶ。
だが、白銀は咄嗟に、奮起するレヴィンを制した。
「……待て。シドの様子がおかしい」
「あ?何がおかしいんだ…って、おい…?マジであいつ、どうしちまったんだ…?」
白銀に言われて初めて、レヴィンもまた、シドの尋常でない様子に気付いた。ガタガタと体を痙攣させ、真っ青な顔をして、ひどく苦しそうに肩で息をしている。眼は何も映していないのに、まるで、何かに怯え威嚇する動物のようだ。
そして次の瞬間、シドは―――



「……っう…あああああああッッッ!!!!!」



絶叫をあげると共に、ビシュビシュビシュビシュッッ!!と、高速で弓を射まくったのである。
敵も味方も見境無く、四方八方へ放たれたその矢は、まるで地を叩く横殴りの雨のようだ。当然ながら、グラウンドに散らばった生屠たちを一気にパニックへと陥れた。
「うわっと?!シド、危ねェって!!」
「正気を失っているな…。眼鏡が外れたことで、何らかの錯乱状態になったか…。しかし、この状態では戻してやることも…」
「畜生ッ…俺達じゃどうにもならないってかよッ」
白銀もレヴィンも、自分に来る矢を避けつつ、生屠たちへ向かう矢を落とすのに精一杯で、とてもシドを止める余裕はない。それが痛いほど分かっているからこそ、レヴィンは悔しさで唇を噛み締めた。
「しししシルフィアの姉御!こんな無鉄砲に矢を射られちゃ、オレたちもこのままじゃ危ないッスよー!」
「チッ…シドの奴…チョコザイナ。仕方ないナ、ここは一端撤退して…」
「シドくん!!」
張り詰めたソプラノの声に気付き、シルフィアは慌てて声の発信源を振り返る。その瞬間に、ベリトとシルフィアの横を、リリィが駆け抜けて行った。
「?! リリィ…ッ?!」
シルフィアの声がしても、リリィは脇目も振らず、シドの元へ一直線に走り寄っていく。シドが矢をつがえた一瞬の隙を突き、リリィは一気にシドの頭を自分の胸中へと包み込んだ。
「シドくん、落ち着いて! 大丈夫…大丈夫だよ…、わたしがいるから、怖くないからね……。」
「う…うぅ…」
リリィは、普段の天然で呑気な性格からはまるで想像が出来ぬほど、慈悲深い微笑みを称えていた。リリィが囁きながら、シドの背中を優しく撫でてやっていると、やがてその震えは止んでいった。
「……リリィさん…凄いッス」
「…………」
一連の光景を目撃していた周囲の人たちは、当然ながら、唖然とした表情を崩せずにいる。
シルフィア一向も例外ではなく、ベリトが思わずそんなことをこぼしてしまうと、シルフィアは無言を貫いたまま、グッと掌を握り締めた。






「……あ…リリィ…? 俺は…」
「シドくん、大丈夫? とりあえず、落ち着けるところにいこっか。」
幾つか間を置いて、ようやく正気を取り戻したシドは、リリィに促されるがまま、グラウンドの隅っこへと移動した。
さきの暴走で体温がかなり上昇してしまったらしく、汗が体を伝った感触が気持ち悪い。シドが力なく草原の上に倒れこむと、涼しい風が、頬を撫でていってくれた。
「俺…またやってしまったんだな……。あーあ、折角友達が出来そうだったのに、バカか俺は…」
「白銀くんとレヴィンくんのこと? 大丈夫だよ、二人とも優しいから。皆もそうだよ。心配しなくても、ちゃんと謝れば分かってくれるよ」
「そうだといいんだけどな…。ごめんな。リリィにも、またこんな迷惑をかけてしまって…」
申し訳無さそうにシドが言うと、リリィは、屈託のない微笑みを見せる。
「ううん、気にしないで。それよりも……えへっ、シドくんは全然変わらないね。眼鏡外れるとパニックになっちゃうところも、そのたびにわたしが止めてあげるところも、昔のままだね」
「ぐぅ…、こんな傍迷惑な癖がガキの頃から治らないだなんて…。俺、とんでもなく情けないな…」
「あ、でも、ちゃんと成長してるところもあるよ。ほらっ」
シドが落ち込んでいるのを見兼ねたリリィは、そう言ってシドの手を取り、自分のそれと触れ合わせた。突然の接触に、思わず、シドの心臓がドッキーン!と高鳴った。
「え、り、リリィ?」
「見て……。シドくんの手、わたしのよりとっても大きい。昔はそんなに違わなかったのに。ね、シドくんはちゃんと成長してるでしょ?」
昔と変わってしまった二人の手のひらの大きさと、今も変わらないリリィの笑顔。
それが一緒になって視界に入ってくると、シドはなんだか、まるで彼女に吸い寄せられるかのように見惚れてしまって―――気付いた時には、そっと、彼女と自分の指を交差させて握り締めていた。優しく、されどお互いの体温を確認するかのように、強く―――
「…え……シド…くん?」
「―――あっ…、わ、悪い、リリィ!」
シドは我に返ると、慌ててパッと手を離した。すっかり火照ってしまった顔を隠すように、眼鏡のフレームを押し上げる。それから、おもむろにすっくと立ち上がった。
「えー、えっとー…その、お、俺さ、今から皆に、迷惑かけたこと謝ってくるから!じゃあまたなっ!」
「あ、う、うん……」
シドはリリィに手を振ると、足早に皆の方に向かって駆け出していった。自分が無意識にしでかしたことのバカさ加減に、なんでもいいから口実を作って走り出さなければ、どうにもやりきれなかったのだ。
ぽつん、と一人その場に取り残されたリリィは、暫く、握られた手のひらを見詰めたまま黙っていた。
手のひらに、まだ、触れ合った温もりが残っている。






一方、授業を途中放棄したシルフィアと魔物達は、誰も居いない校舎裏で作戦会議を開いていた。
「いやー…さっきのリリィさん、凄かったッスねぇ…」
「うむ。あの時の彼女はいつになく逞しかった。」
ベリトとヴォーレスが感心したように話していると、突然、ドガッ!!とシルフィアが壁に拳を打ち込んだ。 シルフィアの女性とは思えぬ怪力で壁はベコッと凹み、ひびの隙間から、ぱらぱらと瓦礫の粉が舞い落ちている。その様を見て、ベリトはあわあわと慌て出した。ヴォーレスとジジに関しては大して動じることなく、ひたすら無言でそれを見詰めている。
「……クソッ。どうやらアタシは、シドとリリィの幼馴染の絆を甘く見ていたようダ。あんなリリィの一面をアタシは見た事がナイ…。アタシの知らないリリィを、アイツは知っている…!!」
シルフィアの金色の瞳が妖しく揺らめく。やりきれない憤怒と焦燥の念が、そこに秘められていた。
だが次の瞬間、食い縛られていたはずのシルフィアの口元が緩み、次第にくつくつとした笑みを帯び始めた。
「クククッ……、アハハハハ!!どうやら、アイツはこのアタシを本気にさせてくれたようダナ……!!」
高々としたシルフィアの笑いに賛同するように、ベリトがぴょんぴょん飛び跳ねながら言う。
「おお、流石はシルフィアさんッスー!オレたちも頑張って協力するッスよ!」
「ふむ、なるほど…。これから更に面白くなりそうだな……。」
ヴォーレスもまた、それを愉快の種と捉えたのだろう。重々しく立ち上がり、シルフィアの方へ寄っていく。
徹底的にシドを殲滅する―――その恐ろしい作戦が始まろうとしているようだ。早くも、それぞれがいきり立って咆哮を上げ、その意気込みを頭角に示し始めている。だが、そのうちでジジだけが、至って冷静にその光景を見据えていた。
「……あいつ、これからもっと大変になるな。せいぜい生きているといいが。……だがもしも、それでもあいつが諦めないってんなら……俺の計画に、少なからず使用価値を見込めるってことか」
一見可愛らしいその風貌に、ジジは、密かに妖しげな微笑みを浮かべた。



愛、憎しみ、そして謀略。三角関係から始まった彼等の物語に、更なる思惑が交錯する。
勝者の行方は、まだ知れない―――










あとがき。
アチャ♂×アチャ♀×魔物使い小説、第二回戦!(笑)
いやはや、なんだか、今回も相変わらずシド君が大分可哀相でしたね。食中毒になるし暴走するし(笑) やっぱり虐め甲斐のある子です。(ひでぇ
今回の話は、少しずつ三人の心境が変化してくる重要な中間部分です。次回あたりから、恐らく、この三角関係が更に予期せぬ方向にいっちゃうかもしれません。どうぞ次回も楽しみにしてやってください。
それでは、この辺で。また次回作でお会い致しましょう。



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