「…っう、あ」



気だるい熱さに、意識が朦朧としてくる。
頭が霞がかって、白い世界が視界の端をフウッとちらついた。
それでも、尚見失わないのは。
貴方の贈る、火傷してしまいそうな程の、温もりと……











最初は、ただの好奇心で。
コン、コン、と。
目の前に立ち塞がる大きなドアを、乾いたノック音を立てて叩いた。
すぐにカチャリと開くその奥から出てきたのは、鈍い金髪の、驚くほどさらりと滑らかな、髪。そして、ぎらりと怪しく光る、眼鏡のレンズの逆光。
「たいさ」
「おや。珍しいですね、アニース。貴女が私の部屋に来るだなんて」
か細い声で、呼んでみると。いつものように、憎ったらしいほどの微笑みで、彼は憎ったらしい言葉で私に返した。彼の部屋の中に篭っていた空気が、ドアを通して溢れ出てくる。それは、男性のものとは思えないほど、嫌気のない香りだった。
恐らくはジェイドのつけている香水の匂い。香水と言えば、兎に角煌びやかで、自分の大っ嫌いなお金持ちの女がプンプン匂わしているようなものだという固定観念があるのだが。
彼のそれは、そんな観念を崩してしまうほどに、鼻の先をつんとついてくる。
溢れる香りに意識を向けながら、すました表情でアニスは答えた。
「……べっつにぃ、ただなんとなくです」
「なんとなく、ですか……………こんな時間に?」
時計の針は既に、真夜中の刻を刺している。周りは既に真っ暗で、彼の部屋もまた、机の上の小さな灯りだけが、白くぼうっと光っているだけだった。
「何かあるのでしょうアニス。貴女が私の元に来たからには」
有無言わせないくらい真剣な目つきで、ジェイドはアニスを見下ろした。いや、見下ろすと言うより、睨むと言った方が幾分しっくり来るような気がした。
「睨まないで下さいよぅ。大佐ったらこわぁ〜い」
「おや、これは失礼。こんな夜中に来る非常識なお子様に、ついつい親心が働いてしまったようです」
「大佐は私のパパじゃないですよ?」
「当たり前ですとも。私の子供はこんな生意気ではない良い子に育つと思いますので」
「うっわ、よく言う………」
いつものような、そう、いつものような毒づいた冗談を交わして。
行き成り、ジェイドが黙り込んだのは。
(ああ、そう)
つまりは、いい加減焦らしてないで話せと。そう言うこと。
先程よりも幾分冷ややかな視線が、アニスに突き刺さる。アニスはそれを背く事なく、真っ直ぐに見返した。
「別にそんな眼で見られることなんか。私はただ」
紅い、紅い灼眼が、冷たくアニスの顔を映している。
「気になっただけなんですよ」
恐ろしいほどのそれに、ただ。
気になった、だけ。
「ほお、何を?」
「大佐も、暖かいのかなあって」
「………はい?」
「腕が、胸が、ぬくもりが」
ただ、それだけ。
無造作に彼の手を取り、アニスは彼の部屋にずんずんと入り込む。
ドアをばんっと大きな音を立てて、閉めて、鍵をかけて。何食わぬ顔で、彼の、ジェイドの顔を見上げれば。



「……確かめさせて、下さい?」



小悪魔のように可愛らしく悪戯な、少女の笑顔で微笑んだ。






眼が覚めたのは、日が昇るほんの直前。
予想以上にぐったりと重い体を、無理矢理にごろんと寝転がらせて、隣に眠る彼の方に視線を移す。
「……おはようございます、大佐」
「おはようございますアニス」
前言撤回。既に、起きていたようだ。
「……はうあ。いっつも思うけど、やっぱりした後は体がだるいですねえ…」
「何言ってるんですか、貴女は。先に強請ったのは其方の方でしょうに。……で、分かったんですか、貴女の気にしていた事は。」
「ああ、それですかあ」
ばふっ、とアニスは思いっきり大の字になって仰向けに寝転んだ。
「…………恥ずかしくて思い出せません」
「おや、それは残念でしたねえ。なんならもう一度確かめさせてあげましょうか」
「ぎゃっ、も、もお十分ですよっ」
ぎしり、と再びアニスの上に乗っかろうとしたジェイドから逃げるように、アニスは布団を頭の上まで被って潜った。
「ははは。冗談ですよ」
「〜〜〜〜っ」
見えないけれど、きっとこの布団の向こうで彼は楽しそうに笑っているのだと用意に想像がついて、アニスは顔を赤らめたまま悔しそうに布団を握った。
いや。赤いのは。なんだか体が熱いのは、悔しいからでも、布団に潜っているからでも、なくて。
確かに感じた、このひとの温もり。
熱くて熱くて、逆上せてしまいそうなほどに、それは。
(………暖かい)
恥ずかしいから分からない、だなんて嘘だ。
本当は、あんな冷たい眼の人でも、そのぬくもりは温かく自分を包んでくれるのかどうか。
ただ、好奇心の一貫の様にそう考えただけなのに。
予想外に躯に篭る余熱は、ぐるぐると渦まいて、何も身につけていない肌をも、芯からじんわりと暖めてくれている。
(………このひとは、冷たくなんかない)
確かな『生』の意識を感じて、アニスはそのまま目を瞑って息をついた。
微熱を帯びた躯は、まだ冷める事を知らないようだ。










あとがき。
久し振りのジェイアニ小説です。ま、またR指定ですみま せ ん……(ガタガタ)
短くしたかったので途中描写はぬかしました(絶対入れたら長くなるので)。故にかなーりぬるめになっておりますが、その辺はご了承下さいませ。
それでは、ここまで読んで下さって有難うございました。



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