ディスガイア番外編 バレンタイン記念 ラハール×エトナSSS





2月14日―――巷でいう、セント・ヴァレンタインの今日。
ラハール支配する魔界でも、本来魔界にはない習慣であったが、人間界から来たラハールの母や、ゴードン達によって、『バレンタインに意中の男性にチョコレートを贈る』という習慣が見事に色づいていた。
勿論、当然の如く女性達は、勇んでチョコレートを準備していた。その熱気が厨房を通り過ぎてそこ等一帯にひしひしと伝わってくる。


「はーぁ…みんな、頑張るわねぇ」


しかし、そんな女性陣の中に入っていない少女が、ここに一人。
ラハールの第一の家来、エトナである。
厨房から響く、歓声やら、どたばたという騒音やらそんなものを聞きながら、もう一度溜息をついた。
ふと、そうしているうちに、厨房から、いち早くチョコレートを完成させた女性達が、一刻も早く相手に渡そうと飛び出てきた。
真っ直ぐに、先刻待ち合わせをしたらしい場所にわき目も振らずに向かっていく。
チラリ、と右横に視線をやると、そこにはラハールの弟子の中でも一番のバカップルと名高い、戦士ルーカスと僧侶レイラの姿があった。
「ルーカス、ごめんなさい、待たせてしまって……」
「いや、いいよ、俺も今来たばかりだから」
「それでね、ルーカス。……これ、あなたに貰って欲しいの」
「え?俺に?」
「ええ。バレンタインのチョコレート。あなたのことを想って頑張って作ってみたの…お、美味しくないかもしれないけど…貰ってくれる…?」
「当たり前じゃないか!レイラのチョコを貰わないわけないだろ!」
屈託のない笑顔でルーカスはチョコレートを受け取り、その場でチョコをひとつ摘んで口に含んだ。
「うん、うまい!流石レイラだな!」
「そ、そんなことないわ…、でも、ひょっとしてルーカスのことを想って作ったから、美味しくできたのかしら」
「きっとそうだよ、レイラ、有難う」
「ルーカス…」
お互いどちらともなく寄り添い、あつ〜い抱擁を交わすルーカスとレイラ。
口から砂糖を吐いてしまいそうな程の熱々っぷりに、思わずエトナは、げぇ、と思いながら目を逸らした。
と、逆方向を向いた瞬間、今度はストライダーのゼーベックことゼーゼーと、女盗賊シャロンの姿が目に入る。
「ゼーゼーは〜〜ん!ちょっと待ってぇな!」
「シャロン?なんだよ、そんな息切らして」
「実はな、ゼーゼーはんにこれを受け取って欲しいんや!」
急いで息を整えると、ニカッと笑って、シャロンはゼーゼーの前にずいっとチョコを差し出す。一瞬ゼーゼーはなんのことだか分からずに硬直していたが、1,2,3と間を置いて。今日がバレンタインだということを思い起こし、マジかよ?!と心の中で叫んだ。
「え、こ、これ俺に…?!シャロンが?!」
「えー、なんやその仰天顔はー。折角ウチがゼーゼーはんに日頃の礼の意味も込めてチョコ贈ったっていうんのに…」
「あ、お礼ね…なんだ、そっか」
うん、まさかな、そんな筈ないな。と思わず抱いてしまった淡〜い期待を振り払い、ゼーゼーは改めてチョコを受け取る。
「ありがとな」
「ええんよ、礼なんてー。それよりもな、食べる時は十分気をつけてぇな?」
「は?それどういう意味だよ?」
「ジョゼはんとグロリアはんの提案でなー、"ゼーゼーにチョコ作るんだったらロシアンチョコレートにするのがいい!"って言われたんや。てなわけで、どれか一個ワサビたっぷり入っとるから〜」
「はぁ―――――?!!!お、俺を殺す気か―――――?!!!!」
そんな訳の分からない指示を出す二人も二人だが、本当に実行してしまうシャロンも、ノリがいいというか、口車に乗せられやすいというか……。
まさか食べない訳にもいかず(意外と乙女なシャロンは押し返したらきっと泣くだろうし…)、勿論この後、見事にその一個に当たって悶絶するゼーゼーの姿が目撃されることとなる。






「………はぁ…、バレンタインなんか、くっだらない」
意中の人に見事にチョコを渡して上手く行っている(一部あやしいが)周りの様子を遠目で見ながら、思わずエトナは毒づいた。
こういうイベントごとには、本来、進んで興味を持ち参加するエトナなのだが、今回ばかりは違っていた。何分、そのイベントが『意中の人にチョコを贈る』という内容のものだからである。
その相手がいないといえば、嘘になる………が。
皆見たく堂々とチョコを作って、健気に呼び出して、愛の言葉を以て(?)渡す……とか、そんなこっ恥ずかしいことを、エトナが素直に実行出来る筈もなかった。
そんな訳で、こうして先程から高見の見物をしているのだが……どうにも、周囲の様子が癪に障る。苛立ちと小さな後悔が胸の裏に募ってしょうがない。
はぁ、ともう一度大きな溜息をついた。
もう、今日はさっさと寝て過ごしてしまおうか……エトナがそんな考えを巡らせた時。
「あれ?エトナさん、何してるんですか?」
丁度厨房から出てきたフロンと、ばったり鉢合わせてしまった。
「フロンちゃん?あ、フロンちゃんもチョコ作ってたんだ?」
「はいー。皆さんみたいにすぐには渡せないんですけどね」
「あ、そっか……フロンちゃんの渡したい相手は、ここにはいないもんね」
魔界よりも、ずっとずっと高くて、遠い所。天界。其処に住まう、大天使。勿論、此処が魔界だというせいも相成って、そう簡単に会える人ではない。しかし、そんな現実とは裏腹に、フロンはにっこりと笑った。
「でも、どうしても作りたかったんです。それに、中ボスさんにお願いしたら、もう少ししたら大天使さまの所に連れて行って下さるって約束してくれましたから。」
「そっかー、良かったね」
「はい!………それで、エトナさんは、ラハールさんにチョコ渡さないんですか?」
「ぶっ?!ちょ、なんであたしが殿下にチョコ渡さなきゃいけないわけ?!」
唐突なフロンの言葉に、思わずエトナは吹き出し、慌ててそう喚くように叫んだ。
「え?違うんですか?」
「違うわよ!ったく、どこをどうしたらそうなるのかなー…」
ブツブツ、と小言を呟くエトナ。しかし、そんな納得いかなそうな様子とは対照的に、うっすら赤まっている頬を見て、フロンは、ああ、とそれに気付いた。
「ふふふ…エトナさんったら、素直じゃないんですから。あ、そーだ」
ふと思い出し、フロンはごそごそと携帯袋を探ると、そこから何かを取り出してエトナに渡した。
「? 何、これ?」
「さっきローゼンクイーン商会で売ってたチョコですよ。これ、ラハールさんにあげて来て下さい♪」
「は?!な、なんであたしが?!イヤよ!!」
「ダメですよ〜。エトナさんがあげなきゃ意味ないです。」
「それに、それはフロンちゃんが殿下にあげるチョコで……」
「いやいや。これは、わたしがエトナさんにあげるんです。だから、これはエトナさんのものです。そしてこれをラハールさんにあげれば、それはエトナさんがラハールさんにあげたってことになりますから」
「い、意味分かんな……と、兎に角、あたしはあげないからね!」
「分かりました。じゃ、わたしはこれで」
もう一つ、明るくにぱっとフロンは微笑んで、ぽてぽてとどこかに行ってしまった。
取り残されたエトナは、手に持ったチョコレートを凝視して、うぅん、と呻いた。
「今更……、あげられるわけないじゃない」


「何があげられないのだ?」


「で、殿下?!」
突然背後から聞こえたラハールの声に、エトナは吃驚しておのめいた。ラハールはそんな様子もものともせず、苛立つように叫ぶ。
「ええい、なんなんだこの異様な空気は!!朝からずっとだぞ、この浮ついた雰囲気!!」
「ま、まあまあ殿下。今日はバレンタインデーだからしょうがないんですよ」
「ああ、母上やゴードンたちが言っていた、男に女がチョコを渡す記念日とやらか……全く、煩わしい記念日だなぁ」
苛々をいかにも抑えきれない、といった雰囲気を醸し出しているラハールを見て、あ、とエトナは思った。
「………もしかして殿下、今日まだチョコ一個も貰ってません?」
「やかましい!!!」
どうやら図星だったようである。
一界の魔王たる者が、なんとも寂しい仕打ちだ。
そんな、相変わらずというか…同情すべき我らが魔王様を見ていたら、先程までの苛立ちが、不思議と和らぐ気がして。
「…………殿下、どうぞ」
「む?」
なんだか、無性にチョコをあげたくなってしまった。
「どーせ、殿下誰にもチョコ貰ってないんでしょ?だから、可哀想な殿下の為に、このあたしが人肌脱いであげましたよ」
「………ふ、フン!誰もお前からなんぞ貰いたくないわ!毒でも入ってそうだしな!」
「あ、っそ?じゃいらないんですねー」
「だっ!!そ、そこまでは言ってないであろう!!」
慌てて叫び、ラハールは奪い取るようにしてエトナからチョコを受け取った。
「………か、感謝の言葉など、言わんぞ。俺様は悪魔だからな」
「分かってますよ、それくらい。ただ、ホワイトデーは10倍返しってことでお願いしますね♪」
「ぐっ!!……わ、分かった、返せばいいのであろう、返せば!」
お互い毒づきつつも、なんだか、このやり取りが楽しくて。
やっぱり、ラハールが可哀想だったからなんかじゃなく、ただ自分があげたかったからあげたなんて言う風に、本当に素直にはなれなかったけれど。
意外といいかもなぁ、バレンタインって―――と、この日初めてエトナはそう思うようになれたのであった。






おまけ。
「ところで、一体どんなチョコをくれたのだ?」
「あ、正直あたしもどんなのかは分からないんですよね。開けてみて下さい」
「うむ」
びりびり、と乱暴に包装紙を破ると、大きなハート型の箱が出てきた。
ぱこっ、とラハールがその箱の蓋を開けた瞬間――――
「「―――ッ?!」」
ハート型の特大チョコの真ん中に大きく描かれた『愛』の一文字。
当然の如く、ラハールとエトナ、両者は顔を真っ赤にして硬直した。
「な、な、な、な、なんだこれは――――――――!!!!!」
「ししし、知りませんよ!!これあたし選んだんじゃないんですから、マジでッッ!!」



ふ、フロンちゃんのやつぅ、謀ったな〜〜〜…っ!
やっぱりバレンタインなんか下らない、とエトナは強く強く思い起こしましたとさ。










あとがき。
ディスガイアより、ラハール×エトナ・バレンタイン記念SSS。
たまにはディス2メイキングカプ(っつーか侍盗賊)以外にも書いてみようと思い、たまには初心に帰ってラハエトをば、ということでPSPディス嵌まり中の頃にブログ向けに描いたものです。
前半のメイキング達(戦士♂×僧侶♀、ストライダー×盗賊♀)に気力取られてかなり乱暴な仕上がりです…。本当はラミントン様がフロンちゃんにチョコ貰いに魔界まで出向くシーンとかも考えてました。
それでは、ここまで読んで頂き有難う御座いました。



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