魔立邪悪学園の朝は、本日も非常にけたたましかった。
波乱万丈の入学式から数日が経ったにも関わらず、相変わらず騒がしい学校風景が繰り返されている。
今日は一体何が起こるのやら、想像のつかない日々を思いながら、侍の白銀は、自分の自習用ノートに目を通していた。
ノートには、白銀が日々コツコツと励んできた論文や数式や、鍛錬の成果までがずら〜っと書かれている。勉強に精を出す事を知らない他の生屠達にとっては、白銀のこの行為はとんでもなく生真面目な行為に感じられるであろう。現に、自称・白銀のダチである戦士のレヴィンがこのノートをチラ見した時も、一瞬で頭をパンクさせていた。
周囲の驚きおのめく視線にも慣れてきた頃、突然、ぴょこっと目の前に見慣れた少女が顔を出してきた。
「おはよー、白銀!」
「クロエ。ああ、おはよう」
挨拶をしてきたのが、盗賊の少女クロエであると気付いた途端、無表情でノートを見ていた白銀の顔が綻ぶ。
白銀の微笑に、クロエはえへへっと満面の笑顔を返すと、何やら手招きをし、後ろにいた二人の生屠を白銀の目の前に案内した。
「紹介するね、白銀。アーチャーのリリィと、虹魔法使いのアイリスだよ。…クロの友達♪」
「! クロエの友達…」
ピクン、と白銀は反応を示し、リリィとアイリスを見やる。
二人は白銀と目が合うと、控えめに御辞儀をしながら話し出す。
「リリィです、宜しくお願いします。貴方が白銀さんですか?クロエちゃんから、話はよく聞いていました」
「アイリスよ。へ〜ぇ…結構今時のイケメンじゃない。クロエにこんな彼氏がいるなんて、結構やるわねぇ」
「か、彼氏…?!」
アイリスの突拍子もない言葉に、白銀が仰天する。
「んー?違うよ、白銀はクロのお兄ちゃんみたいな人だよ?」
「そうなの?」
ところが、首を傾げるクロエに即座に否定され、白銀は、がっくりと肩を落としたいような、複雑な気分に駆られた。そんな白銀を、アイリスは横目でじーっと見て、一人何かを感じ取ったようだ。ニヤリ、とまだ幼い顔に含み笑いを浮かべている。
「あー…なるほど。じゃあ、そういうことにしておいてあげる」
「………」
白銀は複雑な気持ちと、うっすらとした赤面を振り払うと、再び真面目な顔をして言った。
「……兎にも角にも。クロエと友達になってくれて、礼を言う。…これからもクロエのことを宜しく頼む」
「はい!勿論です!」
「任せてよね」
そんな風に改まって言われると照れちゃうなぁ、とクロエはくすぐったそうに笑った。
まだ学校生活が始まって間もないが、仲の良いクラスメイトが出来るのは、非常にいいことだ。白銀は、心配事が一つ減った事に安堵しながら、穏やかな表情でクロエを見つめていた。
(クロエにも、無事に友達が出来て良かった。このまま、良い方向に進んでくれるといいが……)



「アロ〜〜〜ハ〜〜〜〜♪クラスメイトの皆さん、ごっきげっんよ〜〜〜〜〜う♪」



ガラァッ!!といきなりドアが開いたと同時に、凶室に響き渡る、間抜けそうな甲高い声。
…どうやら、やっぱり、この魔立邪悪学園。スムーズに学校生活を送れるわけがないようであった。







Grandeamoureuse







突然、颯爽と(?)現れたのは、一見、ごく普通の応援師の少女だった。
ただし、異様にテンションは高いご様子であるその応援師は、おもむろに凶壇の上に登って立ち上がると、マイク要らずの大きな声で叫びだした。
「はぁい、元気ですか〜?自称アイドル・サラちゃんのご登場で〜〜〜っす♪みんな拍手〜〜〜っ♪」
「「「………」」」
当然ながら、全員、困惑して沈黙。
どうやら、この応援師はサラという名前で、自らを学園のアイドルであると自己主張しているらしい。自ら説明してくれているので分かりやすい。
「おおっと?みんな、元気がないぞぅ?もう一回きいてみよっかな?みんな、元気ですか〜〜っ?」
それこそ、アイドルさながらな仕草で、再び声援を求めるが、当然また困惑しているクラスメイトたちは、うんともすんとも言えない状態である。
本来ならばここで自分を迎える声援がヒューヒューと飛び交うはずだったのに、皆がずっと沈黙しているのが流石に不服だったのか、サラは頬をぷくぅと無邪気に膨らませた。
「んもう、今日はみんなサラちゃんの可愛さに言葉も出ないのかな?…なんちゃってvきゃっv」
「………」
なんだこの女は……と思わず白銀は呆れ返った。
クロエや、見るからに天然であるリリィは、なんだろうこの人?とただ疑問符を浮かべているだけだったが、アイリスには比較的常識が通じるのか、目を訝しげに細めて、白銀と同じリアクションをしている。
そんな状況が未だに把握出来ていない(する気もないのだろうが)サラは、なにやら勇んで、ビシィッ!とクラスメイトたちを指差した。
「でも、大丈夫!これからはサラちゃんが手取り足取りみんなのことをサラちゃんの親衛隊にしてあげるから♪みんな、覚悟しててね――…って、きゃあ?!!」
狭い凶卓の上でそんなポーズを決めたりするものだから、当然ながら、次の瞬間、サラがぐらりとバランスを崩した。サラの体はそのまま前の方に傾き、ビッタ―――ン!!!と鈍い音を立てて、額から思いっきり落っこちた。
あ……と短い感嘆の声がちらほら呟かれる中、サラはぷるぷる身悶えしながら、むくり、と起き上がる。
ぶつけた額は赤くなり、ひりひりとしていて、いかにも痛そうだ。堪らずサラはその箇所を押さえて、涙目になって呻きだす。
「い、いたぁい…!やだ、もう、サラちゃんのお顔に傷がぁ…!お顔はアイドルの命なのに〜…!」
「……大丈夫か?」
突然、声が振ってくるとともに、目の前に手が差し伸べられ、サラはハッと顔を上げる。するとそこには、白銀がいた。サラのなんとも痛々しい姿を見るに耐えかね、渋々ながら助けに来たのだ。
「…あ、ありがとう……」
サラがおずおずと手を重ねると、白銀はその手を握り締め、グッと一気に引っ張ってサラを立ち上がらせた。
そうして向かい合うと、何故か、サラの頬がピンク色に染まっていた。ドキドキと高鳴る胸を苦しそうに押さえ、ぷるぷると武者震いをし出している。
「はわわわ…!こ、この胸の高鳴り…!もしかして、アナタが…?!」
「…?」
サラの様子がおかしいことに気付いた白銀は、頭に疑問符を浮かべ、首を傾げる。
そんな、何も分かっていない白銀を尻目に、ぐわしっ!!とサラは突然白銀の手を握り締めると、ズイッと攻め寄って叫んだ。
「サラちゃんは、アナタに運命を感じましたッ!!サラちゃんと付き合って下さい!!」
「………は?」
思わず、白銀はぱちくりと目を瞬かせ、間の抜けた声をあげてしまった。
驚愕の反応を示したのは白銀本人だけではなかった。クロエ、リリィ、アイリス、etc…―――ひっくるめて、(自分の世界に入っている)一部を除いた、クラスメイト全員が。
クラス全員の視線が一挙に集まる中、白銀は、思わず視線を泳がせて口篭る。
周囲の好奇の視線と、目の前にいるサラの期待の篭った視線が痛いのも勿論だが、……何より白銀が気になっているのは、自分が守らなければならない、かの少女のことだった。
(……クロエ…)
ちらり、と横目でクロエを見やってみれば、クロエはなんだかよく分かっていない様子で、ただ白銀とサラをじーっと見詰めていた。
白銀は暫く、複雑な心境でクロエを見据えていたが、ついに答えを導き出したのか、真剣な趣でサラの方を見据え返した。
「―――悪いが、俺は貴女と付き合うことはできない」
白銀の出した答えに、ざわっ、と一気にクラス中がどよめき出した。
「ど、どうして?!サラちゃんのことが不満ですか?!」
「そうじゃない。…俺には、やらなければならない使命がある。今はそれが一番大切で、そのことしか考えられない。故に…貴女と付き合う気にはなれそうにない」
そう一息に述べると同時に、白銀は、チラリとクロエの方をもう一度見やった。
今度は、クロエとばちっと目が合って、白銀の言う『そのこと』の意味を理解したのか、クロエはにこっと微笑んだ。
「そ、そんなぁ…。サラちゃんが、フラれちゃった…。……っう、うえええええ〜〜〜んっっ!!」
サラは大ショックを受けたのか、涙をぽろぽろと零しながら、ぱたぱたと走り出してしまった。
「あ〜あ…見事にフッちゃったわねぇ。白銀クンも罪作りな男ねぇ」
「ちょっと、可哀相だったかも……」
アイリスとリリィに指摘され、白銀は、俺にどうしろと…。と口を濁した。
白銀が二人に攻められている最中、突然、ドンッ!!と何かがぶつかりあう鈍い音が凶室に響いた。続いて、どたどたっ、と倒れるような音がし、慌てて皆が音の発信源を見やる。
すると、そこには、先程逃走したはずのサラと、戦士レヴィンが尻餅をついていた。
どうやら、凶室から出ようとしたサラが、丁度凶室に入ろうとしたレヴィンと、出入り口のところでぶつかりあってしまったらしい。
「あいっててて……。てめ、この、何処見て走ってやがんだよ?!」
「ひっ!ご、ごめんなさい…」
傷心のサラにとって、レヴィンのヤンキーじみた怒号が割増し恐ろしいものに感じ取れたのか、体をびくっと震わせて、思わず涙目になってしまう。
その今にも零れ落ちそうな涙に気付いたのか、レヴィンはう゛っ…と口を濁すと、頭を掻きながら立ち上がり、渋々サラに手を差し伸べる。
「あー…なんっつーか、その、俺も悪かった」
ぶっきらぼうなレヴィンの言葉に、サラの心臓がきゅんと高鳴り、みるみるうちに顔が火照っていく。
あ、この展開は。と、身に覚えのある流れに、常識が分かる白銀とアイリスの二人は目を細めた。
「サラちゃんは、アナタに運命を感じましたッ!!サラちゃんと付き合って下さい!!」
嗚呼、やっぱり、一言一句同じ、殺せてないけど殺し文句。
呆れ返る白銀とアイリスを尻目に、当のレヴィンはというと、サラの告白に分かりやすいほどの嫌悪の表情を浮かべている。
「無理。俺、てめぇみたいなチャラい女、大ッ嫌ェなんだわ。」
「がが―――ん!!!」
案の定、女嫌いのレヴィンにバッサリとフラれ、サラは更なる傷心を抱えて、再び逃走してしまった。
「めげないな…あの女も…」
「っつーか、運命感じたら誰でもいいわけ?」
嵐が去ったような感覚に襲われている二人を尻目に、クロエは、うーんと何かを考えていた。
「……あのサラって人、気になるかも」
「何…?!」
「クロエ、本気?!」
突拍子もないクロエの呟きに、白銀とアイリスは仰天する。
「あ、分かる。わたしもあの人のこと気になるの。見てるとなんだか可哀相で…放って置けないっていうのかな?」
「リリィまで…!」
わざわざそんな御節介しなくてもいいのよ、とアイリスは訴えたが、どうやらクロエとリリィを留まらせるには至らないようだ。
「きっと、何かわけがあるんだよ。クロ、ちょっと追いかけて話聞いてみる!」
「わたしも。それじゃ、クロエちゃんとちょっと行って来ますね、白銀さん。また今度」
「あっ、ちょっと待ってよ?!ったく、二人共しょうがないわねぇ…!」
結局、サラを探しに行ってしまったクロエとリリィ。アイリスが慌ててそれを追いかけて行ってしまうと、後には白銀だけがポツンと取り残された。
「……止めて置いた方がいいと思うが。クロエも随分と世話焼きだな。……まあ、俺も人の事を言えた義理ではない、か」
空を掻きながら、白銀はそれだけ、物思いに耽りながら呟いた。
そんな白銀の背後に、一人の魔法剣士が佇んでいた。今の一部始終を思い返すように、暫し無言を貫くと、やがて自らもまた凶室を出て行った。






あれから、凶室から脱兎したサラの姿は、魔立邪悪学園の中庭にあった。
中庭の隅っこにある、怪しい大きな枯れ木の陰で、ちょこんと体育座りをしたまま、動かない。周りにはどす黒いオーラを纏い、いかにも落ち込んだふうである。
「はぁ…。また、フラれちゃった…。一体何処にいるんだろう。サラちゃんの王子様…」
ぼ〜っとした目で、曇り空を見上げてみても、虚しさだけが胸を突いた。そろそろ、フラれた回数も三桁に到達するかもしれない。
アイドルのはずである自分が、どうしてこんな惨めな思いをしなければならないのだろう、と溜息はどうしても止まらなかった。
そんなことを繰り返し考えていると、ふと、中庭の遠くから、三人の少女たちがこちらに息を切らせて走り寄ってくるのが見えた。
「サラ!やっと見つけた〜〜〜!!」
「ほぇ?あなたたち、だぁれ?…あっ、確かさっき凶室にいた…」
微かな記憶から、見覚えのある人達であると判断したサラに、クロエはにこっと微笑みを見せた。
「うん!クロはクロエっていうんだよ。」
「わたしはリリィよ。わたしたち、サラちゃんにちょっと聞きたいことがあって…」
聞きたいこと、と言われた途端、サラは突然すっくと立ち上がり、くねっと妖艶なポーズをとり始めた。
「あっ!な〜るほど!最後まで言われなくても分かったわ!あなたたち、この絶世のアイドル・サラちゃんのファンなのね?!いいわ、なんでも質問には答えてア・ゲ・ル♪ただし、体重とスリーサイズは秘密よ〜ぅ♪」
「いや、違うから。」
「がが―――ん!!じゃあ一体なんなのよぅ?!」
アイリスの痛いツッコミに、サラは逆に問い返した。
「……はぁ。私はアイリス。この子達があなたにちょっと用があるみたいなのよ。早とちりせずに聞いてよね」
アイリスが溜息混じりで、睨みを利かせながら言うと、サラははぁーい…、と肩をすくませた。
「それで、サラちゃんに用って…?」
「うん。サラって、なんであんなに『運命の人』にこだわってるのかなぁ、って思って。」
「……それは…」
クロエにそう言われた途端、フッとサラの表情に影が差した。慌てて、リリィがフォローに入る。
「あ、別に言い難いことだったらいいですから…」
「……ううん。いいわ、教えてあげる。…サラちゃんね、子供の頃から、応援師として厳しく育てられたの。職業上、沢山の人達に囲まれてきたけど、どれも駄目。サラちゃんの踊りや特殊能力にばっかり執着して、誰もサラちゃん自身を見てはくれなかったわ。」
淡々と言うサラの微笑には、先程凶室で振り撒いていたアイドルの笑顔とも、どれとも似つかない哀愁を帯びていた。
この怪しい植物蠢く中庭なんかには、今にも溶けてしまいそうなほどの脆さをサラに感じ、不思議な気分に駆られながら、三人はただ黙って聞いていた。
「そんな時、とある本に出会ったわ。綺麗なお姫様が、運命の王子様に、愛されて護られて、結ばれる話。……感動したわ。あの時から、サラちゃんは運命の王子様を求めるようになったの。本当のサラちゃんを見て、愛してくれる、たった一人の王子様を……」
空を見るサラの眼には、きっとこの曇り空などは映っていない。ココロから夢見ている、自分だけの王子様の面影なのだと、薄々ながら三人は感じ取っていた。
「えへ。馬鹿馬鹿しいよね。今でもそんな作り話に憧れてるなんて…」
恥ずかしげに頭を掻くサラの両手を、クロエは、がっし!!と突然自分のそれで握り締めた。
「そんなことないッ!サラ、凄く素敵だよ!!」
「わたし、感動しちゃいました…!」
「…まぁ、だからってあの即惚れ即アタックはどうかと思うけど。…女の子の永遠の夢としては、悪くないんじゃない?」
三人の瞳に煌いている、真剣な気持ちに、サラは涙が沁みた気がした。
今まで誰も理解してくれなかった、馬鹿な夢物語だと馬鹿にした話を、こんなに真っ直ぐに受け止めてくれたことが、サラにとっては堪らなく嬉しかった。
「……三人とも…、…ありがとう」
礼を言うと、サラはこしこしと目元を拭い、それから空に大きく握り拳を振り翳した。
「ようし!!サラちゃん大ふっかぁ―――つ!!こうなったら、負けじと運命の人を探し回るわよぅ!!」
「お―――っ!クロエも手伝うよ!」
「わたしも、応援しますっ」
「……しょーがないわねぇ。ついてくだけよ」
こうして、四人の『サラの運命の人探し』が大々的に始まった。






Type:アーチャーシドの場合
「……へ?あんたが?この俺に付き合って欲しいって?…」
「はいっ!!是非、サラちゃんの運命の王子様に…!!」
「お、俺は……」
きょろ、とシドは視線を泳がせた。
物心ついた時から、幼馴染のリリィのことばかり見てきたシドにとっては、あまり恋愛経験というものがなかった。
目立たない方だとはいえ、その端整な顔立ちと、常識のある性格から、少なからずモテたことがないわけでもないが……。いかんせんシドはリリィ一筋だ。答えは、既に決まっていた。
(しかし、なんでそこにリリィがいるんだ…?!)
壁の後ろに隠れているリリィ、クロエ、アイリスの姿を凝視して、シドは呻いた。
自分達にしてみれば隠れているつもりなのだろうが、顔が思いっきり出ている為、バレバレである。しかも、何やら両手を絡めて祈っている模様。もしかして、もしかしなくとも、リリィたちはこのサラという女の告白が成就するよう応援しているのだろうか。
(……ハハハ。やっぱ俺、リリィになんとも思われてないのか?)
思わず男泣きしたい衝動に駆られたが、人がいる手前我慢した。
と、そこでふと、シドはリリィ達より更に奥、草陰から此方を睨み見ている視線に気が付いた。
(あ、あれは忌々しいシルフィアッ…!!)
リリィを巡る恋のライバルである魔物使いシルフィアだ。手下の魔物達を引き連れながら、ニヤニヤとした表情で此方を見ている。恐らく、いや絶対に『リリィになんとも想われてなくて残念だったナ?バーカ』とか『いっそこの女と付き合ってリリィの事すっぱり諦めちまえば?』とか思ってほくそ笑んでいるに違いない。
お前の思い通りにさせるか、と歯を食い縛り、シドはサラを振り向いた。
「……すまないが、断らせて貰う。俺には昔からずっと好きな子がいるんだ」
「がが―――ん!!!」
それから、チラリとリリィの方を見てみたが、リリィはサラの告白が失敗したことを一緒に悲しむのに夢中なようで、シドの『ずっと好きな子がいる』宣言には気付いて貰えていないらしい。やはり、シドはちょっとガックリとした。
そして、遠く、草むらの方で、シルフィアは小さく舌打ちをした。
「アンニャロ。…生意気なこと言いやガッテ」
「だ、大丈夫ッスよシルフィアの姉御!リリィさんは全然気付いていないみたいッス!」
「はーん……あの男、本気でやるつもりか。こいつぁ面白いことになりそうだな……」
必死でフォローをしているベリトとは対照的に、ジジは一人、その一見可愛らしい面に、ニヤリと妖しげな笑みを浮かべていた。






Type:ガンナーエルガーの場合
「好きです!サラちゃんと付き合って下さいっっ!!」
「悪いなぁ。俺は音楽にしか興味がないんだ……とりわけ今のお気に入りはアイネ・クライネ・ナハトムジーク。あの清廉された旋律がいい。気が高ぶっている君も一度聴いてみるといい。ココロが洗われるよ」
元・隅っこ同好会、現・音楽部部長を務めるエルガーは、最後尾・窓際・隅っこの席に悠々と座りながら、長たらしくそう語った。その、もはやサラがショックの反応をする隙さえ与えぬエルガーの振る舞いに、サラも、三人もただただ目を丸くして立ち尽くしていた。
「は、はぁ……さいですか……し、失礼しまーす……」
この不思議な人とはあんまり関わらない方がいいかも。そう判断した四人は、早々にその場から離れた。






Type:星ドクロユーリ・侍六合の場合
「あと男の子って誰がいたかな…?そうだ、ユーリくんなんかどう?」
「それと、りっくんもいるよ!」
「あ〜……ごめんなさい。サラちゃん、ショタには興味ないの」
途端、ぬっ、とサラの言葉に過剰反応を示した刀祢が突然割って入ってきた。
「ええ〜〜〜?!!いいのに、ショタ系男子!!見ても触っても抱き締めてもとっても美味しいのよ!!ほら、りく、ナデナデしたげましょうね〜vv」
「ちょ、だ、駄目です、人前では慎んでください刀祢さまっ…!って、うわ、わぷっ!」
問答無用でまたその胸に抱き締められ、六合は苦しそうにぱたぱたする以外出来なくなった。
「あはは、刀祢お姉ちゃんったら相変わらずりっくんと仲良しだねぇ」
「仲良しってレベルじゃないでしょアレは。溺愛よ、溺愛…」
「ねぇ、そういえば、ユーリくんとアイリスって幼馴染なんだよね?…サラちゃんが興味ないって言って安心してる?」
リリィの不意打ちのような言葉に、アイリスの肩がぎくっとし、一瞬で頬が真っ赤に染まりあがった。
「はぁ?!っちょ、な、何言ってるのよリリィ!!泣き虫ユーリなんて、別にどうだって…!!」
「あ、そうだったんだ、じゃあユーリ君がアイリスちゃんの運命の王子様?いいわねぇ〜、サラちゃんも見習わないと〜」
「だから、ちっが―――う!!!」
無意識とはいえ、サラにまでからかわれるようなことを言われ、アイリスは全力で叫んで否定するが、にこにこと微笑む友人たちには、どうやらそれは通じないようであった。






「……めぼしい人には一通りあたってみたけど、結局全部駄目だったね…」
あれから、見事に惨惨惨敗して、人生のどん底上等なほどに落ち込んでいるサラを囲んで、三人はただただ立ちすくんでいた。
戻るところと言えばもう中庭しかなかった。さっきいた所と同じ場所に、サラは全く同じ体育座りをして落ち込んでいる。違うところといえば、先程より暗いオーラが増強しているということだろうか。
「やっぱ、あてずっぽなのがいけなかったんじゃないの?」
そんなアイリスのまともなツッコミも、今のサラには、う゛っと矢印が刺さるような痛みを感じてしまう。アイリスちゃん、とリリィが彼女を窘め、慌ててサラの顔色を窺った。
「サラちゃん、大丈夫…?」
「……。……いいのよ、もう。そろそろ私も現実を見なきゃいけないこと、痛いほど分かったわ。……運命の人なんて、そんなの、やっぱり夢物語。この魔界の何処を探したって、現れるはずないのよね……」
苦しそうに一息で言うと、サラはふらりと立ち上がり、そのまま覚束無い足取りで、何処に行くでもなく、途方もなく、ただなんとなく歩き出した。
サラ、と三人はその後姿を見詰めながら呟いたが、もうその呟きはサラには届かないようだった。
サラが生気のない顔のまま歩いていると、彼女の足元に、いかにも足をとられてしまいそうな蔓が顔を出していた。普通の人ならば、なんてことなく避けて歩くが、今のサラにはそれを避ける余裕はない。そのまま、真っ直ぐに、蔓に足が引っかかりにいく。
「サラ、そこっ、足元危ないよっ?!」
「え?―――きゃあああっっ?!!」
クロエが慌てて叫ぶが、時既に遅し。足をとられたサラは、がくん、とバランスを崩し、体が大きく前に傾く。
転んでしまう、と思い、目をぎゅっと瞑った瞬間―――
「おっと」
「…?!」
落ちたのは、草木蠢く地ではなかった。ぽふん、と暖かい温もりに包まれる感触。恐る恐る目を開けてみれば、そこは柔らかい胸の中で。そっと見上げてみれば、整った顔立ちの、中性的な雰囲気溢れる、魔法剣士の女性と目が合った。
「ちゃんと目の前を見て歩かないと危ないぞ。キティ」
「……キティ…?…っあ、ありがとう…」
始めてこれ程までに美しい女性を見た衝撃。鼓膜を甘く痺れさせるような、女性にしては低い声。それらに夢中になって体を動かせないでいるサラを、そっと抱き起こしながら、その魔法剣士は言った。
「どういたしまして。一応受け止めたつもりだが、怪我はないか?」
「は、はい…その…、あなたは、一体……?」
「私か?私はイセラ。キティのクラスメイトの魔法剣士だよ」
「イセラさん……」
彼女の名前を一語一語確認するように呟きながら、サラは思った。クラスにこんな素敵な人がいたのに、なんで今まで気付かなかったのだろうと。素直にそう思わずにはいられなかった。
淡く頬を火照らせたまま、ぽかんとしているサラを暫し見据えた後、イセラは自然な動作で踵を返した。
「それじゃ、私はこれで失礼するよ。…アイドルもいいが、怪我をしないよう気をつけるんだな。…そのうち、可愛い顔に傷がついたら大変だろう?」
クスッ、と優しく微笑むイセラの表情を見た途端、ドクンッ!とサラの心臓が強烈に高鳴った。
「―――…」
「サラ!大丈夫だった?!」
そこで、漸く三人が追いつく。クロエが声をかけるが、サラは気付いていないのか、ずっとイセラの後姿を見詰めたままだ。
「あのイセラって人、なんだか凄く紳士な人ね。立ち振る舞いといい、喋り方といい…」
「って、あれ?サラちゃん、顔凄く赤いけど…?」
リリィがサラの変化に気付き、そう声をかけたのが、スタートダッシュのスイッチの役割となってしまった。
「―――イセラさぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!!」
「?! っうぁ?!」
サラが突然全速力で走り出したかと思うと、一瞬で、イセラの胴に猪突猛進の如く抱きついた。抱きついた、のだが、あまりに勢いのあるそれはタックルに等しく、イセラはそのままサラに押し倒されたような状態になってしまう。
「っつ…、ど、どうしたんだキティ?いきなり突っ込んできて…」
ぶつけた箇所を摩り、鈍い痛みに顔を顰めて、イセラはむっくりと上半身だけを起き上がらせた。
そんなイセラにお構い無しに、サラは、キラキラとした、満面の笑顔でイセラの手を取り、宣言する。
「イセラさん!!サラちゃんは、たった今、確信しましたっ!!貴女こそが、長年捜し求めた、サラちゃんの運命の王子様であるとっっ!!vv」
突拍子もないサラの告白に、イセラは口を開けたまま唖然とした。
「はぁっ…?!ちょっと待て、王子って…私は女…!」
「ううん、もう、この気持ちに性別なんか関係ないわ!サラちゃんは絶対にイセラさんと結ばれてみせますからっ♪」
漸く我に返って反論したかと思えば、サラはどうにも聞く耳持たず。それどころか、何に感極まったのか、ぎゅうぎゅうと愛のハグを仕掛けだす始末である。
「……じ、冗談だろう…?」
こんな時、どうすればいいのだろう。生涯でこんな事態に陥ったのは何しろ初めてなもので、常識的に考えてどうにも答えが出せないイセラは、ただただ、サラのハグと、おかしな眩暈に襲われていた。



「サラの運命の王子様、見つかったみたいで良かったね♪」
「うん。これで一件落着だね」
「い、一件落着…なのか、な…?まぁ、もぉ、どうでもいっか……」
クロエとリリィが能天気に喜ぶ姿と、イセラがサラに抱き付かれている光景を代わる代わる見比べながら、アイリスは無理矢理常識的思考を片付けた。普通の考えはこの学園では通用しないのだと、なんだか人の惨状を見て習ったような、そんな気分になった。
かくして、本日より、サラのイセラへの猛烈アタックが始まるのは言うまでもない。
また常識人から一人、苦労人が増えてしまったことも、もはや言うまでもない事態である。










あとがき。
以上、魔法剣士×応援師な小説でした。いやむしろ魔法剣士←応援師。
2の時から、魔法剣士を誰かとくっつけて欲しいという要望はかなりありましたのでね。2ではユリエを一人っ子と決めていたのであいかないませんでしたが、3ではついに魔法剣士さんに相手を作りました。それがこんな突拍子もない子との百合カプになってしまいすみません。無論後悔はしておりません(爆笑)
それでは、この辺で。また次回作でお会い致しましょう。



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