美しき花が咲き乱れるのは、春夏秋冬、全ての季節にではない。花が咲くべき季節に、花開くもの。 春に桜が咲くように、 夏に向日葵が咲くように、 秋にコスモスが咲くように。 それが花というものなのよ……と。 冬に咲く花、それはなんぞや? 冬に咲く花 ここはテセアラ、フラノール。一年のほとんどが雪に覆われたこの地域は、今日もまた空には白い雪が降り、そこらかしこに積もっていく。それを朝方一番乗りに踏むのは、子供心をくすぐられるほどに爽快なものだ。…と、ジーニアスはそう思った。 朝方、一人早く目が覚めた為に、ジーニアスはこうして宿を抜け出して散歩に来ていた。雪国の朝方は冷える。いつだか作って貰った、可愛らしく尚且つ暖かい防寒具をきちんと身に付けて、ぬくぬくとした暖かさに浸りながらジーニアスは雪の降る空をただ見ていた。 「……雪…止まないな」 確か、昨日の夜中も雪が降っていた。窓越しに暗い外を見て、その中に映えるように見える白い雪。あの時は吹雪の一歩手前のような、雪がわらわら、ちょこまかと降って来るような感じだった。今のぽつぽつと降って来る雪は…恐らくは止み頃だろう。昼頃には、止むと推測した。 「うう…寒いなあ。戻ろう…」 流石に着込んでいるとはいえ、外の寒さは身に沁みる。動けば幾らかはマシなものの、町の中ではそうはしゃげないだろうし、朝から騒がしくしては誰かが起きる。 来る時に積もっている雪の上につけた足跡を辿るように、宿屋のドアへと戻っていく。音を立てないように、そーっとドアに手を伸ばす。が、それは何故かジーニアスが触れる前にギィ…と開いた。 そしてそこから現れた姿を見て、ジーニアスは思わず頬を蒸気させた。 「ぷ、プレセア?!どうしたのこんな朝早く!」 思わず驚きながらそう聞くと、ドアを閉めながら、プレセアは冷静な声で言った。 「おはようございます、ジーニアス。私は…丁度起きた所で、宿屋の方から裏にある薪を持ってきてと頼まれまして。ジーニアスこそ……」 「ぼ、僕もそんなもんかな。それよりも、一人じゃ大変だし、僕も手伝うよ!」 「でも…」 「いいから、いいから!」 踵を返すと、先程までの寒さは何処へやら、頬の蒸気と共に体中がぽかぽかと暖かい。その流れに任せるまま、小走りで裏の方へとプレセアと共に歩いていった。 やがて半ば雪に埋もれかけた薪を発見し、つけていた手袋で雪を掃ったあと、二人で薪をわけっこして運んで帰る際に、ふとプレセアがジーニアスに言った。 「ジーニアス。そういえば…今度、フラノールでレザレノ・カンパニー提供のイベントがあるらしいですよ」 「え、何それ?!レザレノだからリーガルだよね。何をやるのかなあ…後で聞いて見るよ」 にこっ、と微笑みながら返すと、プレセアもつられたように少しだけ微笑んだ。 上機嫌になったジーニアスは、後でリーガルに聞こうと想いつつも、もしかしたらそのイベントにプレセアを誘ってみれば一緒にデート出来るかなあ、とそんな甘い事を色々考えていた。 ほぼ足取りがステップに変わっているジーニアスを見ながら、プレセアは一人優しく微笑んでいた。 「ねえねえリーガル!今度、レザレノカンパニー提供のイベントをここでやるって本当?」 早速、本日の朝食の際にリーガルにそう聞いてみたジーニアス。すると、隣でそれを聞いたロイドやコレットといった仲間皆も、本当?と期待たっぷりにリーガルにつめよった。 「ああ、本当だ。」 「すっげー!レザレノカンパニーのイベントをフラノールでかあ…なんか楽しそうだな!」 「うん、とっても楽しみだねぇ〜」 ロイドとコレットがそういいかわしている。リフィルもまた、しとやかな声でリーガルに問うた。 「それで…何をやる予定なのかしら?」 「それが……まだ決まっていなくてな。フラノールだから、雪を活用して何か…と色々考えてはいるのだが。よければ、何か希望があれば是非提供を願いたいのだが」 「もっちろん!OKだよ!」 まだ何をやるかわからないというのには少々ガックリきたが、まさかイベントの内容を自分達が決めれるとは思わなかったので、嬉しさあまり皆は一斉に頭をひねり考え始めた。 「そうだ!雪だるま大会とかどうだ?でっけえ雪だるま作った人が勝ちっていうのをさ」 ロイドの意見をゼロスがひらひらと手をふりながら遮断した。 「駄〜目駄目、ロイド君。そんなんは安直すぎるっての。こーゆーのはアレでしょ、アレ。冬の伝統・サンタクロースに変装して女の子を頂き…でひゃひゃひゃひゃvv」 「このアホ神子ッ!!サンタはプレゼントをあげる訳で頂く訳じゃないんだよっ!!だいたい今はクリスマスじゃないだろーがっ!!」 バシコーン!とゼロスの頭をぶったたきながらしいなが叫ぶ。はたまた奇妙な声を出して倒れたゼロス。いつものやりとりなので気にしないことにしながら、話を元に戻す。 「ではこういうのはどうだ…?世界中からより珍しい珍品を持ってきた者が勝利」 「お宝発見会じゃないんだぜ先生…」 「ロイド、貴様は珍品名品の価値がわからないのかッ!」 すっかり遺跡モードに突入したリフィル。ああ、またもや…とジーニアスが頭を抱える。こうなっては治まるまでしばらく待つしかないので、暫くまわりからの目が痛いジーニアスであった。 「…あの……フラノールでは温暖なものがあまりないですよね…それを、取り入れてみてはどうでしょうか?」 プレセアがふいにそう言う。その瞬間、騒いでいた筈の皆が一気に黙り、視線が一斉にプレセアに集まった。その提案が上がってから数秒後、一気にわあっと歓声があがった。 「いいじゃないか!た、例えばどんなものだ?!」 「……花、とか…どうでしょうか」 「わあ〜、凄く良さそうだよ。きっと綺麗だよねえ」 「流石プレセア!すっごく、きききき、きれいだよ!!」 コレットとジーニアス(ジニは赤面しながら)が、プレセアの言葉に賛成する。二人の褒めたてるような言葉に、思わずプレセアは少々赤面した。 「ねえねえ、リーガルこれなら凄くいいんじゃない?!」 「……うむ。しかし、此方に花を持ってくればしおれる可能性が高いな…。いい案なのだが、少々難しいかもしれぬ…」 リーガルが表情に難色を示しながら、そう言った。その言葉を聞くと、先程まではしゃいでいたはずの声が一気に止み、ロイドやコレット、ジーニアスといった特に大きく騒いでいた者達が、ぐっ、と残念そうに喉を詰まらせた。 「……そう、ですか。…それなら、いいです」 プレセアは虚ろな瞳をしながら、そのまま椅子からすいっと降り、部屋に戻っていってしまった。 「プレセア!ぼ、僕追いかけるね!」 「え…ジーニアス!お待ちなさい!」 姉リフィルの静止も聞かずに、ジーニアスはプレセアを追って部屋へと駆け出していった。 部屋の中は、静寂だった。ドアを開けると、窓際にプレセアが立っている。雰囲気から、まるでそこに自分が踏み込むのがいけないような気がして、足音を立てないように部屋にそっと入った。ドアのバタンと閉めた音に、プレセアはジーニアスが来た事に気付いたのか、ハッと此方を向いた。 「……プレセア?ちょっといいかな?」 「ジーニアス……」 彼女に近づいて、彼女が見ていた窓の外を自分も見ながら、プレセアに問いかける。ぐっ、と決意を込めて一度息を呑んでから、声が上ずらない様注意しながら声を出す。 「…あの、プレセアのアイデアは僕は凄く良かったと思うよ!」 一度、彼女はぱちくりと瞳を開く。が、ゆっくりと瞼が下がるに連れて俯くと、細々とした声で言う。 「有難うジーニアス。でも、私はアイデアが駄目になったから落ち込んでいるわけではなくて…」 プレセアは一端言葉を止めた。そして、窓の外に、まだちらちらと降る雪を見つめる。 「……無色の雪と、彩りある花は相容れることが出来ません。だから、恐らくこの町の人は花を見たことがないのだと思います。花を見ることの感動を知らないのだと思います。…だからこそ、相容れないものが…もしも共にいられたら、感動をうむということ。それは素晴らしいことだなと思いました。だから私は……でも、結局は無理なんですね」 そう淡々と話す彼女の表情は、ジーニアスにとって、残念だとかそういうものよりも、感情を知らなかった頃の彼女が「知ることの出来ない感動」を同情し悲しんでいるように感じた。 ジーニアスの心に、なんだかよくわからないけれど…彼女の為に何かしてあげたい。そんな感情が渦巻いた。 「…ごめんなさい。私…」 「プレセア!相容れないものが相容れることだって出来るよ!」 プレセアの言葉を塞ぐように出た彼の言葉に、プレセアは驚いて目を丸くした。しかしかまわずジーニアスは言葉を続ける。 「雪と花が一緒にいられないわけないよ!僕が、僕がなんとかするっ!!」 「あ、ジーニアス?!」 そうタンカを切ると、ジーニアスはいきなり走り出して部屋を出て行った。 (…って、言ったはいいけど…どうしよう) 実は何も考えていなかったなんて今更言えない。 大好きなプレセアの為になにかしたくてたまらなかったとは言え、あの断言は少々早まったかなと今更後悔する。…しかし、自分は約束した以上引き下がる訳には行かない。こうなったらどうにかして、雪と花を相容させる方法を探さねば。 うんうん考えながら歩いているうちに、宿の広間に来てしまった。そこにはロイドやコレットがいて、何やら暖炉の方に向かって何かしているようだ。 「ちょっとロイド、何してるのー?」 「あ、ジーニアス。それがさ、寒くて暖炉に火をつけようと思ったんだけどマッチが切れてて…困ってたんだ」 「それじゃあ僕の魔法でつけてあげるよ。えいっ!」 ファイアーボールの魔法を唱えると、一気に手から焔を出し、暖炉に燃え移らせる。すると一瞬にして暖炉に火がつき、薪を巻き込んで墨にしながら、ごうごうと燃えていった。 「おーあったけー!サンキューなジーニアス」 「ありがと〜、ジーニアスの魔法はやっぱり凄いねえ」 「それほどでもないけどね〜、えへへ〜」 得意になって人差し指をたて、その上に小さな火をくるくると回しながら起こしていると、ふとそれが視界に入る。 (……火……………あ…そうだ!) 頭に電気が走るように、ひらめいた。悩んでいた筈の脳が一気にさっぱりして、体がうずうずしてくる。 「やった!これならいけるよ!ねぇロイド、リーガルは何処っ?!!」 「え?リーガルなら厨房…」 「ありがとっっ!!」 一言そういうと踵を返し、ジーニアスは猛ダッシュで厨房へと駆け出して行った。残されたロイドとコレットとしては、とりあえず、ジーニアスの行動の四六時中が何がなんだか分からずに、数分混乱していたそうだ。 それから数日後、フラノールイベント当日。この日もまた、ちらほらと雪が降る日だった。 ロイド達は暖かな防寒具を身に付け、決してフラノールから出ないという約束の元、それぞれ色々なところに遊びに行っていた。 イベントとだけあって、出店などが出ており、暖かそうな料理が雪景色の中で湯気を出していく。雪降る外で皆と暖かなものを食べるという新鮮さに、ロイド達も町の人たちも多いに楽しんでいた。他にも、可愛らしい電灯がそこらかしこに灯っていたり、町のそこらじゅうでレザレノの人たちが小さな記念品らしきものを配っていたりと、流石レザレノ提供といわんばかりの賑やかさと晴れやかさを醸し出していた。 そんな中、宿屋のすぐ外、一応観光名所としても有名な低めの展望台に、ジーニアスはプレセアを呼び出した。 「ジーニアス。…待たせて、すみません」 「ううん。僕も、今きたとこ」 プレセアは、いつだかジーニアスと共に貰った防寒具を着ている。勿論、ジーニアスも。つまり、今ペアルックでここにまるで恋人同士のような待ち合わせをしていることに、ジーニアスは少しばかり幸せを覚える。 照れながらも色々と――、イベントが成功してよかったねだとか、何か美味しかったものはあったか、などと他愛もない話をした。そのたびにプレセアははにかむような微笑みで答えてくれたし、寒いはずなのに、とても暖かかった。 でも、それでもプレセアは時折、寂しそうな顔をする。 その真意を知っているジーニアスは、ちらちらと、何度も手に持った小さな時計を見返した。 そして、その時計がもう必要なくなった頃に、ジーニアスは、頬を染め、ぎこちないながらも、プレセアの手を取った。 「…ジーニアス?」 「約束したよね。相容れないものが相容れることも出来る。僕がなんとかするって」 なんだかそういうジーニアスが、妙に大人びて見える気がして、プレセアは目を丸くした。 「ホラ、見て!」 ジーニアスに急かされて、指差された祭りの行われている場所の、ただちらほらと雪降るだけの黒い空を見ると―――きらきらと見事に輝いていた筈の沢山のライトが、空に向かって一気に消えていった。完全に真っ暗になった町の情景に、プレセアは息を呑む。そして――― ―――――! 耳を麻痺させるほどに大きな、音が鳴る。 それは、いつだか聞いた覚えのある、夏の音。 ――――眩いばかりの、大きな花火。 「綺麗………」 一番最初に放たれた、一際大きな花火が消えると、今度は幾つも幾つもの小さな花火が、息つく間もなく降り注ぐ。それが目の前に降って来る雪と一緒になって、経験したことなどないほどの暖かな想いが、プレセアの胸の中に溢れかえった。 「ねえ、プレセア。雪と花が一緒にいることだって出来るよ。こんな風に」 「はい…、はい……!」 胸に溢れ帰る思いに、許容量が足りなくて、思わずプレセアの瞳から、一粒だけ涙が頬の上を這っていく。そんな、花火と…降りゆく雪の二つの情景に目が離せないプレセアの横顔を見ながら、ジーニアスは穏やかに微笑んだ。 とる手が、熱い。 冷たかったはずの体が、温かい。 目の前に光る花が、まるで暖めてくれたように……雪の雪原に、一足早い春が来た気がした――― 翌日。朝、まるで週間じみたように早起きをしているジーニアスのところに、プレセアが尋ねてきた。 「ジーニアス。ちょっといいですか」 「何?プレセア」 なんだか頬を染めて、潤んだような瞳をしているプレセアは、上目遣いに答えた。 「…昨日は、有難うございます。私が諦めた事を、叶えてくれて……とっても、嬉しかったです」 返事をする事も忘れて、ジーニアスはプレセアに見惚れていた。 「…ジーニアス?」 「え?!あ、うん!よ、喜んでくれて僕も嬉しいよ!!」 緊張と照れと慌てが混じった為か、異様にハイテンションな返事をしてしまうジーニアス。そんなジーニアスを尻目に、プレセアは一人微笑むと、そっとジーニアスに近づいて。 彼の頬に、そっと、不意打ちのようなキスを。 「…お礼です」 そう、ニッコリと天使のように微笑んで、プレセアは去っていった。 彼女の後ろ姿が見えなくなるまで暫く硬直していたジーニアスは、数分後にようやく我を取り戻すと、第一声。 「いやったああぁぁああああああああ!!!!」 健全な12歳、そのうえ厨房の小さな巨人、ジーニアス・セイジ、大感激。勿論、朝っぱらからのこの絶叫に起きる者は後を絶たず。最初に起きてきて、即座にジーニアスのいる部屋に飛び込んだゼロスが叫ぶ。 「うるせーな!折角しいなとあんなことやこんなことしてウハウハ…vな幸せ満点の夢見てたのに起きちゃったでしょーよ!このチビ、さっさと責任と…」 「このアホ神子―――――ッッッ!!!!」 冬に花が咲いた時、人は、春の予感を感じるよ。 たとえ形は違えども、 この花のつぼみには、きっと、幸せな春の夢が、そっと、咲こうとしているよ……… あとがき。 初、ジニプレ小説です!ヤター! ジニプレは相当前から好きだったのに、何故か全然書いてなかった…orz そんなわけで、ようやく愛を育むことが出来ました!「冬の花」=「冬に花火」と言うネタでした。あはは。 ちょっと分かり難いかな〜、とも想いつつ書かせて頂きました。気に入って下さると幸いです。 それよりも、疑問なんですが冬に花火ってあげていいのかしら……(汗)とにもかくにも、読んで頂き有難うございました!感想などちょちょいと送って下さると嬉しいです。それではお疲れ様でしたv 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