「………シャ〜〜ル〜〜ル〜〜…お前、ちょっとこっち来い」
「にょー?なぁに、閃光?」
「いいからこっち来い」
低く重い声色の閃光に手招きされて、呼ばれた盗賊の少女、シャルルは、能天気にも、何の油断もなく彼の元にぽてぽてと近寄っていった。







悪戯代償







「閃光、一体何のよ…う?」
言いかけた所で、いきなり目の前にずいっと何かを差し出される。
顔に当たるスレスレにまで近づけられたそれを、大きくくりくりした目で追って、それが彼の愛刀・妖刀村正だという事に気付いた。いつもなら大切に腰に引提げている筈のそれは、刀身も抜かれた状態で、赤い刃を惜しみなく輝かせ、太陽の光を眩く反射している。
しかしこれがどうしたのか。首を傾げ、シャルルはこれまた能天気に答える。
「これって、閃光の刀だよね?それがどうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか!!よく見ろ、ここの落書きを…!!」
ビシッ、と鋭く指差された先を見てみれば、そこにはマジックで書かれた落書きの数々。プリニーっぽいような下手糞な落書きから、彼を罵る悪口まで、その形状は様々である。
「何これ、この子供っぽい落書き…………って、あ…」
そう言えば、昨日、彼の刀をこっそり持ち出して、マジックで落書きした記憶があるようなないような。
たった今、昨日の自分の悪行を思い出して、シャルルの顔色が一気に青ざめていく。
「……やっぱりお前か」
「ちちちち、違うよぉー!あ、あたし、こんな変なの知らなーい!」
しどろもどろに否定してみるが、閃光の眼は明らかにシャルルをじとりと見下ろしている。どうやら犯人の予想を一点に絞ったようだ。
「だ、誰かの間違いじゃないの?あ、あたしじゃないよ、あは、あは、あははは…」
「……ほぉ…、じゃあ、ここに書いてある『へっぽこ』って文字は俺の見間違いか…?」
「ぎく」
決定的な証拠を指摘され、思わず猫耳を象った帽子がぴんと張る。不自然な作り笑いが、更に面白おかしく、ぐぎぎっと歪んだ。
「こんなお約束の悪口書くのは、俺の忌々しいあだ名の発案者であるお前くらいなんだよ……なぁ、シャルル…?」
彼の口元は笑ってはいるものの、眼は全く笑っていない。明らかに感じる殺気めいた迫力に、思わずシャルルの腰がたじろぐ。
「ちょ…ちょ、待ってよ、閃光……」
「どうやらお仕置きして欲しいみたいだな?あぁ?」
無遠慮に、スッ、とこっちに伸ばされてくる手を、大きな眼を見開いて、凝視して――――今にも触れられそうになった瞬間、シャルルは咄嗟にがぶりと彼の手に噛み付いた。
「いでっ?!っつ、な、何するんだお前?!」
「それはあたしの台詞だもんっ!ど、どうせまた変なことするんでしょ?!あ、あたし、もうそんなのやだからねっ!!」
いつもならここで無理矢理お仕置きを喰らってしまう所だが、幾度にも渡る経験を経て、シャルルとしても抵抗策を練ってきたようで。シャルルが自分の思い通りにならないのに不服なのか、閃光は小さく舌打ちしながら、噛まれた手のひらを庇うように摩る。
「お前がお仕置きされるような事するから悪いんだろ?なんで俺が噛まれなきゃいけねぇんだよ!」
「いーっだ!絶対絶対、もうあたしはお仕置きなんか受けませんー!」
べーっと舌を出し、威嚇めいた反論を叫んでやると、閃光がヒクッと口元を歪め、前髪を鬱陶しそうに掻きあげたかと思いきや、業を煮やして此方にずんずんと詰め寄ってくる。
「こうなったら、意地でもお仕置きしてやろうか…」
「えっ…ちょっ!」
壁に押し付けられ、逃げ場がないように両手を壁について取り囲まれて、シャルルは自身の危機にぞくりと背筋を凍らせる。
「……シャルル…」
「…い…や」
近づいてくる彼の顔を見ないように背けながら、シャルルは、喉の奥に溜まったものを全て吐き出さん如く、思いつく限りの嫌悪の言葉を喚き散らした。



「やっ、やだやだやだぁっ!!ばかばかばかばか――――!!!閃光なんかだいっきら――――い!!!」



涙目になりながらも、ぽかぽかと彼の胸板を力の限り叩いて抵抗していると―――ふと、自らに圧し掛かかっていた重力が、嘘の様にフッと消え去った。
「…え?」
「………分かった…もういい」
淡々とした、しかし何処か寂しそうな声色で、それだけ短く呟いて…、彼は踵を返し、スタスタと背を向けて去って行ってしまった。
「……閃光………?」
あっと言う間に遠くなっていった彼の姿を、キョトンとした表情でいつまでもシャルルは見つめていた。






「ぶぅ…こんな時に、戦闘だなんて…」
あれから数時間経って、シャルルの姿は、アイテム界のとあるフィールドにあった。
閃光と喧嘩しているという、とても気まずい状況でも、無情にも戦いの時はやって来る。よりにもよって、こんな時に限って、閃光と一緒に戦うハメになったりして。しかも配置は、丁度彼の隣に当たっている。
普段なら背中を合わせて、無邪気に喋り合いながら戦うのだが、今は生憎そんな事も出来ない。閃光との間に、どうしても意識的に空いてしまう間隔に、シャルルは寂しさを隠せない。
(…いつもなら、戦いだって、閃光と一緒だから楽しいのに……今は全然楽しくないや)
寧ろ胸の中に募るのは、罪悪感と酷く重い後悔。何一つ喋らず、ただ刀を構えて敵の到来を待ち構えている閃光の方を、シャルルはチラリと横目で見据える。
彼は全く此方を見ようとしない。
いつもなら、いつもだったら。自分の視線に気付いて、優しい微笑みを返してくれる筈なのに。
今の彼は、まるで自分の事など眼中にないとでも言いたげな、酷く眉を顰めた、凍りついた表情のままだ。
「………」
謝ろうか。
そんな考えがシャルルの脳裏を過ぎり、先程までずっと張っていた見栄が揺らぐ。
謝って、仲直りしてしまった方がいいのかもしれない。そうしたらまた、きっとあの屈託の無い笑顔で、優しく話しかけてくれるだろう。
――だけど、どうやって?どんな風に?
あんな酷い言葉ばかりを、勢いのままにぶつけておいて―――今更、『ごめんね』だなんて、調子が良いのもいいところだ。
(…あたし…、どうすればいいんだろ………)
俯き、一向に解決口の見つからない難問を、シャルルは必死に悩む。
いつもなら小難しい事は、すぐに諦めて投げ捨ててきたが、これだけはどうしても自分で解決せねばならない。
しかし、やはり許容量の少ない自分の頭はすぐにショートし出し、何が何だか分からなくなってきた。慣れない事はするものではない、と改めて思い知らされたような気がした。
「あーもう…いっくら考えても分かんないやぁ…」
思わず、口からそんな本音を漏らしていると―――ふと後ろから、何かに気が付いたらしい、仲間の魔法剣士・ユリエットの焦った声が届く。
「シャルルっ!目の前、危ないっ!!」
「…え?」
言われ、目の前を見据えてみれば、そこには此方に向かって突進して来る、敵の魔物の姿。空を駆り、風を纏い、真っ直ぐにシャルルに襲い掛かる。
「ひゃあぁっ?!」
慌てて横に倒れこみ、なんとか一撃目は避けたが、すぐに再び空を旋回し、魔物は再度シャルルの方へ突撃してくる。先程、転がり込むように避けたせいで、まだ体勢が立て直されていない。剣もいつの間にか手放してしまい、数メートル先に無残に転がっている。



―――まずいっ…、やられる…!!



「――――ッ!!」



咄嗟に、目を固く閉じて、直撃の瞬間を待った。
「……?」
けれど、何故かそれは一向に訪れず―――代わりに感じるのは、何か大きなものに包まれる暖かい感触だけ。
恐る恐る目を開くと、そこには、鋭く斬り裂かれて倒れている、魔物の残骸と、刀を右手に持ったまま、自分を抱き締めている、閃光がいた。
「……せ…ん、こ…………?」
「――…づっ、う……」
閃光が、酷く悲痛な呻き声を洩らす。それに気付いて、彼の背中に腕を回すと、次の瞬間、自分の手のひらに、べっとりと真っ赤な血がついた。
「……こ…れ…?!…そ、んな…閃光……?」
「ぐ……ハァ…ハァッ…、この…アホが…ッ!戦いの最中に、何ボーっとしてんだよ、お前は…!俺がいなかったら、死んでたとこだろうがっ…!」
「…ごめ…んなさ……」
かたかたと震えるシャルルの頬を、閃光は、手のひらで優しく撫でて、何故か嬉しそうに、フッと笑った。
「ハ…、まあ、いいさ…『へっぽこ』な俺でも…お前を守ってやることくらいは…出来たから、な……」
彼の声はどんどん小さくなっていき、最後に、もう自分にしか聞き取れないくらい、小さな声で、それだけ囁いて―――ゆっくりと目を伏せ、シャルルに寄り掛かったまま、閃光はガクッと体を項垂らせた。
「閃光っ…?!や、やだ、やだよぉぉっ!!」
がくがく、と彼の体を必死で揺さ振ってみるが、閃光は全く反応せず、無気力にぐったりとしている。
なのにシャルルの手には、次々と彼の生暖かい血が滲んできて、それと同時に、彼の顔色はどんどん青ざめていく。
「……せ…ん、こ……」
初めて感じる、体中が張り裂けそうなほどの『恐怖』―――
涙声になりながらも、焼けそうな喉の奥から、必死でシャルルは、彼の名を何度も何度も叫ぶ。
「閃光っ、閃光っ、閃光ぉ……!!あ、謝るから…!だ、大嫌いだなんて…、もう二度と言わないからぁっ…!!お願いだから、目を開けてよ、閃光ぉぉぉっ………!!!」






「……く…うっ……?」
鋭く、重苦しい痛さで、朦朧とする意識の中、閃光は漸く目を覚ました。
熱があるのか、頭が酷く熱くて、体全体がひどくだるい。その中でも、彼女を庇って負傷した背中は、焼けるような激しい痛みを奔らせ、指先を少し動かすだけでもきつい。低く呻きながら、人の気配を感じて横を見ると、視界いっぱいに、心配気に此方を見据えて泣きじゃくっているシャルルの姿が見えた。
「せんっ…、閃光っ……?!目、覚めた……?!」
「シャルル…?」
閃光が確かに言葉を発して答えた瞬間、シャルルは感極まって、がばりと閃光に抱きついた。
「閃光っ…せんこぅぅっ…!!よかったぁぁ……!!」
「シャルル…?なんで、泣いてる…俺は、一体…?」
「覚えてないのか、閃光?お前、シャルルを庇って、大怪我して気絶したんだぜ」
丁度隣に居たらしい、マブダチの戦士ルーウェンにそう言われて思い出し、ああ、そういえばそうだったな、と一人頷く。
そこで、どうやら怪我の処置をしてくれたらしい僧侶のクローディアが、ルーウェンの前を強引に掻い潜って、ひょいっと此方の顔色を窺ってくる。
「調子はどう?閃光」
「………まだきつい。俺はどのくらい眠っていた?」
「ざっと半日くらいかしら。私がすぐに回復したから助かったけど、かなり深い傷だったわね、閃光。ヘマするんだったらもうちょっとまともなヘマしてらっしゃい」
「………ぐっ」
痛い所をピンポイントで突かれて、閃光は何も言い返せなかった。
「まあいいわ。治療はちゃんとしておいたし、閃光もしぶといから、暫く安静にしてればすぐ治るでしょう。さ、もう私達は退散するわよ、野蛮人」
「あ?なんでだよ?閃光だってまだ起きたばっかりだろ、皆もこいつの元気な顔見たいだろうし…」
「もうっ、だからあなたは野蛮人なのよ!そういうのは後にしなさい!……一番心配してた子と、ちゃんと話させてあげましょ」
「……あぁ…そっか、そうだな」
閃光とシャルルのみを残して、二人は部屋を出て行った。
しん、と途端に部屋の中が静まり返り、二人の間に沈黙が流れる。ときたま、シャルルの嗚咽が空に響く。まだ泣き止んでいないらしい。
首だけを起き上がらせ、彼女の方を見据える。やはり、肩が小さく震えていた。手を伸ばしてあやしてやりたかったが、どうにも、傷の痛みのせいで上手く腕が動かせない。
「………シャルル、泣くな」
結局、閃光はそんなぶっきらぼうな言葉を囁くことしか出来なかった。
尚もシャルルは泣き声を堪えながら黙り込んでいる。けれど、諦めずに返答を静かに待っていると、徐々に、彼女が小さく呟く声が聞こえてきた。
「…って……、……せい」
「シャルル……?」
「…だって、あたしのっ…あたしのせいじゃんっ!閃光がこんな怪我したの…あ、あたしの…ぜんぶ、ぜんぶ……あたしのせいでっ……!!」
何かがぷつんと切れたように、シャルルは、ぼろぼろとその大きな瞳から涙を流した。惜しみなく溢れた涙は、彼女の頬を伝って、毛布の上に、ぱたぱたと幾重にも落ちていく。
「シャルル、別にこれはお前のせいじゃな」
「あたしのせいだよっ!!あたしが、あんな嘘言ったからいけないんだ…!!閃光のこと、大嫌いだなんて……あんな、ひどいことをっ…!!」
「…!」
どきん、と胸が高鳴る。
それと同時に、とてつもない嬉しさが、胸を内を埋め尽くした。
まだ上手く動かない手を、痛みを堪えて限界まで伸ばす。
そして、バッ!と、一気にシャルルの背まで腕を回し、自分の胸板に引き寄せる。 「せんこ…?!」
「やっと、触れられた……俺が、命を懸けて、守ってやれたものに…」
心からの正直な言葉で、そう囁いてやれば――シャルルはまた、その瞳からとめどない涙を溢れさせる。
「……ばか。ばかばかばか。やっぱり閃光はばかでへっぽこだよっ…ど、どうしてあたしみたいな…こんな、いちばんばかな奴…っ、怪我なんかしてまで……庇ったりなんかしたのぉっ……」
「………アホか。大切だからに決まってるだろ」
涙を指で拭ってやりながら、そう告げて―――そして、拭ってもまだ涙を枯らさない目元に、そっと唇を寄せ、吸いつくように口付ける。
「…ふ」
「もう泣くな。俺は大丈夫だから」
「…うん…、だいすき…だいすきだよ、閃光……」






―――鋭く重苦しい痛みに、視界が朦朧とする。
痛みに堪えるたびに、肌の上に汗を滲ませては、荒い呼吸を繰り返した。
けれど、それでも、もう我慢など出来るわけが無かった。今すぐにでも、愛しいものを自分のものにしたいという欲求。願望。それに執拗に促されて、閃光はシャルルを自分の横になっていたベッドに乗せ、両肩を掴んで押し倒す。
やはり、シャルルはぱちくりと目を瞬かせて驚いた顔をした。
「せ、せんこ……だ、ダメだよ…怪我、ひどくなっちゃうよ…?」
「平気だ。俺は昔、ギプスを装着させられて、何十回も生死の境を彷徨った男だぞ?…それに、一人前の侍ってのは、この位で簡単にくたばらないもんだ」
「うぇ、閃光、自分で一人前の侍って言ってるー…」
「……悪かったな。ちょっと言ってみたかっただけだ」
自分でもやや言うのを躊躇った台詞を、真っ先にツッコまれた事が恥ずかしかったのか、閃光は赤面しながら目を逸らす。その動作がシャルルにはなんだか可愛く思えて、くすくすと思わず微笑んでしまう。
「笑うな!くそっ」
「にゃっ?!…むぐぅっ」
恥ずかしさを紛らわすように、閃光は強引にシャルルの唇を奪う。
「んんっ……ぅ、んっ…だ、だめだよ、閃光…!悪化しちゃうってばぁ!」
「気にするな、俺は平気だって言ってるだろ」
「で、でも…痛そう、だよ……?もしも傷とか残っちゃったら……」
「これは名誉の負傷だ。お前を守れたって証だ。…だから、別に俺は痕になったって構わないんだ。分かったら、もう黙れ」
耳元でそう甘く囁き、再び口付ける。今度は、ひどく優しく。まるで包み込むように。
「ん……ふぅっ、んぐ…はぁ……っ」
口腔内に舌を忍ばせ、深く絡ませる。
「ぷは…ぁ」
名残惜しそうに唇を離すと、今度はそのまま首筋に顔を埋め、舌でセンを沿うようにして、ツゥッと肌を這って行く。
「……はぅ…、う、ぅ……」
シャルルは体を強張らせながら、しかし、いやに大人しくそれを受け入れていた。閃光はそのシャルルの反応に、何処か違和感を覚えた。
「……黙れって言ったのは俺だが、なんだか、今日のお前、妙に大人しいな…?」
いつもなら、最後の最後まで力いっぱい抵抗して暴れやがるのに、と更に付け加えて言うと、シャルルは真っ赤な顔をして此方を見据える。
「だって……閃光に怪我させちゃったの、あたしだから…閃光に、なにか、お礼したくて……」
「…礼……?」
「うん…、だから、今日は…閃光の、好きにしていい…よ……?」
ドクン。
閃光の心臓が、強烈に跳ね上がる。
何度この腕に彼女を抱こうが、彼女は相変わらず純情でマイペースで天真爛漫で、情事に一向に慣れることがなく、何度も閃光は手を焼いて来た。
それがどうだろうか、自分の怪我を心配しながらも、自分の思う通りにして欲しいと、幼い思考ながら、必死にそれを少女は願っている。
据え着食わぬは男の恥。何処の誰が言ったかなんて知らないが、その言葉がピンポイントで閃光の脳内に浮かんだ。
「ああ……好きに、させて貰うぜ……。喧嘩してからずっと、触れられなかった分…たっぷりと、な………」
閃光は嬉しそうにニヤリと微笑み、躊躇うことなく少女と己の体を重ねた。






「―――あいっ……てててててててッッッ!!!!!」
翌日、閃光の部屋から、とんでもなく大きな叫びが響き渡った。
部屋の中を覗いてみると、そこには、閃光の背中の傷の手当てをしているクローディアの姿。
解いた包帯は血塗れ、傷口は開いて、昨日よりも断然酷くなっている。なんとか出血を止めようと、クローディアが速攻で薬を塗っているところなのだが……。
「痛い痛い痛い!!く、クローディアッ…も、もーちょい優しく……いででででで―――!!!」
「五月蝿いわね、あなたみたいなバカな侍に優しくしてあげる義理はないわよ!!」
当然、閃光の感じている痛みは尋常ではない。しかし、暴れられては治療は一向に進まない。
「埒が明かないわ、そこの野蛮人、ちょっと閃光を黙らせて!!」
「はいはい…悪いな、閃光……」
クローディアの命を受けて、ルーウェンは命令通り、手のひらで閃光の口を塞ぎ、ついでに、これ以上暴れないようにと肩を押さえて固定する。
「ふぐぐ…っ、ぐ、ぐぅぅぅぅ―――……ッッ!!!」
叫ぶことも抵抗することも敵わなくなった閃光は、ひたすらにくぐもった悲鳴をあげ、ギブアップの意思表示か、ばんばんと何度もベッドの上を叩きまくった。
「…はい、終わったわよ。今度こそ安静にしなさいね」
「…………はひ…」
漸く治療から解放された閃光は、暴れ疲れたのか、はたまた強烈な痛みを体感したことで気力が滅入ったのか、ぐったりとベッドの上に死んだように突っ伏したまま、ぴくりとも動けないでいる。
クローディアとルーウェンが退室すると、部屋の前で待っていたシャルルとばったり鉢合わせた。
「お、シャルル。閃光なら今治療終わったぜ?……まぁ、暫くまともに起き上がれないだろーけどなぁ……」
ちらり、と扉の向こうでまだ倒れているであろう閃光を見やりながら、ルーウェンはシャルルに言った。
「そ、そう……あは、あはは………」
シャルルは何故か、妙に気まずそうに苦笑している。
「それにしても……、どうして一晩であんなに傷が悪化したのかしら?」
「ぎく」
「……シャルル?もしかしてあなた、何か知ってるのね…?」
「し、知らない、あたしは何にも知らないよ――っっ!!」
クローディアに詰め寄られた途端、やばいと思ったのか、ぴゅ〜っとシャルルは速攻で何処かへ逃げていってしまった。
「…あ、行っちゃったわ」
「なぁ…おい、クローディア…俺、さっきから思ってたんだけどさ…もしかしたら、閃光のやつ…」
先程から、どうやら事情をなんとなく理解していたらしいルーウェンが、クローディアに耳打ちをする。
すると、クローディアの顔が、怒りなのか照れなのか(恐らく両方)、みるみるうちに真っ赤に染め上がり……ぎりぎり、と歯を噛み締めながら、背後に怒りのオーラ…もとい獄炎を、ゴォォォと勢い良く燃え上がらせた。



「――――安静にしてろって言ったのに……あの、超絶バカドS侍……!!!傷が治るまで、シャルルとの面会禁止ッッ!!!身の程を思い知らせてやるわッッッ!!!」



皆の無事を祈る僧侶、クローディアに、怪我を負っていながらに行為に臨んだと知られてしまえば、それは、例え懺悔しようとも、非常に罪深い。
「…………ご愁傷様、閃光……」
これから、怪我が完治するまで、見事に罰を受けるであろうマブダチに同情しながら、ルーウェンは呆れ帰って溜息をついた。










あとがき。
以上、侍×盗賊小説でした。
好きな女の子を庇うっつーネタを一度やってみたくてこんなお話が出来ました。相変わらず閃光は運が無いっていうか怪我しやすい性質ですが(あ)偶には真面目にシャルルのこと想って行動するんだよ!と…(それっていつもはただのドS…/以下略
途中、ほんとはR指定になる予定でしたが、表に上げたかったので無理矢理はしょって…(何)一応表で見れる作品にしました、うん。
それでは、ここまで読んでくださって有難うございました〜。



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