「ねぇ!みんなで"王様ゲーム"しない?」

「「「「…………王様ゲーム…?」」」」
そう誘われた、皆―――こと、メイキングたち全員は、小首を傾げながら、声を揃えて全く同じ事を呟いた。





King Battle Game!!





此処はホルルト村、アデルの家のとある一室。個室にしてはやや広いそこは、普段メイキングの皆が集まって、アデルからの戦闘の支持に何時でも対応出来るようにと待機している場所である(だがカロンは今アデルに呼ばれているためここにはいない)。
そして、今日も変わらず、全員がそこに集まっていたのだが、突然、アーチャーのローラが、そんな唐突な提案を皆に投げかけたのだ。
「な、なんだよローラ、そんないきなり?!」
当然の如く問い返したのは、戦士のルーウェン。嫌な予感がするのか、やや慌てている様子のルーウェンになどお構いなく、ローラはにっこりと屈託のない笑顔を見せる。
「あら、いいじゃない。今日はみーんな戦闘がなくてお休みだし。かといってこのまま何もせずにいるのも暇でしょ?こんな時こそ、皆で遊ぶのもどうかなぁって♪」
そう、実は今日はもう戦闘がない。
先日、武器強化の為に、アイテム界にかなり通い詰めたということもあって…流石に疲労している皆を休ませようとアデルが気遣い、今日一日を休みとしたのだ。
しかし、意外と皆はタフということもあって、午前中いっぱい休んでしまえば、午後にはもう元気。
故に皆は、既にかなり暇を持て余していた。その暇潰しということもあって、ローラの提案にも、一理あるといえばあるのだが…。
「別にいいけどよ……、なんでまた王様ゲームなんだ?」
「面白そうだから♪」
「あそー……」
ガクッ、とルーウェンは首をうなだらせた。
「ふふふ、それじゃ、早速いきましょっかー♪」
どうやら、ローラはやる気満々らしい。早くも、王様ゲームに必須である、番号が書かれた箸の束をちゃっかりと手に持ち、早く引けと言わんばかりに、皆の目の前にずいっと差し出している。
「………暫し待て。それは強制参加か?」
「何いってるの若!当たり前じゃない♪」
「……………」
明らかに若狭が嫌そうな顔をしたが、拒否権は欠片もないらしい。
逃げ場の無い傍観者の隣に、そっと、彼の弟子である盗賊の少女ガラテアが無言で寄り添った。






………そして、数分後。
否応無しに開催された『王様ゲーム』が、早速始まっていた。
皆の手元には、既に配られた番号札。後は、お決まりの掛け声を皆で言うだけである。
「それじゃ、いくわよ?」
ローラがそう言ったと共に、皆が一斉に声を張り上げた。



「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「はーい!」
ひらひらと手をあげたのは、魔法剣士のユリエットこと、ユリエ。
あ、ユリエが王様かー、とちらほら皆がそんな声をもらす。ユリエは微笑みながら、早速王様に与えられた権限を、どう行使するかと、うーんと首を傾げながら思い凝らし始めた。
「えっと、それじゃあね……3番の人が、7番の人に、前々から言いたかったことを言う!…っていうのはどうかな?」
初回だということもあって、辺り触らずなユリエの命に、うんうんと皆が頷く。しかし、約二名を除いては。
「げっ!俺3番…!」
「………7番、私だわ……」
明らかに違う反応を見せた二人は、ずばり番号を言われた、ルーウェンとクローディアだった。
ユリエの命令でいくとなると、ルーウェンがクローディアに、前々から言いたかった事…もとい、告白をするはめになったともとれる。皆もそれを感じ取ったのか、おお〜っ!!と期待が混じりまくった歓声をあげた。
「災難だな、ルーウェン?」
「てめ、閃光…!人事だと思って勝手なことを…!」
「王様命令だからしょうがないだろう、ほら、クローディアが待ってるぞ?早く告白してやれ」
「べべっ…別に待ってなんかないわよ!」
ルーウェンと閃光のやりとりに、クローディアが真っ赤になって口を挟んだが、照れ隠しなのがバレバレである。
さぁ、と閃光にもう一度背中を押され、ルーウェンは渋々クローディアに向かい直り、ごほん、と一端咳払いをする。
「……えっと…その、クローディア…。俺、前々から言いたかったんだが、お前さ…」
「え、ええ……」
いつになく真剣なルーウェンの表情に、どきん、とクローディアの胸が高鳴る。
勿論、周りにいる皆も、一体この恋愛関係にめっぽー疎い戦士ルーウェンが、ここぞとばかりにどんな告白をするのかと、息を呑んで期待していた。
…の、だが。



「………お前……胸元の露出高すぎ」



「はい?」
「「「「………は?」」」」
きょとん、と思わずふ抜けた声を出してしまう、クローディアと皆。
当然だ、ルーウェンの言った事は、告白は告白でも、全く違う意味での大胆告白だったからだ。
呆けたままの皆の様子などお構い無しに、ルーウェンは更に、ぐっと握り拳を作りながら、熱く語り始めた。
「だから、お前胸んとこの露出度高すぎんだっつーの!いつも喋るときとか目のやり場に困るんだよ!それでも僧侶かっつーツッコミをしたくなるほど……って、く、クローディア…さん?ちょ、その手に構えてらっしゃるものは俺の目の錯覚じゃなけりゃアルテミスじゃ……」
「……………どこ見てるのよこの野蛮人がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
「ぎゃああぁ――――――ッッ?!!!」
ビシュビシュビシュビシュッッッ!!!
チーン。
「……アホだな、あいつは………」
自業自得な大胆発言をかました、アホい戦士の悲鳴が木霊した後に、目まぐるしいばかりの矢の乱舞。
制裁終了後、マブダチの侍が、せめてもの供養にと、こっそりと小さな線香を立ててやった。






二回目。(ルーウェン脱落につき残り14本)
「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「はいはいはーい!!わたしでーっす♪」
「げ、ローラか……」
明らかに怪訝そうな声を漏らした閃光に、ローラが頬を膨らませて詰め寄る。
「ちょっと閃光!げ、ってなぁに?!」
「いや…だって、なぁ……お前が命令する事って言ったら、勿論…」
「当たり前じゃない!それじゃ命令、"10番の人が王様にキス"〜〜〜♪」
「……やっぱり」
うっとりと目を瞑りながら、王様ゲームにつきものと言わんばかりの命令を言ったローラに。予想が大的中した閃光は、当然呆れ返って、はぁ、と深い溜息をついた。
「………お。あたいが当たったぞー」
「「「「ま、マジですか?!!!」」」」
なんと、声をあげたのは、魔物使いのマーシェル。
「きゃぁぁぁっ!!!まままマーシェルさんが10番?!ってことはわたしにマーシェルさんが…?!!」
まさか、本当に大本命・麗しのお姉様マーシェルに当たるとは、流石にローラも思っていなかったよう。これ以上ないと言わんばかりに輝いた笑顔で、スキップをしながらマーシェルに近付いていく。
「ささ、マーシェルさん…早速、わたしに、キスを…どうぞ……v」
「ん?ローラにキスすればいいのかー?」
「はい、そうですv」
「いやちょっと待て!早まるな!というかマーシェル逃げろ―――――!!!!」
閃光が、慌ててマーシェルに警告を叫んだが、時すで遅し。
素直にローラの要求を信じ込んだマーシェルが、何のためらいも無く顔を近づけ、そのままローラにちゅっと軽く口付けた。(しかも見事に口車に乗せられてマウストゥマウスだったりするんだなこれが)
確かに感じた、自分の唇と愛するお姉様の唇が重なった感触にあてられ、ローラは頬を幸せのピンク色に染め上げて、これでもかとガッツポーズをかました。
「はぁぁっ、や、やったわ!わたしはついにマーシェルさんとぉっ……!!し、幸せ…!!ww…ぷしゅぅ………」
と、あまりに興奮し過ぎたローラは、頭の中をマーシェル一色に染め上げて幸福の絶頂に上り詰めたまま、メロメロへなへな〜な状態になり、ばたーん!と床に勢いよく倒れた。
「おぉ?!なんかよくわかんないけどローラが倒れたぞ?!なんでだ?!」
「……ローラ殿のミーハーっぷりも恐ろしいでござるが、マーシェル殿の鈍感っぷりも、ある意味恐ろしいでござるなぁ…」
「…にん……」
端っこで冷静に一部始終を傍観していたイライザとヴァジーが、呆れ返った声で、ぼそりとそう言い合った。






三回目。(ローラ脱落につき残り13本)
「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「はーい!僕、僕ー!!」
勢いよく手を上げたのは、ドクロのウィル。このメンバーのでも1・2を争う悪戯大好き少年なだけあって、王様というすんばらしい権限を手に入れたからには、どんな命令をしてやろう、とニヤニヤしながら頭を捻る。
やがていい案が考え付いたのか、目を子供らしからぬほど、ぎらりと怪しく光らせて、人差し指を立てて皆に提案する。
「ふっふっふっ…えーと、それじゃあね、この辺でコプスレとかどうかな〜?、てなわけで、8番の人が、いざ猫耳と眼鏡をダブルそうちゃーっく!!」
ウィルのいかにも楽しそうな掛け声に、え、ちょ、マジですか、と皆がざわつく。………その中で、唯一、額に青筋を浮かべながら、沈黙していたのが一人。
―――魔法剣士ユリエット、彼女でした。
「……わ、私…?」
「ゆ、ユリエ?!ちょっと、ウィル、本気でユリエにやらせる気?!」
「あったりまえだよ!はい、じゃあユリエ、これつけてみて!」
驚くクローディアの声をすり抜けて、ウィルは手早く"ミャオの猫耳"と"オペラグラス"をユリエに渡す。
ユリエは暫く困惑した様子だったが、お、王様命令だからしょうがない、よね……と無理矢理自分を納得させ、恐る恐るその二つのアイテムを受け取り、自身に装着する。
なんとかつけ終わり、それから、おずおずと皆の方に顔をあげた。
「…ど…どう、かな…?」
頭には猫耳、目元には眼鏡。
しかも、ユリエはこのメンバーの中では珍しき常識人。当然のことではあるが、こういうのに免疫がめっぽーないせいもあって、恥ずかしげに目を泳がせ、頬を桜色に染めるユリエ。
皆は、おおお……!!と何か凄まじく神々しいものに当てられたような錯覚を味わった。
「……ゆ、ユリエ…嵌りすぎよ…!」
「え?!く、クローディア、そんな、私は別に…!」
「て、天性の才能ってやつ…?命令したの僕だけど、予想をはるかに超えてたよ…」
「もう、ウィルまで!……でも、ウィル…これ、本当はディオナにつけさせたかったんじゃない?」
ユリエの素直な疑問に、ボンッッ!!とウィルの思考回路が噴火した。
「ちちちちっがーう!、ゆゆゆユリエななな何いってんのさ?!僕はあんなバカのことなんか何も考えてないよッ!!べべべ別にちょっとつけてみたら可愛いかもしれないだなんて全然思ってないんだからねッッ!!」
「ぽこん?」
ディオナが、名前を呼ばれたことに反応して、何かなぁと思って声をあげる。しかし、実際は何も分かっていないのだが。
「ず、図星……みたい?」
「ぽこ?」
そのまま、ユリエとディオナは一緒になって小首を傾げた。






四回目。
「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「オレッスよ―――!」



すがしゃぁ。
此処にいる筈のない者が、突然声をあげたことに反応して、全員が思いっきりずっこけた。
それもそのはず、王様になったのは、いつの間にかゲームに参加していた、プリニー神のリビティナことリビティーだったからだ。しかも後ろには、ご丁寧に相棒のプリニー隊のスピカも同伴している。
「り、リビティー?!どうしたの、こんなところで?」
ぴょいっ、と二匹の隣にシャルルがしゃがみ込んで、そう問いかける。
「いやぁ、皆さんが面白そうなことしてたから、オレたちも仲間に入れて欲しいなぁと思ってッスー」
「あ、どーりでいつの間にか脱落した二人の分まで本数が追加されてると…」
「フフフ、そういうことッスよ。んじゃま、早速命令いいッスかー?」
「まあ、仲間に入っちゃったものはしょうがないし。いいよ、言ってみて?」
シャルルに許可を得た途端、ぎらん!と何故か二匹の目の色が一気に変わった。そして、端っこに座っていた傍観者の方を、明らかにニヤニヤした顔で見据えながら…。



「6番の人が13番の人に接吻するッス―――!!!」



と、高らかに宣言。
「………私…13番…」
間髪入れず、ぼそり、と呟いたのは、盗賊の少女ガラテア。
しかし、問題の6番の人は、幾ら待っても一向に名乗り出ず。その代わり、かたかた、とガラテアの隣に座っていた若狭の肩が、何故か小刻みに震えている。
二匹は、仁王立ちをして俯いたままの若狭に詰め寄る。
「フフフフ、若、黙ってても無駄ッスよ〜?若の番号札が6番だってことは、オレたちとっくのとーに分かってるんッスからね〜?」
「………ふ、ふざけるな――――――!!!!!!」
突然の若狭の大絶叫に、ビクッ!!と皆はビビり、数歩後退して、二匹と若狭との間に距離を置く。
皆がビビッているというのに、二匹は若狭の怒号にすら全く驚いていない。それどころか、その反応が面白いとでも言わんばかりに、更に怪しくにやついた。
「ふざけてなんかないッスよ〜?これは王様命令ッス。さぁさぁ、早く、若の可愛〜い弟子に接吻をするッスv」
「断る!!たかがゲームの一貫で、何故、拙者とガラテアがそのようなことを…!!大体、初めから拙者は乗り気ではなかったのだ!!このようなふざけた行いをするぐらいなら辞退してくれる!!」
「駄目ッスよ、これはルールッスから!……それとも、義理堅い侍が、"たかがゲーム"のルールに反するんッスか〜?」
「……っく…、ぐぐっ…!」
ぎり、と若狭は悔しさで歯を噛み締め、手元のガイアの槍にぷるぷると手を伸ばす。
「脅しても無駄ッスよ♪どーせ若がオレたちに手を出せないってのは分かってるんッスから♪」
「………不覚ッ…!!」
うわぁ……と、あまりに悪人めいた二匹と、弱みを握られた憐れな傍観者のやり取りに、遠巻きに見ていた皆が、思わず全員一致で若狭に同情した。
ガクッ、と若狭は脱力したように腰を折り、ぐるりと振り返ると、ゆっくりと隣のガラテアに近付いていく。
「………ガラテア…すまぬ、このような戯言の流れで、汝の初度の口接を奪ってしまうことになるとは……」
「師匠…いいです。私はいいです。師匠に口付けをされても私は構いません……。」
申し訳無さそうな若狭の言葉を否定し、寧ろそれを望むかのように、頬を淡く染めながら、そっと先に目を伏せるガラテア。
「ガラテア……」
それを追うかのように、若狭もまた目を薄め、顔と顔との距離を近づけていく。
むふふふふふ…wと、これ見よがしにニヤつきながら、それを明らかに面白がっている悪代官二匹と、ほ、本当にやるのか、若…!!という驚きの目で二人を見守る皆。
そうこうしている間にも、二人の顔の距離は更に縮まり、今まさに唇が触れようとした、その瞬間―――



「…………やはりこのような戯弄(ぎろう)めいた事が出来るか――――!!!!!」



突然若狭が叫んだかと思えば、ドアを勢い良く蹴り開け、そのまま外へと脱兎した。
取り残された皆は、まるで突風が過ぎ去ったかのような後味間に、ひたすら呆然としている。
「あ…し、師匠!待って下さい!」
と、一番早く我を取り戻したガラテアが、慌てて何処かへ逃走してしまった師匠の後を追って、ぽてぽてと部屋から出て行った。
「……チッ!や〜っとあの恋愛事に疎い若と、健気に若を追いかけてる盗賊さんをくっつける事が出来ると思ったのに、しくったッス!」
「今度はちゃんと逃げ場も塞いでおかないと駄目ッスね〜。次回また改善した上で仕掛けてやるッス。」
明らか〜に怪しい会話を交わしながら、そそくさとリビティーとスピカの悪代官コンビは去っていった。
「……何しに来たんだ、あいつらは…」
「さぁ…ただ、若狭が今後危ない気がするのは、確かだと思うよ……」
「ぽこん?」
閃光とウィルとディオナが、そんなふーに只今の大嵐の考察をまとめた。






五回目。(若狭とガラテア・悪代官二匹離脱につき残り11本)
「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「はーい!あたしでーす!」
これまた意気揚々と手を上げたのは、盗賊のシャルル。こいつもまた、ウィルと同じく、悪戯大好きな子供軍団の一人。
「んーとね、じゃ、今度はちょっと控えめに。4番の人が、2番の人をぎゅーってする♪」
全員が安堵したように、おぉ、さっきよりは幾分マシになった…、と脳内で呟いたのは言うまでも無い。
「お、俺が4番だぜ」
そこでふと、名乗り出たのはガンナーのスメタナこと作曲者。
「えと……い、イヴが…2番、です………」
続けて、銀河魔法使いのイヴが、たいへん小声でそう名乗り出た。
「おぉっ!やったねイヴちゃんっ!あたしお手柄だ〜♪」
「シャルル、ナイス!イヴちゃん、これはチャンスよ!」
シャルルとユリエが、二人一緒にガッツポーズをとる。イヴのスメタナへの恋心を知る二人にとっては、まさにこれはイヴに与えられた神様の思し召しに違いない、とまるで自分の事のように嬉しがり、イヴの背中をぽんぽんと叩く。
「は、はうぅ…で、でも、イヴ、皆さんの前で…スメタナさんとって……」
しかし当のイヴはといえば、案の定、顔を真っ赤に染め上げて、どうすればいいのか分からず脳内ヒートしてしまっていた。
そんなイヴを気遣うように、スメタナがイヴに近付くと、ポン、と優しく頭を撫でた。
「ま、ただのゲームだし、そんな緊張すんなって。相手が俺なんかなのは申し訳ないけど、我慢してくれよ?」
どうやら、作曲者は何気にゲームのルールには忠実に従う性質らしい。
「そ、そんな!い、イヴは別に、嫌じゃないです…!」
「そっか。じゃ、ちょっと、ごめんな」
慌ててイヴが否定すると、にこ、と控えめにスメタナは微笑んで、そっと力加減をしながらイヴの両肩を掴む。
肩にスメタナの手のひらが触れたせいなのか、突然の急接近を感じて、思わずイヴがたじろぐ。
「は、はわっ…」
ややバランスを崩しかけたイヴの背中に、そっとスメタナの腕が回される。すぐ目の前には、徐々に近付くスメタナの姿。こんなに近くで彼をまじまじと見たのは、この間の土竜弾事件(参照:蕾と恋歌のエチュード)以来かもしれない。
しかし、あれは倒れこんで近付いただけだったが、今回は違う。確実に二人の距離が少しずつ縮まっている、しかも、大好きなスメタナの手によって。
(す、スメタナさんっ…い、イヴは…イヴは……っ)
当然の如く、この展開に取り乱したイヴの頭には、マグマにも引けをとらぬほど、一気に血が駆け上り―――



「…や、やっぱりダメ――――――ッッ!!!!!」
「へぐぁ?!!」



…思わず、スメタナを突き飛ばしちゃいました。
イヴに(照れ隠しで)全力で突き飛ばされたスメタナは、そのまま壁の方にまで勢い良く吹っ飛び、そのまま後頭部を、がつんっ!!といい音を立ててぶつけた。
「あぁ、イヴちゃんったら、折角のチャンスだったのに〜」
「だ、だって、いきなりあんなの、イヴは緊張しちゃいま…って、ああ!す、スメタナさん、ごめんなさいぃぃ!!」
イヴが慌てて駆け寄った頃には、既にスメタナは頭の周りに星を回しまくっており、イヴの彼を呼ぶ声虚しく、そのままがくりと首をうなだらせて気絶した。
………哀れ、作曲者。






六回目。(スメタナ気絶・イヴ看護の為離脱につき残り9本)
「「「「「王様だーれだっ!!」」」」」



「俺だ!」
「げげ――――ッッ!!」
「せ、閃光が王様っ…?!」
声をあげたのは、侍の閃光。しかし、今までの王様とは違い、明らか〜に嫌そうな声をあげる皆。
「おい、なんだお前達、その異様なまでの嫌悪の声は!」
当然の如く閃光が反論すると、ウィルは目を泳がせながら、小声で理由を述べる。
「いや……だって、閃光だよ?閃光が王様になったら、することといえば、さぁ…」
「…クククッ…よく分かってるじゃないか、ウィル……漸く、俺の方にツキが回って来た…ッフ、フフフ…」
これでもかと怪しい笑みを浮かべ、くつくつと笑う閃光。何か良からぬことを企んでいるのが一目瞭然だ。
「…だ、だから閃光を王様にさせたくなかったのに……」
ウィルが閃光に聞こえないように、あまりに小さい声でぶつくさと呟いた。
「それじゃあ、早速命令させて貰おうか?………5番の奴が、王様にキス、だ」
「ひぁっ!あ、あたしだ!」
「「「ちょっと待って何そのピンポイント―――!!!」」」
見事に言い当てられたのは、閃光の獲物(?!)の盗賊シャルル。
有り得ない奇跡が起きたことに、ウィル、クローディア、ユリエの三人は、思わず声をあげてツッコんだ。
「ちょ、ちょーっと待たんか――!!」
そこで颯爽と閃光の目の前に立ちはだかったのは、女忍者のイライザ。イライザは、びしぃっ!と閃光を指差し、異論を叫ぶ。
「そんな都合よくシャルル殿に当たる筈がないでござろう!閃光、さては貴様、シャルル殿の番号札を盗み見たな?!」
「なんのことだ?」
「言い訳甚だしいぞ、閃光ッッ!!」
閃光はけろりとした顔で否定した。が、それに騙されるイライザではない。
「別に証拠があるわけでもないだろ?それに、これはあくまでルールの下に構成されたゲームだぜ、イライザ、皆が守ってきたそれをお前が破るつもりか?」
ルールを手玉に取り、妙に納得のいく根拠を述べる閃光。流石にこんな風に脅されては、イライザとはいえど、閃光に逆らうことは出来ない。
「……くぅっ…、わ、悪知恵の働く奴め…!」
「……にん……」
ぎりり、と唇を噛み締めながら、杖を握り締めているしかないイライザの隣に、相棒の忍者ヴァジーが静かに寄り添う。
「さて…、さあ、シャルル、やることは分かってるな……?」
邪魔者を片付けた閃光は、シャルルを逃がさないように腕を掴んで引き寄せ、目的のものを要求した。
「ちょちょちょ、せ、せんこー、ほ、ほんとにやらなきゃダメ…?」
シャルルは、当然だが頬を真っ赤に染めて取り乱していた。 彼とキスすることが嫌いというわけではない、だが、いかんせんここは皆の目の前。大っぴらにそんな事をする勇気など、何気に純情なシャルルは全く持ち合わせていなかった。
「当たり前だろう。…お前がやらないって言うなら、俺からしてやろうか?」
「にゃっ!ま、待ってよぉっ!…ふぐっ!」
否応なしに顎を掴まれ引き寄せられ、反論すら呑み込み、噛み付くように閃光はシャルルの唇を奪う。
ユリエとクローディアが、目の前で繰り広げられる光景に、顔を真っ赤に染め上げながらも、咄嗟にウィルとディオナの目元を塞いだ。
「ふぅっ…せ、んん……」
喘ぐシャルルなどお構い無しに、閃光は角度を変えて口付けを繰り返しながら、何度も何度もシャルルの唇を吸い上げる。
「んんん、っむ?!、ん、んん〜〜…っ!!」
と、そこで口腔内に舌が忍び込もうとし、流石にシャルルが手足をばたつかせて抵抗するが、閃光の強い手に腕を捕まれてはどうにも敵わない。
「……ぐぐぐっ…、せ、拙者がこんな時に、シャルル殿を御守り出来ぬなど…、なんたる屈辱…!!」
「……にん……」
さしずめ、今の状態は焦眉の急。このままではシャルルが襲われてしまいかねない。
「もはや、ルールなど無用…!拙者がこの故で閃光を殴り倒して―――」
限度の過ぎた閃光の行いに、業を煮やしたイライザが、手に持ったプリニー棒を振り被った、その瞬間―――



「―――おい、みんな、騒がしいが何やってるんだ?」



ガチャ、と部屋のドアが開き、皆の師匠であるアデルが入ってきた。
「あ、アデル殿ッ!!」
まさにここでアデルの登場は、救世主にも似たり。
ユリエとイライザがアデルに近付き、状況を説明する。
「えと…実は今、皆で王様ゲームをしてたんですけど…」
「閃光がまた調子に乗って、ゲームの権限を乱用し、シャルル殿をかどわかしているのでござる―――!!!」
「何?!本当か?!……って、ホントだな…」
かどわかすというのは少々言い過ぎな気もするが、既に逆上せてへろへろになっているシャルルを抱える閃光の姿を垣間見ては、アデルも頷くしかない。
「し、師匠?!いえその、こ、これは…!!」
閃光が咄嗟に弁解しようとしたが、アデルにはもはや言い訳は通じない。
「しょうがないな…偶には閃光の師匠として、頭を冷やしてやった方がいいな。………カローン」
アデルは踵を返し、パチンと指を鳴らす。すると、すぐ後ろに佇んでいた魔人カロンが、ゆらぁ……と背後にどす黒いオーラを背負って部屋に入ってきた。
「ヒィィッッ?!!!」
そのあまりの威圧感に、閃光がたじろぐ。その隙を見逃さず、バッ!と素早くイライザがシャルルを閃光から奪い、安全地帯まで避難する。
「カロン、閃光に御仕置きしてやれ」
アデルの命令に、カロンはこくりと頷き、血塗られた禍々しき斧を構えながら、閃光の方に近寄っていく。
「か、カロン…ま、待て、俺は別に何もしてなっ…や、止めろ、止め…ッ」
閃光の声などもはや無意味、問答無用で、カロンは斧を天に翳し、そして―――



ずしゃっばきごきっぎぐしゃっばきっずぐぁっびきっぐしゃああぁぁ



「ギャァァァァァ――――――ッッッ!!!!!!」



この世のものとは思えぬほど、エグい効果音と閃光の大絶叫が響き渡った。
「ぎゃにゃああああ!!!!せ、せんこ―――!!!!」
そこで漸く火照りから復活したシャルルが、慌てて瀕死の閃光の傍にまで走り寄る。
「あ、カロン、ちょっとやり過ぎたな」
「…………」
アデルが呑気な顔をしてカロンに言ったが、『ちょっとやり過ぎた』で丸く治まるような事態では到底なかった。
仲間だということで手加減はしたらしいが、死直前にまで迫っているのには変わりない。この集団史上最強の魔人・カロンの御仕置きは、誰彼構わず、起き上がれなくなるほどの重症を負わせるのである……。
「やり過ぎたじゃないよおおおお!!!せんこーが死んじゃうよおおお!!!せんこー、せんこー起きて――――!!!!」
「ぐぇ…」
がくがく、とシャルルに力いっぱい揺らされ、閃光は意識朦朧になりながら低く呻く。
「しゃ、シャルル、そんな揺らしちゃダメよ!早く回復しないと―――!!」



ぴーぽーぴーぽー………



<<<只今病院搬送中につき少々お待ち下さい>>>



クローディアの適切な処置によって、閃光は病院に搬送された。魔界病院は何かと万能なので、数日後には、閃光はちゃんと治って帰って来ると思われる。…多分。
「………一番の最強は、カロン殿でござるな…」
「………にん」
留守番を任され、ぽつん、と部屋に残ったイライザとヴァジーは、とりあえずそれだけ感想を述べて、する事も無く途方に暮れた。










あとがき。
……え、あ、終わった?(何
なんだかとてつもなく見も蓋もない話のうえ、締め括りも悪くて申し訳ございません…。ただメイキングカプいっぱいでカロンが御仕置き執行人なとこを書きたかっただけです(え)。
閃光が物凄い可哀想な目に遭っちゃいましたが、まぁ、今までの前科もあるし自業自得ということd(殴
それでは、ここまで読んで下さって有難うございました。また次回作品でお逢い致しましょう。



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