全ては、偶然。
必然なんてものはない。自己の気紛れと、風の便りと。それがただ偶然に重なっただけのこと。


かつて錬金術で栄えた町―――アルケシティ。
そこに、孤高の侍・若狭は、一人槍を片手に勇み歩んでいた。
師のいない自分でさえ、師だと思える唯一の者・アデルに連れられ、仲間達と共に、この町へ来たのさえ。いいや、それこそが一番の偶然であったのやもしれず。
こんな寂れた町になんの用があるのだと言えよう。
もはやこの世に関心という言葉さえ失ったように、無心に若狭がそう思う。
しかし、そこで若狭の鼻先を、すん、と何かが掠めた。
何の前触れもなく歩を止める。若狭がいきなり立ち止まったせいで、他の皆も、何事かと慌てて立ち止まり、若狭の方に近寄ってくる。
「おい、若、どうした?」
「…………」
戦士のルーウェンが話しかけてきたが、若狭は終始無言だった。
「どうしたルーウェン?」
「あ、アデル師匠。若がいきなり立ち止まっちまって…」
「そうなのか?どうしたんだ、若狭?」
ルーウェンに説明され、今度は代わりにアデルが若狭に問いかける。
暫く若狭は悩むように黙り込んでいたが、ようやっと確信を持ったのだろうか、小さく言葉を紡ぎ出した。
「……何かの気配を感じる」
「なんだって?!敵か?!」
「……いや。敵意は感じない。寧ろ……今にも途切れてしまいそうな程の、微かな存在(モノ)だ」
言い放つと、若狭は急に方向転換して、小さく狭い路地へと入っていく。
幾つもの寂れた団地やら建物やらが聳え立つ、迷路の様に入り組んだ道を、若狭は迷う事なく確信を持って進んでいく。日が当たらないため非常に足元が分かり難い事と、途中に転がっている瓦礫の山という障害物などものともせず、華麗に地を立ち回って、その奥へ奥へと。
若狭の足の速さに追いつけなくて、慌ててその後ろをアデルや仲間達が追いかける。
やがて、目的の場所に辿り着いたのか、若狭は今度はいきなり立ち止まり、目の前に佇む、先程見てきた大きな建物とは明らかに異なった小さな家を、その細く鋭い黒眼を、ぎろりと睨みつかせるようにして凝視した。
「……惨いな」





救済(かいな)





「あっ、若狭、そこにいたのか!」
「わ、若、足速ぇってーの…!はぁっ、はぁっ…」
若狭に漸く追いついたアデルや仲間達が、若狭に近づいてくる。若狭は息一つ乱れさせていないが、皆は慣れない入り組んだ道を歩んできた事で、疲労困憊しているようだった。
若狭は、一つの家の前に立ち止まり、それを見据えたままピクリとも動かない。なんだなんだと思い、皆もその家を覗きこんで見れば―――そのあまりの異様な光景に、ぎょっと眼を見開く。
「な、なんだよこれ…?!」
ルーウェンが思わずそう叫んでしまったのも無理はない。
その家の扉には、何重にも何重にも渡る、厳重な錠前が施してあった。
あまりに酷いその光景に、思わずクローディアが呟く。
「なんでこんなものがあるのよ…」
「んん、これだけ鍵がついてるってことは…何かを閉じ込めてる、とか…?」
流石博識といったところか、ウィルが的を得た答えを言う。成る程、と思い、皆がうんうんと頷く。
「でも、若が言うには中に居るのは敵じゃないっていうぞ?それならまずいんじゃないかー?」
マーシェルの凝らした、珍しくも(失礼)的当たり予想に、マーシェルにご丁寧にもぴったりとくっ付いていたローラが、ぎょっとし、慌てて叫ぶ。
「流石は私の麗しのお姉様、マーシェルさんっ!それなら助けなければいけませんね!……どう、シャルル?この扉、開けれそう?」
「はいはーい!ここは盗賊のあたしに任せてー!」
御使命を受けたシャルルが、にっこり笑顔で勇んで扉に飛びつく。何個も付いている鍵を一つ一つ手に持ち、鍵穴を覗き込んだりしているが、皆の期待とは裏腹に、彼女の表情はどんどん苦そうなものになっていく。
「あ、あは…ごめん、これ、厳重過ぎてあたしじゃ無理かも…」
「おいっ!それでも盗賊かよ!」
「だ、だってー!こんなややこしい鍵見たことないもーん!!」
閃光のナイスツッコミに、シャルルが頬をぷくりと膨らませてそう言う。盗賊であるシャルルでさえ開けられないとは、一体全体どういう事なのか。あまりに難解な謎に、アデルががりがりと頭を掻いた。
「くそ…、こうなったら力づくで開けるしか…」
「………皆、下がっていろ」
若狭がいきなり扉の前に歩み行ったかと思えば、左手に持ったガイアの槍に右手を這わせ、振り被るようにして構える。
「―――疾風迅雷!!」
無数に放たれた矛先は、的確に鍵の部分を破壊し、彼の身体が扉の向こうに突き抜ける。それと同時に、扉についた鍵と鎖はばらばらと崩れ落ち、更には扉が真っ二つに割られていた。
「うわ、すっげ…」
「若狭!中はどうだ?!」
先に中に侵入した若狭が内部の様子を見回すと、どうやら、窓さえ内側から封鎖されているようであった。光がまるで入らず、中は真っ暗で何も見えない。
「…中が暗過ぎる…何も見えぬ」
「分かった。ウィル!火を頼む!」
「了解!」
ウィルがファイアの魔法を唱え、部屋のそこら彼処に、蝋燭を灯すようにして火が点く。一気に明るくなった内部は、そこで初めて、予想以上に埃が舞い散っている事に気付いた。どのくらい閉ざされたままだったのだろう。あまりに淀んだ空気のせいで、喉が少し痛い。
皆が中に入り込んできて、それぞれが中の色んな所を見て回っているが、若狭は一人、奥へと続く長い廊下を歩いていく。
「…………」
気配を頼りに、若狭が更に奥へと進んでいく。……そして、突き当たった、つまりはこの家の一番奥の部屋のドアを開けると―――すぐに眼に入ってきたものに、若狭がぴくりと眉を歪めた。
「………ッ!」
床に、何かが転がっている。
四肢を持ち、長い髪を床に無造作に撒き散らし、横たわっているのは―――紛れも無く、人。
即座に若狭がしゃがみ込み、その者の肩を掴む。突っ伏していた顔を此方に向けさせ、その者の気色を窺う。見る限りでは、まだ子供じみた少女。服装からすれば、我が集団の盗賊・シャルルと服装が瓜二つの色違いであったので、どうやらこの少女は盗賊らしい。盗賊ならば、抜け出されないようにと、あの厳重な錠前を施されていたのにも納得がいった。
辛うじて静かに息はしているようだったが、何日もろくに食べていないのか、掴んだ肩はひどく痩せ細っていて、少し力を入れれば砕けてしまいそうなほどに脆い。
更に、よくよく見れば、手足を枷で拘束されている事に気付いた。そんなものをつけなくても、逃げる力なんか残っていないくらい、この少女は衰弱しているというのに。
やがて、誰かがいる事に気付いたのか、その少女はうっすらと閉じていた瞼を開く。透き通るように深い、けれど酷く虚ろな蒼眼が、朦朧と若狭を見据えた。
「……だ…れ……?」
掠れたソプラノの声を、喉を絞るように出して、此方に問う。
久し振りに光が眼に入ったせいか――痛そうに、何度も何度も眼を瞬かせている。
「………パパ……?」
それだけ呟き、少女はかくんと首をうなだらせて、意識を失った。
「若狭!そんな所に居たのか……って、その少女は…?!」
「奥で倒れていた」
いつの間にか忽然と姿を消した若狭が、漸く出てきたかと思えば、その胸に見知らぬ少女が抱きかかえられていたので、皆が吃驚しながら若狭に駆け寄る。
「かろうじて生きてはいる。が、どうやら酷く衰弱しているようだ」
「大変…!早く落ち着ける所で手当てしなきゃまずいわ。早く連れて帰りましょう!」
クローディアの適切な判断に促され、皆は一度ホルルトを目指してその家を後にした。




「ふう、もういいわ。なんとかギリギリで間に合ったみたい」
「………そうか」
あれから村に戻った皆は、クローディアに処置を任せ、個室の外で待っていたのだが、たった今処置を終えて、あの少女を寝かせていた部屋からクローディアが出てきたところである。
一番最初に若狭がそう呟くと、既にもうここにいる必要性が無いと判断したのか、きびすを返して、廊下を歩いていこうとする。
「ちょっと待ちなさい」
「……ぐっ」
と、立ち去ろうとしている所で、いきなりクローディアに肩周りの部分を掴まれて、若狭が苦しそうに呻いて仰け反る。
「…何をする」
「あの子を見つけたのは若でしょう?それなら最後まで責任持って、あの子の看護しなさい」
「………」
「ほら、早く!」
クローディアに引っ張られ、若狭は無理矢理部屋の中に押し込まれた。
「…く、クローディア、お前すげーな…」
「は?何が?」
「や、若があんな扱いされてんの初めて見た」
「あらそう?普通じゃない?」
ルーウェンの素直な驚きを一蹴し、クローディアはスタスタと廊下を歩いていく。いや、マジすげぇってお前、と心の中で思いつつ、ルーウェンは、珍しく面倒事に巻き込まれた若狭を不思議に思いながらも、後は任せた、とそそくさとクローディアの後を追って歩いていった。




「……しくじった、か」
眠ったままの少女と、二人きりにされてしまった部屋の中で、若狭は自嘲気味に溜息をついた。
まさかあそこでクローディアに引き止められるとは、その上看護まで任されるとは、夢にも思っていなかった。久々に不覚を取り、面倒ごとを(無理矢理)引き受けてしまった事に、我ながらひどく呆れる。
ちらり、とまだ眠っている少女に視線をやる。
埃を被って煤けていた格好は、既にクローディアによって着替えたのだろうか、新しい服を着込んでいる。それに、まだ目覚めてすらいないので、食事の世話はいらないらしい。せめてそれの面倒を免れた事に、若狭はもう一度溜息を吐いた。
……つまりは、ただ大人しく傍で見守っていろ、ということ。
やる事が一つだけというのがせめて有難かったが、若狭にとってはこれだけでも面倒事には他ならない。かといって、ここで放棄しては…後々更に面倒臭い事になりそうな予感がする。
「全く、今日は本当にらしくない日だ……」
諦めて、若狭が寝台の隣の椅子に座り込む。
すると、目線が同じになったのと、やや距離が近まったせいか、少女の姿がよく観える。
「……傷痕は残っているのか」
何かに気が付いたように、呟きながら、若狭は少女の手を取った。腕に、拘束されていた痕が残っている。クローディアがヒールをかけたのだろうが、それでも消えなかったのだろう。腕の骨が鎖が食い込んだ痕と同じように細く変形し、紫色に滲むアザが痛々しい。
「…何故(なにゆえ)。何故、このような有様になるまで………」
「………う」
「!」
いきなり少女が声をあげたので、慌てて若狭はその手を離す。
すると、少女はゆっくりと目を開き…まだ虚ろな瞳で、けれど今度は確かに、若狭をじっと見据えた。
やはり、その見開いた瞳は蒼眼で。吸い込まれそうな瞳に魅入りつつも、若狭は少女が言葉を発するのを待つ。
「……誰…ここはどこ…?」
「……ここは、ホルルト村だ。アルケシティでお前が監禁されている所を発見し、連れて帰ってきた…」
言われ、少女はきょろきょろと辺りを見回す。確かに自分が今までいた所とは明らかに違うのを悟ったのか、安堵したような、けれど複雑そうな趣で、ぽてりと枕に頭を落ち着かせる。
「汝、名を何という。」
「………ガラテア」
若狭の問いに、少女は、静かにそう答える。
そこで少女…ガラテアは、そっと若狭の方に手を伸ばしながら問い返した。
「あなたは…?」
「……拙者の名は、若狭。」
「わかさ……」
言葉を一つずつ確認するようにして、ガラテアが呟く。彼女が自分の名を理解したのもそこそこに、若狭は真理を問い詰める。
「ガラテア。…汝は何故あのような所にいた?…それも、囚われるようにして」
「………」
「…申したくなければ、申さなくてもよい」
無言なガラテアを気遣うように、そう言ってやれば、ガラテアは無表情のまま悩み込んで……暫し間を空けて、ゆっくりと口を開く。
「……私が罪を犯したから。だからパパが私を閉じ込めた」
あまりに淡々とした、けれどはっきりとした物言いに、若狭がぴくりと眉を顰める。
「……親が、子にそこまでする程の罪か」
また暫し間を空けて、ガラテアが話しだす。
「私は…、アルケシティを拠点とする、科学者のパパの娘。滅んでなくなってしまったという"れんきんじゅつ"を再び使う為に、パパとママで研究をしていた。…けれど…それは失敗した。私が勝手にパパの研究に触ったから」
「……………」
「私がおかしくした"れんきんじゅつ"がママを襲った。ママはそれでいなくなってしまった。……パパは当然怒って…ごめんなさい、ごめんなさいって何度も謝ったけれど、許してくれる訳もなくて…私はそれから、ずっとあそこに閉じ込められていた。2日に一度、パパは食事を持って来てくれたけれど…ここ最近は、それも少なくなって…ついこの間からもう、パパは一度も来なくなって…」
あまりに悲痛な話であるのに、彼女の声はひどく抑揚のない、まるで機械のような喋り方だった。
「…ガラテア。父と母は人間か?」
「パパは普通の人。だけどママは耳が尖って、牙が生えていた」
…恐らく、来なくなった原因は、人間たちに降り掛かった悪魔の呪いのせいもあるのだろう。若狭はすぐに、そう予想を凝らす。
ガラテアの父は人間。消えゆく記憶に従って、ガラテアのもとへ訪れる回数も減っていったのだ。皮肉にも、人と悪魔のハーフであるガラテアには呪いが効かず、彼女だけは父を忘れる事はなかったのだろうが。……そして、ここ最近で、その記憶は完全に消えたのであろう。其れ故、誰も訪れる事なく、あのまま放置されていたのだ。あまりにも労しいものだ、と若狭は心の中だけで思う。
「……汝が監禁されたのは、何年前の話だ?」
「11年前くらい」
「幾つの時に」
「私が5歳の頃」
「……惨いものだな」
若狭の言葉に、今まで淡々と話していたガラテアの表情が、初めて曇る。
「むごくなんかない……全ては私のせい。私が悪戯をしてしまったせい…」
「まだ5歳の子供の好奇心だろう。親の管理不足の問題もあったろうに、全てをお前に責任を要求するのは間違っている」
きっぱりと言ってのけてやれば、カッとその蒼眼を見開き、がばりと起き上がって、若狭に食って掛かる。


「……パパは悪くない!パパは何も悪くない!!全部、私の……!!私の、せい…で……」


それは、初めて、ガラテアがはっきりとした感情を表した瞬間であった。
しかし、それはすぐに力が抜けるように小さくなっていき、ガラテアが毛布に顔を突っ伏したまま震えだす。小さな嗚咽が漏れて聞こえてくるところから、どうやら泣いているらしい。
「ひ…っく…ぱ…パパは、悪くなっ…私の…うっ…、だ、だから…私が、そうすればきっといつか、許してっ…くれっ……うぅっ…」
「………」
どうして、そこまでして、自分をあのような目に合わせた親を、純朴に信じていられるのであろう。
強情に"父がいつか罪を許して自分を迎えに来てくれる"と口では言ってはいるが、11年間その罪を化された、父と二人だけの屈折した生活をしていて、いきなり父が来なくなった…その事に対して、まだ信じていられるほど…そこまで頭は悪くない筈だ。自分は既に見捨てられた者なのだと、自分でも心の何処かで、薄々感じているくせに……。
若狭は一つ、息を吐くと―――そっと、ガラテアの肩に手を置く。
「……哀れな手弱女(たおやめ)よ。11年にも渡る苦役、辛かったろう………今は何も構わずに泣くがいい」
「う……っく、ひっ……うえっ、えぇっ……」
堪えきれなくなったのか、はっきりとした嗚咽が聞こえてくる。慰めるようにそっと背中をさすってやっていると、感極まったガラテアが、拠り所を求めて、いきなりがばりと若狭の胸板に抱きついてくる。
「…ッ!」
「ひっ、ひっく…う、うあっああぁっ……!!」
声をあげて、その抱きついた状態のまま、ガラテアが泣き出す。
あまりに突然の事に、若狭は暫く硬直していたが、やがて我を取り戻すと、彼女を引き剥がそうと両肩を掴む。
「………」
…引き剥がそうとした、のだが。その、細く、弱弱しい手を、必死で自分の背に回してしがみ付くガラテアを見ていると、あまりにもここで拒絶するのは残酷に思えて。…なんだか、その気がそがれてしまった。
「……仕方が無い…」
ほとほと諦めて、若狭はガラテアを受け入れ、そっと頭を撫でてやる。
何故、本来ならば傍観者である自分が、このような事をしているのか…今ではただ、自分の目の前で起こり、巻き込まれてしまった偶然に呻くばかりである。
しかし、ガラテアを自分が見つけ出したのは事実。そして、ガラテアの事を無視しなかったのも。
ただ見知らぬ気配を感じたから、この者を助けたのではない。
何処か、自分と似たようなものを感じたからだ。…かつて、罪を犯してプリニーと成り果てた、自らと同じ様に。
「……汝も、拙者も…所詮は罪人(つみびと)…。同じ匂いを醸し出す運命(さだめ)なのか…」
あまりにも皮肉めいた世の摂理に、我ながら溜息が出る。
もはや悔やむ事しか出来ない過去の自らの過ちに胸の奥を焦がしつつ、ガラテアが泣き疲れて眠るまで、若狭はそのまま彼女を優しく慰め続けた。




あれから数十分後、アデルの家のリビングルームに、若狭がそっと入ってくる。真っ直ぐにアデルとロザリーの前に歩み寄ると、名を呼んで呼び止めた。
「…アデル殿」
「若狭!あの子、どうだった?」
報告すべき事をアデルの方から聞いて来たので、若狭はそのまま答える。
「先程目覚めたが、まだ疲弊しているらしく、また眠りについた」
「そうか。何か話したのか?」
「御意。…あれの名はガラテアと言うらしい。実の父に、長きに渡り監禁されていたそうだが、今は父もあれの事を忘れている。事実的にあれは孤児(みなしご)だ」
「……そうだな…、それじゃ、放っておく訳にもいかないだろうし…」
若狭の報告の内容に、アデルはうーんと暫く悩みこむ。が、何か思いついたらしく、手をぽん!と叩き、明るい表情で提案を述べる。
「お、そうだ!若狭が師匠として、あの子を弟子にするっていうのはどうだ?」
「―――……何…?!」
ぎょ、と若狭が予想外の言葉に目を見開き、眉を顰める。
なんだかとてつもなく嫌な予感が脳裏を走ったのは、どうやら気のせいではないらしい。
「おお、アデル。お主にしては名案じゃのう。若もあまり皆と戯れずに、孤立しているのではと心配していた所じゃ。丁度良いではないか」
「そうだろそうだろ。よし、じゃあ早速、あの子を若狭の弟子にするって、皆にも言ってくるな!」
丁度その話を隣で聞いていたロザリーまでもがそれに賛同し、アデルは早くも、勇んで皆の所に報告に行ってしまった。
「あ、アデル殿……!!暫し待っ……!!」
若狭の制止も虚しく、扉はパタンと閉められてしまい。扉の向こう、つまりは皆が集まっている外で、速攻で報告を受けて皆が挙げた、喜びと歓迎の歓声が耳に届き、もはや逃げ場を失った若狭が、ぶるぶると身震いをしていた。
「若にとっては初の弟子じゃな。大切に育てるのじゃぞ」
「………御意…」
ロザリーの追い討ちの如く言い放った言葉(命令ともいう)に、もはや若狭はそう答えるしかなかった。




後日。晴れて(?)師匠となった若狭が、弟子ガラテアと、改めて対面していた。
「……若狭師匠。今日から弟子になりました、ガラテアです。宜しくお願いします」
相変わらずその声は、ソプラノの透き通った声をしている癖して、抑揚のない淡々とした声色だった。
「…名前でいい」
「なら師匠で」
「………」
しかも、人の言う事をきかない辺り、なんとも前に比べて自我意識ははっきりしているようだ。
「……先に申しておくが、拙者は汝の師匠であることを認めたわけではない。故に、必要以上の事を教えてやる義理もない。それは事前に覚えておけ」
「分かってます。私は、師匠が私の師匠になってくれただけでも嬉し………、――ッッ!!」
突然、何か身の危険を感じたのか、素早くガラテアが若狭の後ろに隠れる。
すると、目の前からルーウェンと閃光が歩み寄ってきた。
「おーい、若!その子だよな、お前の新しい弟子って…」
「……ああ」
「でも、なんで隠れてるんだ…?」
「……知らぬ」
ガラテアは、若狭の後ろにびったりとくっ付くようにして隠れたまま、全く顔を出そうとはしない。ひょい、とルーウェンが覗き込んだ瞬間、その猫目を細めて、ぎーっと威嚇をし出した。
「はは、よせ、ルーウェン。話には聞いていたが、本当にその子は、若にしか懐いてないみたいだな」
閃光の言葉に、若狭がピクリと眉を顰める。
「……それはどういうことだ」
「知らないのか?その子、そうやって自ら進んで寄っていくのは若だけなんだ。俺達みたいな男や、勿論女まで、他の奴らには絶対に近づいたりしないんだよ」
「……………」
「まあ、これも人と接する機会じゃないか?まあ頑張れよー!」
笑顔でそう言ってのけて、ルーウェンと閃光は何事もなかったかのように去っていった。
取り残された若狭が、未だガラテアにしっかりとしがみ付かれたまま、まるで鉛を乗せられた様な、鈍い頭痛に視界を揺らす。
「………冗談ではない…」
「………」
これで、これまで通り、傍観者のままでいられるかと言えば、その可能性は限りなく零に近い。
これすらも、かつての過ちの報いなのか………。
悩める孤高の侍は、そのしがみ付く盗賊の少女の、やや赤らめた頬と、特別な視線に、勿論欠片も気付く事なく、突如訪れた"傍観者の立場の危機"に、独り、心中でひどく嘆くのであった。










あとがき。
孤高の侍若狭と、薄幸の盗賊ガラテアのお話でした。同じ侍盗賊の筈なのに、一気に書き難くなるのは何故なのか…。閃光とシャルルなら物凄く進み早いんですが。笑 まあ、それはこの二人の難しい性格にもあるような気がしないでもないのですが。
それにしても、若狭、喋る言葉にいちいち振り仮名多すぎですね…!一々堅苦しい!(オイ
一応これは出会い編なのですが、今後も傍観者の危機が訪れた若狭は随分悩まされるハメになります(笑)新キャラガラテアちゃんも出たばかりですが、応援してやって下さると幸いです。
それでは、ここまで見て下さって有難うございました。感想など一言送ってやって下さると嬉しいです。



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