少女は、恐れていた。 酔い痴れぬ不安に。何時襲い来るか分からない現実に。 どうか、今この敬愛する者と共に居れることの幸せを、崩さないで欲しいと。 ただそれだけを、一心に懇願して……… 迷妄するオートマタ 「…………師匠…」 虚ろな瞳をした盗賊の少女の呟きが、静かな空に響いて、ゆっくりと消えていく。 目線だけを周囲に張り巡らせたまま、ホルルト村の広場に、その少女――ガラテアは、特にすることもなく、ただぽつんと立ち尽くしていた。 「…師匠…一体、何処ですか…」 朝露に濡れる葉が、そっと雫を滴らせて、ガラテアの言葉を吸い取っていく。 実は今日、まだガラテアは若狭に会っていない。 いつもならば、師である若狭の隣に片時も離れず寄り添っているのだが。今日は、不思議と若狭の姿が見当たらない。普段なら若狭の隣で見据えるこのホルルト村の風景も、今のガラテアにとっては少々怖くさえ思える。風に煽られて、少し木々がざわついただけで、ガラテアはびくりと体を強張らせた。 「…………」 気をぴんと張り詰め、彼処に誰かの気配がないか探る。 しかし、運良くその気配はなかった。ふぅ、と安堵し、近くの手ごろな壷にぴょいっと乗って腰掛ける。 ―――正直、ガラテアはまだ人が怖い。 最近、シャルルやローラといったメイキング仲間達に、執拗に話しかけられたり、更には『テアちゃん』というあだ名で呼ばれたりと…比較的友好関係を持てては来たのだが、やはり、何処か居心地に違和感がある。 照れているからだとか、慣れないからだとか、色々と理由はあるものの……やはり、師匠である若狭の隣が一番安心するのだ。いや、そこでしか安心出来ない、とも言うが。 その安息の場所を求めて、彼を探すにしても、まだこの村の地理をよく知らないガラテアは下手に動くこともできず、彼が現れるのをこうして呆然と待つしかない、という状態に陥っているのだ。 はぁ、と深い溜息を吐いて、ガラテアは膝を抱えて顔を埋める。 (…………最近、妙に不安になる) 色々あって、敬愛する師匠に、自分を弟子だと正式に認めて貰って。 ずっと傍に居る事を、許して貰えて。 そんな、嬉しいことだらけだというのに……反面、それがいつか壊れてしまうのではないかと、時々とてつもなく不安になる。自分が事故とはいえ、母を殺めたことで、幸せだった家庭が、牢獄の11年間へと変わってしまったように。 まだ腕に残っている、痛ましい拘束の痕を見下ろしながら、ガラテアは唇を噛んだ。 と、はた、とガラテアが右横を見据えた瞬間、アデルとロザリーが此方に近付いてくるのが見えた。 考え込んでいる最中に、いつの間にやら接近されてしまったらしい。ここであからさまに逃げるわけにもいかず、ガラテアは顔を埋めたまま視線だけを上げ、ぐっと自らの膝を抱える力を強くした。 「ガラテア、ここにいたのか!」 「お主はただでさえ姿がよく見えぬからのう。見つけるのが一苦労じゃったぞ」 「………何の用ですか?」 ガラテアは淡々とした声色で、それだけを二人に問うた。 ああ、そうだった、とアデルは呟きながら、一端、周囲に他の人達がいないのをチラリと横目で確認し、本題を話し始める。 「実は、……ガラテアの父親のことなんだが…」 「!」 ぴくん、とガラテアの耳が跳ねた。 「今、偽ゼノンの呪いのせいで、色んな人たちが記憶をなくしていってるっていうのは知ってるよな?」 「……はい。師匠が教えてくれました」 「そこでじゃ。お主の父上は、記憶をなくしたからいなくなったのじゃろう?もうすぐ、余たちは、その偽ゼノンを打つ。そうすれば、皆の記憶も元に戻るのじゃ」 「待って下さい。それは一体どういう意味で……」 「つまり、俺達が、偽ゼノンを倒せば…―――」 「……………嘘…」 自分だけにしか聴こえないような、あまりにも小さな声で、ガラテアは呟いた。 ―――否、そのようにしか、呟くことが出来なかった。 「――…はぁっ!」 一方此方は、ホルルト村からやや外れた所に点在する森。得体の知れない形を成した植物たちが縦横無尽に轟いて群生して、そこら一帯を隙間なく埋め尽くしている。その為、まだ昼前であるというのに、酷く内部は薄暗い。時たま、怪しげな魔物の鳴き声すら小さく木霊していった。 そんな森の中に、何度となく、槍が空を駆る音と、一人の侍の青年――若狭の、猛々しい声が響き渡る。 一端、 その切り取られた枝が、地に落ちようとした瞬間―――若狭はグッと槍を振り被った。 「――――疾風迅雷!!」 叫ぶと同時に、まるで槍が分身したかのように、幾重もの飛翔体となって枝に襲い掛かる。的確に、矛先が葉先や枝の分かれ目を突く。最後に、ドンッ!と、頭上で回転させた槍と共に枝を強く貫いた後には、若狭の背後に残った枝は、既に見る影もない程に細かく刻まれていた。 ふぅっ、と若狭が息をつき、体勢を戻そうとした時。 「ッ!」 突然、右手に鈍い激痛が奔り、ガラン!と槍を落としてしまった。 「ぐ…、っ」 堪らず、槍を拾うこともできないまま、膝を折ってその場にしゃがみ込む。 ガクガクと痙攣する右手を、左手で強く圧迫するように握り締め、眉を顰めて堪える。暫くその体勢のまま、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返していると、やがて痛みは止んでいった。 「…………、やはり、進行している…か」 頬に一滴の汗を滲ませながら、若狭はぽつりと呟いた。 ふとそこで、すぐ近くの茂みがガササッとざわついた。ハッと気付いて其方を見据えると、そこには自らの弟子である盗賊の少女がいた。呆然と固まったまま此方を見ていたようだったが、若狭と目が合った瞬間、我を取り戻し、慌てて走り寄ってきた。 「師匠…!」 「……ガラテア…拙者に何用でもあって来たのか」 「あ…いえ、なんでもありません。それよりも右手をどうかなさったんですか?!」 ガラテアは何か言いたげのようだったが、苦悶の表情を浮かべていた若狭の事を心配し、逆にそう問い返してきた。 「大した事ではない」 「そんなはずはありません!師匠があんな顔をするだなんてよっぽどの事があったのでしょう?!」 何時から見られていたのかは分からないが、どうやらあの 「……汝には誤魔化せぬ、か」 ひとまず若狭は立ち上がると、虚ろなその蒼眼を曇らせ、心配げに此方を見上げているガラテアの頭を、ポンッと撫でてやる。 「先日、拙者の過去を汝に話したのは覚えているな」 「はい」 「これは、あの闇討ちの際についたものだ。転生したことで傷痕は消えたが、偶さか、痛みや麻痺が襲うなどといった後遺症が残ってしまった」 右手を凝視するように見下ろしながら、若狭は淡々とそう語った。 「だから師匠はいつも左手で槍を…」 「そうだ。やはり右の握力が左よりも格段に低いからな」 ごく、とガラテアは息を呑み込む。 「師匠。師匠の右手は……」 聞いてはいけないことだと思った。 体中の細胞が、悲鳴をあげるように軋んで警告した。 それでも、今聞かなければ、二度と聞けなくなるような気がしたから。 「師匠の右手はこれから…どうなるのですか………?」 どうしても問わずにはいられなくて、かたかたと震えた声で、ガラテアはそっと若狭に尋ねた。 若狭は、僅かに目を細める。 「……時が経つにつれ、右手の症状は今より更に進行し…やがては、近い将来、動かなくなるやもしれぬ」 「―――ッ!」 顔色一つ変えず、いやに冷静な声色で告げられた言葉に、ガラテアはただ立ち尽くす。 「気にすることはない。槍を振れない以上、戦いから退く事になるやもしれぬが、利き腕は左に訂正済み故、今となっては不自由もない」 明らかに動揺しているガラテアの様子に気付いたのか、若狭は少しでも安心させようと、そう優しく説明してくれたが、ガラテアの荒れる心を鎮めることは出来なかった。 (師匠が戦えなくなったら…私は弟子でもいられなくなってしまう…?) 言い知れぬ不安が、ガラテアの心を掻き乱す。 傍にいることすら叶わず、唯一残った絆の名すら取り上げられる事になってしまったら、自分は一体どうすれば…… 堪らず、固く目を瞑り、若狭にがばりと抱きつき顔を埋める。 「ガラテア、どうした…?」 「…………ッ」 人を恐れて、自分の後ろに隠れるようにして抱きつかれたりすることはよくあったが、このように真正面から ガラテアは顔を突っ伏したまま動かないので、若狭からその表情は分からない。ただ、そっと手のひらを重ねた肩が震えていたので、何かに怯えているのは感じ取れた。 「ガラテア。言わねば、分からぬ。……言ってみろ」 若狭の言葉に促され、きゅ、とガラテアは一端唇を噛み締めてから、漸く、言の葉を紡ぎ出した。 「…………先程、アデルさんとロザリーさんに、"偽ゼノンを倒せば、パパが記憶を取り戻して私を迎えに来るかもしれない"…と言われました……」 「!」 若狭がはっと眼を見開く。 しかし、すぐに元の無表情へと戻り、ガラテアを見据えたまま、何かを考え込むようにして押し黙った。 ガラテアは、若狭の服をギュッと握り締め、彼の体温にすがるようにして、頬を胸板に擦り付けた。 「パパが帰ってくるのは…嬉しいです。パパが私を思い出してくれたということだから。……きっとそうなれば、私はまたおうちに戻らなければならないと思います。でも、私は師匠と離れたくは……!」 ガラテアがその先を言おうとした時、突然、若狭がガラテアの肩を掴み、バッと強引に引き剥がした。 「…師匠……?」 先程まで傍にあった彼の体温が、突然感じられなくなったせいで、空気にあてられて酷く体がひやりとする。 咄嗟に若狭を見上げると、ひどく冷たく、まるで獲物を射抜くような鋭い眼で、此方を見下ろしていた。 「……父が帰ってくることは、汝が望んでいた事であろう?決めるのは汝だ……拙者は何も関係ない」 「―――ッ!!」 いつもよりも数段低いトーンの声で、はっきりと答えを突きつけられる。 "拙者は何も関係ない"。 吐き捨てるようなその言葉が、何度も何度も頭の中を駆け巡る。 心の何処かで期待していた。自分を引き止めてくれるのではないかと……自分を、弟子として、これからも手放さないでいてくれるのではないかと…… でも、これが若狭の返事。 脳裏で、何かが音を立てて崩れていく錯覚に襲われる。ぐらりと酷い眩暈が起きて、一瞬目の前が真っ暗になった気がした。――いや確かに、今見ているこの光景は暗闇なのだ。 彩が見えない。 若狭の黒い瞳に反射されて映る、あまりに愚かな自分の姿しか。 「………ぅっ…」 「……ガラテア?!」 若狭の驚きの声と、胸の奥から込み上げる嗚咽によって、そこでやっと、ガラテアは自分が泣いていることに気付いた。 「え…ち、違う…これは……」 慌てて、服の袖で拭ってみるが、その蒼眼の瞳から流れ落ちる涙は一向に止もうとしない。 「な、なんでもありません…!気にしないで下さい……っ!!」 もはやどうすればいいのか分からなくなり、ガラテアは若狭の手を振り払い、森の奥へと逃げ込むように走り去った。 どのくらい走っただろう、方向もよく分からぬまま、ガラテアは、森の中の情景などにも目もくれず、ひたすらに疾走していた。 まだ乾いていない すぐに、息が上がってきた。無理もない、こんなに走ったのは外に出てから初めてのことだ。 足がよたつき、速度が落ちてくる。酸欠を起こしかけているせいか、視界もなんだか朦朧としてきた。 「………ッ!」 そこでふと、木の根に足が引っかかり、がくんと体勢を崩す。 転ぶと思って咄嗟に目を閉じた瞬間、倒れこむより先に、誰かに後ろから腕を引かれた。 「ッ……師匠…」 振り向かずとも、ガラテアはその者が誰なのかが分かった。自分を追いかけて来るような人がこの人しか思い浮かばなかったから。 先程のこともあって、今彼の顔を見るのは気まずい。それに、今の自分のひどい顔を彼に晒したくない。ぎゅっと蒼眼を閉じ、ガラテアは腕を振り払おうと暴れだす。 「ガラテア! 「離して下さい!!師匠は私なんか関係ないと思ってるんでしょう?!私が師匠の弟子じゃなくなろうが、パパの所に帰る事になろうがどうでもいいんでしょう…?!!」 ガラテアの投げ遣りな言葉に、若狭が歯をぎりりと噛み締める。 「…違う、拙者はそうは言っていない!」 「言っています!!だって、師匠はまた私を突き放した!!私はもう師匠がいないと生きていけないのに、師匠といられればそれだけで良かったのに、また私は幸せを奪われてしまう…!!私が罪を犯したから、ママを殺したから、私はきっと一生幸せになんかなる資格がないからっ……!!!」 「――――――落ち着け、ガラテア!!!俺の話を聞け!!!」 「……っ」 怒号にも似た若狭の叫びが耳をつくと共に、温かい体温が、ガラテアを包み込む。 若狭に後ろから抱きすくめられているのだと、やや遅れて理解した頃には、乾きかけた喉からは、もう声一つさえ発せなくなった。 「………落ち着いたか?」 問われ、ガラテアはこくりと頷く。若狭はやや疲弊したらしく、一端息をついてから囁いた。 「……さきの答えを申すならば、拙者は否定させて貰う」 「え……?」 すぐ耳元で聞こえた彼の言葉にはっとする。 「汝は、父親と元の家族生活を取り戻したいと、強く 「………はい」 「それならば、折角の機会が訪れるやもしれぬというのに、拙者の存在で、お前を縛る訳にはいかぬ。故に、あのような事を言わねばならなかった」 (それじゃ…あれは師匠の本音じゃなかったってこと……?) それに気付き、ガラテアは首を曲げて若狭の方に振り向く。すぐ傍にあった若狭の視線と、自分の視線がぶつかって交わった。 「…真のことを申すならば、拙者はお前を手放したくはない」 「……師匠…?」 眩暈がしそうなほどの目交の中で、ガラテアは若狭の言葉を、彼の吸い込まれそうな程に深い黒眼に見惚れながら聞いていた。 「例え父の元に戻れても、あの父親自身が改心せねば、恐らく汝はまたあの惨い監禁生活を送る羽目になる。汝は拙者の心の 「………」 ガラテアはふっと俯き、肩に回された若狭の腕をぎゅっと掴んだ。 確かに、少し前までは、父と再び幸せな生活を送ることだけを願っていた。 手足を、青紫の痣が残るまでに強く拘束されても、満足な自由も食事も与えられなくとも、ときに体罰すら受けようとも…。それでも、頑としてガラテアの決意は変わることがなかった。 しかし、ガラテアは出会ってしまったのだ。 外の世界の住人に。自分をそのちっぽけな望みしか残されていない世界から、連れ出してくれる人に。 その時から、ガラテアの願いは徐々に変化していった……この人とずっと一緒にいたいと…初めて、あの家にいたくないと…この人が住んでいる外の世界に、自分も触れていたいと…そう、思えるようになった……… 「……師匠、どうして…?」 「ガラテア?」 ふいに聞こえたガラテアの問いに促され、若狭はそっと横からガラテアの表情を窺った。 すると、ガラテアの目元からは、再び涙が零れ落ちていて…惜しげもなく次々と頬へ流れ落ちるそれに、若狭は返す言葉すら忘れて押し黙った。 「……どうして、師匠はそこまで…私のことなんかを考えてくれるんですか…?私は……く…、師匠の大嫌いな、面倒臭くて、ききわけもない…駄目な弟子なのに……、ふぇぇ…っ」 込み上げる嗚咽を堪えるようにして、ガラテアはぎゅっと唇を噛み締める。咄嗟に閉じた目元から、大きな涙が溢れ出して、ぱたぱたと地に落ちていった。 若狭はガラテアの涙を指先で拭ってやりながら、優しく囁く。 「すまない、不安にさせてしまっていたか」 「いえ…もう良いんです……それより師匠…さっき言っていたこと……」 「なんだ」 そっとその蒼眼を開き、じっと若狭を見据える。 「私はもう……"機械人形"じゃない……?」 先程泣いてしまったために、やや頬は赤く火照り、まだ目元に粒を残している表情のまま、小さく祈るようにして尋ねて来たガラテアは、あまりに儚すぎて見えた。 今にも消えてしまいそうなほど、ひどくか細い彼女の体をしっかりと支えてやりながら、若狭は真っ直ぐにガラテアを見据える。 「………ああ。お前はもう、父に虐げられるだけだった"機械人形"ではない。当初は、あまりに感情薄いお前を、そう思ったこともあったが…今こうして涙しているお前に、どうすればこの言葉が当て嵌まろうか」 「…良かった……」 若狭の黒眼に、少しだけはにかんで微笑んだ自分の姿が映って見えた。 「だから、汝も"自分に幸せになる資格がない"などと申すな。汝は十分罪を償った、もう幸福になっていい」 「…はい…、はい、師匠…」 何度も何度も、その授かった言葉を確かめるように頷くと、ガラテアはそっと若狭の方に向き直り、腕を力いっぱい伸ばして、自ら若狭に抱きついた。すぐに優しい手のひらが、自分の背に回される。あやすようにして背を撫でられると、ふぅっと気が安らいでいく。不思議な気だるさと共に、若狭の胸板に体を預けると、何故かひどく胸がきゅうんと切なくなった。 心地よい温もりに縋りつくように、ぎゅうっ、とガラテアは若狭により強く抱き付く。そして、あまりに切ない声色で、ガラテアは誓約を欲した。 「……師匠、ずっと一緒にいて下さい……どうか、私を手放さないで………」 「当然だ。汝は、拙者の弟子なのだからな」 立てられた誓いに、どれだけの願いが込められたのかは、もう分からない。 ただ確かに、二人はここに誓った……永遠にも似た、決別の裁断を………… そして、翌日―――アデルの家にて。 リビングでくつろいでいたアデルとロザリーのもとに、蒼眼を持った盗賊の少女が近付いていく。その後ろから、やや遅れて傍観者の侍がついてきた。 「アデルさん、ロザリーさん」 「ん?ああ、ガラテアか。それに若狭も」 「おぬしたちが余たちに話しかけてくるとは、珍しいのう」 「ええ……それで、この間お二人が言って下さったことですが……私は、もうパパの元には戻らないと決めました」 「……そうか。じゃ、ずっと若狭といるんだな?」 アデルのその問いに、ガラテアは、隣の若狭にちらりと目線をやりながら、口元を少しだけ微笑ませた。 「はい。私は、若狭師匠の右腕となれるように、頑張って強くなりたいと思います」 「ッ?!」 ぎょ、と若狭の顔が歪む。 明らかに仰天したらしい若狭のリアクションに、アデルとロザリーは、ぷっと思わず吹き出した。ガラテアも、満足そうにくすくすと笑っている。 「ぐ………で、では…アデル殿、ロザリー殿…拙者達はこれで失礼致します」 居た堪れなくなった若狭は、強引にガラテアの腕を引っ張って、そそくさと退室していった。 残されたアデルとロザリーは、視線だけでお互いを見合い、嬉しそうな声色で話しだす。 「二人共、ずいぶん絆が深まっていってるみたいだな。やっぱり若狭に師匠を任せて良かった」 「そうじゃな。……しかし、ガラテアが"右腕になりたい"と申したときの、若狭の慌てようは一体……」 「ははは、どうやら若狭は、ガラテアのあの考えを、今初めて聞いたみたいだな」 「つまり、若は一敗食わされたということか。うむうむ、ガラテアも色々と成長したのう、あっぱれじゃ」 何処からともなくロザリーは扇子を持ち出し、愉快そうに『あっぱれ』と何度も言いながら、縁起良くぱたぱたと扇いでみせた。 「………どさくさに紛れて、なんてことを申しているのだ、お前は……」 一先ず廊下の端っこに逃げ込んだ若狭は、明らかに消耗した様子で、壁に手をついて項垂れながら、ガラテアに向かって忌々しそうに言った。 「いけませんか?今後も師匠にご指導して頂いていく上で、とてもいい目標だと思ったのですが」 若狭の心境など知らないとでもいったふうに、至って呑気に微笑んでいるガラテアを見下ろして、若狭は盛大な溜息をつく。 「…………勝手にするがいい」 「はい、師匠」 答えたガラテアの笑顔は、あまりにも嬉しそうに輝いていて。 本当に、お前はもう機械人形などではないな……と、良かったのか悪かったのか、複雑な心境で若狭は額に手をやり、鈍い頭痛に頭を悩ませるのだった。 あとがき。 若狭とガラテアの小説、第三弾。今回はガラテア視点で描いて見ました。 ガラテアの父親が記憶を取り戻したらどうなるか……ということが題材です。親問題は若とガラテアを語るに外せないものなので。二人にはまずこれを乗り越えて貰いたいと思ってこの話が出来ました。でもちょっと全体的に暗すぎですね(汗) あくまでまだ現在は、二人の絆を深める…という時点です。だからラヴくないorz もう、最悪裏行きでもいいから早く二人を恋愛モードにするべきk(強制終了 因みに、若狭がたまに「汝」と「お前」、「拙者」と「俺」などと言い分けている事はご存知でしょうか?感情が篭ったり焦ったりしてくると、若狭は思わず口調が後者になってしまいます(そして冷静になると前者に戻る…笑) 今まで描いてきた若狭も、所々そうなってますので、宜しければちょこちょこ注目してみて下さい♪ それでは、ここまで読んで頂いて有難うございました。楽しんで頂けましたら幸いです。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |