Side by side



あなたの隣は とても 暖かいから………





Side by side





「………」
それはなんの変哲も無いいつもの旅路でのこと。無言で、ルークはひたすらに彼女、ティアを見つめていた。
向こうは案の定全く気付かない。それどころか、隣でちょこちょこと可愛らしく歩くミュウを見下ろしてハートマークを乱舞させたり顔を真っ赤に染めていたりしている。ティアは可愛いもの好きだし、ミュウのような小動物系には目がないのも分かる――が、何故かルークはそれが非常に気に入らなかった。
「…なんだよ。ミュウばっかさ」
ぼそっ、と誰にも聴こえないくらい小さな声で呟く。いかにもつまらない、と主張するような表情が隠せなくて、もういっそ、という感じでだらりと両腕を頭の後ろで組みだらだらと歩いた。
流石にこれはだらしなさすぎたのか、こちらを振り向いたティア・ガイ・ナタリアに怒られたが、説教に応じる気も口答えする気も失せていたので、随分と気力を失った顔で適当に相槌をうつ。バレバレの相槌に皆はすぐ呆れ返って、溜息をつきながら再び前を向いた。
「………。」
ジェイドがふと立ち止まって、ルークの方を横目で見ながら考え事をするような顔をしたが、「大佐どうしたんですかー?」とアニスに言われたので、「なんでもありません」と返すとまたすぐに歩き始めた。




「だー、ムカつく…なんなんだよ一体……」
今夜の宿屋に着いても、未だなんだかわけのわからないことを呟きながら気力無さそうに項垂れているルークを見て、ついにガイが痺れを切らして此方に近づいてきた。
「おいルーク。お前今日どうしたんだ?随分とルークらしくないじゃないか」
ガイの言葉に少々顔を上げると、だらりとした声で答える。
「……わかんないんだ」
「わからない?」
ルークの言葉に、ガイが頭に疑問符を浮かべた。ルークはこくり、と頷く。
「うん。…なんかよく分からないんだけど、凄いムカつくんだ……イライラして気持ちの抑えが効かないんだ」
そう話すルークの顔は困惑を浮かべている。どうやら、この感情がなんなのだか分からないという彼の言い分は間違っていないらしい。もともと言葉のレパートリーが少ないというのもあるのだろうが、今まで感じた事の無い新たな感情を理解するのに戸惑っている、というところだろうか。
「そうか…どうすっかな…」
「何が原因なのか聞いてみればいいでしょう」
「わ、旦那も聞いてたのか?!」
突如後ろからジェイドがそう言ったのでガイは驚いてジェイドの方に向く。振り返れば、随分と楽しそうに微笑み、いつものうようにポケットの中に手を突っ込んで仁王立ちするジェイドの姿。どうやら珍しくも乗り気のようだ。
「それで、何が原因なのか分かりますか?ルーク。例えば、何かを見た時、何かをしている時にそういう気分になるとか…そんなもので構いませんよ」
ジェイドが数歩歩き此方に近づきながらそう言う。ジェイドを見上げながら、ルークはうーん、と呻きながら考えた。暫くの時間を要して、ルークは心当たりに辿り着く。



「……ティア、が…ミュウと一緒にいる時」



「は?」
「……」
ルーク自身はいたって真面目なのだが、いきなりの突拍子も無い言葉にガイは目を丸くする。逆にジェイドは呆れたように溜息をつきながら目を細めた。
「……おいおい、ルーク。それはあまりにも…」
「馬鹿げてますねぇ。しかも相手がミュウだとは、どこまでお子ちゃまなのでしょう」
「な、なんだよ二人して!俺は真剣だぞ!」
わかってるわかってる、とガイが興奮するルークを嗜める。なんとか落ち着かせると、ガイはルークを見下ろしながら、ゆっくりと話しだした。
「…そうだな、お前はティアとミュウが一緒にいるのが気に食わないんだろう?」
「うん」
「それで苛立って悪い態度をとってしまうと」
「うん」
「つまり、お前がミュウの場所につきたい…ティアと一緒に居たいってことだろう?」
「え、は、はああっ?!」
最後ではっきりと結論を出した途端ルークが顔を真っ赤にして立ち上がる。この様子からして、彼自身はたった今それを確信したのだろうが、そのリアクションではガイの想像は間違いないといっているようなものだ。
「べべべべ、別に、俺はそんな……」
「否定するなって。これであってるなら、解決策も簡単だぞ」
「ほ、本当か?!ガイ!!」
この嫌な気分が晴れると分かり、一気に喜ぶルーク。が、それが簡単だとはいいつつ意外と簡単ではないことをガイもジェイドも分かっているので、苦笑しながらルークをとりあえず落ち着かせる。
「…ま、まあな。でもお前次第だからな…」
「俺頑張るからさ!…で、どうすればいいんだ?」
「まあ、それはぶっつけ本番で構いません。とりあえずティアに直接会ってきましょうか」
眼鏡をくいっと上げながら、ジェイドがそう言う。はた、とガイが驚いた。
「ちょっと待て、それはいくらなんでも…」
「大丈夫でしょう。それよりルーク、ティアは何処に?」
「えと…ティアは、部屋に…多分ミュウも一緒」
「おやおや、敵を既に室内に入れているとは厄介ですねぇ。まあいいです、さっさと決めてしまいましょう――さぁ、参りましょうルーク、ガイ」
煽られてやる気満々であるルークは握り拳を作りながら、おう!と元気に返事を返した。まだやることすら分かっていない癖して威勢は随分といいものだ。一方ガイは果たして大丈夫なのかな…と心配の色を浮かべていたが、ストップをかけられないまま、最後までずるずると連れまわされてしまう事を既に予感していた。






「……ルーク?それに…ガイに、大佐。皆して、一体どうしたの?」
結局この三人でティアの部屋まで押しかけ、ドアをノックし彼女を呼んだのがほぼ数十秒前のこと。先程まで威勢良くしていたのはいいものの、目の前にしてしまうと緊張が先走るのか、ルークは顔を真っ赤にしてどもるだけだ。
「あ…えっと、そ、そうだ。ミュウ、お前のところにいるよな、どうしてる?」
……目的からついつい話を逸らしてしまうのが否めない。
ハァ、と後ろでジェイドが溜息をつきガイが苦笑したが、自分達二人が目的を話してしまってはどうにもならない。これはルークがやらなければならないことだ。二人の掛け合いを、ただひたすら後ろで無言で見守るだけ。
「ミュウなら…あ、ミュウ、ルークが来たわよ」
「ご主人様、いらっしゃいませですの〜♪」
ぴょんぴょんと元気よく飛び跳ねながら、ティアの部屋の奥からミュウがやって来る。ミュウの『いらっしゃい』が、まるでルークには『自分の居場所は既にここだ』と遠まわしに言っているように聞こえた。あからさまに表情が歪みかけるが、なんとか耐えた。
「ご主人様、ミュウを迎えに来てくれたですの?」
「あら、そうなの?ルークも偶には優しいのね」
ティアの隣にミュウが居て、ティアとミュウが仲良さ気に話す。いつもついつい説教かまされたり口喧嘩になってしまう自分とは、まるでかけ離れた掛け合い。また蘇る不快感に、ルークが唇を噛み締めた。
「…そ、そんなんじゃない!俺は…俺は…」
「ルーク?」
異変に気がついたのか、ティアがルークの表情を窺う。声色がいつもと違う事が分かれば、彼女の表情は一気に心配しているようなものに変わる。それでも、ルークは心の中にある知らない感覚に呻くだけだ。
「…ルーク、ご、ごめんなさい…私何か嫌なことしたかしら…」
「ち、違う。俺は…ただ、その…」
ティアに誤解させてしまったことに、ルークが焦るが、それの弁解には至らない。なんだか雲行きの怪しくなってきた二人の会話に、後ろでガイとジェイドが見守っている。ガイは口元に手を寄せて、あわわわ、とあの気まずい雰囲気に危機を感じている。ジェイドは口を閉ざしたままだったが、頃合を見計らると――いきなり、ルークの方に向かって歩き出した。



「おお――っと失礼、手が滑りました――っ♪」
「うわあぁぁああああっ?!!」
「え、えっ?!キャ―――ッ!!」



何食わぬ顔してルークの背を思いっきりドンッ!と押して、その突然の勢いに抗える筈もなく、ルークが真ん前のティアに向かって倒れこむ。彼女と共に転倒は避けたものの立ち尽くすまま急接近してしまう形になってしまった。
「ななな何すんだよジェイド!」
「いやぁすみませんねぇ、歳をとると感覚がおかしくなるものですから。ではでは私達はこれで失礼します、後は頑張って下さいねル――ク♪」
最後の最後でエールを送って、ご丁寧にもガイとミュウをがしりと掴むと、ドアを閉めてずるずると引き摺り去っていく。ガイの「どわぁぁ?!」とか、ミュウの「みゅううぅぅ」とか言う叫びが閉じられた扉の奥で聞こえた。暫くルークとティアはその名残を硬直したまま感じていたが、ハッと我に返って、漸くティアと隣接してしまっている事態に気がついた。
「あ、ごご、ごめんティア」
「え…べ、別に…」
そこで、ルークはハッと気付く。
このままじゃいけない、と。逸らしたまま彼女を離してしまっては、何にもならないのだと、直感的にそう思った。
気持ちが消えてしまわないまま、ぎゅう、と逆に強くティアを抱きしめた。
「る、ルーク…?!」
ティアは凄く驚き、背に回された腕や目の前に押し付けられる胸板に困惑しているが、それでも離そうとはしない。寧ろ腕の力を強めてぎゅうっと抱きしめて、彼女の耳元で囁いた。
「ごめんな、ティア。俺…なんだか、空回りしてた。お前が俺以外の奴と仲良くしてるところなんて、見たくなかったから」
「ルーク……それって…」
ルークとは違ってその感情の名称を知っているティアは、ルークの気持ちをすぐに悟る。ふぅ、と一つ息をつくと、彼の腕に抵抗するのを止めて、寧ろ優しく彼の背に腕を回した。
「ごめん、子供っぽいよな、俺。こんなんでお前にあたって、だらしなくて」
「ええ、そうね――でも…あなたの気持ち、とても嬉しいわ……」
最後に彼の胸板に顔を埋めて、ありがとう、と呟いた。
そこでじんわりと感じた彼の温もりが、とても、とても暖かかった。






「いててて…ジェイド、酷いぞ…」
「みゅうぅぅ。ジェイドさん、酷いですの。ミュウは何も悪いことしてないですの」
結局、無理矢理引き摺られて男性部屋に戻ってきた三人は、発端であるジェイドにそうして反論している。が、ジェイド当人はとても楽しそうな笑みを浮かべて「はは、すみませんねぇ」とか謝っているつもりの全く無い謝罪をしているだけだ。
「しょうがないでしょう。あそこまで不器用だと、少しぐらい押しが必要なものです」
「ああ、確かにあれは押しだったな…」
ガイがいかにも呆れた表情でジェイドを見る。フッ、とふとジェイドは微笑むと、ガイを横目で見ながら呟いた。
「とはいいつつ貴方も人の事は言えませんよねぇ。きちんとアプローチしておかないと、お姫様を王子様にまんまととられてしまいますよ?」
「な、な、なっ…?!」
ジェイドの言葉に一気にガイの顔が赤面する。いかにも図星な反応が物凄く面白い。はは、と笑いながら、ガイとミュウを部屋に放置してジェイドは部屋を出た。
部屋を出てすぐにドアに背を傾けると、腕を組みながら目を伏せる。
「若いって良いですねぇ。ま、私も少しは見習ってみますよ」
頭の中でかの生意気な少女を思い浮かべながら、ジェイドはニッコリと微笑んだ。






それは恋焦がれる者の隣を望む、本能紛いの嫉妬心。
精一杯悩んでみて、それを伝えられたなら。隣寄り添い腕を組み、叶えてみましょう彼の想い。










あとがき。
「Side by side」でした。これの意味は「寄り添う」というもの。そのまんまです(笑)最近タイトルに英語を使うのが好きなのでよく調べて使います(笑/でも調べてるのは兄、何)。
ルークとティアの恋愛をガイとジェイド(+ミュウ?/寧ろお邪魔虫?)が応援してあげてたらいいなと思いました。男の友情です(ニヤリ)。
相手は全然出ませんが一応お二方の想い人にも伝わるといいですねぇ。

ちなみにこの小説、70000HIT記念のフリー小説となっております。 ※配布は終了致しました。

それではこんなシロモノですが、面白いと思って頂けたら幸いです。



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