今日もホルルト村は、相変わらず快晴だった。村一帯が、春を呼ぶ、とても心地よい風に包まれている。その広場で何故か、メイキング全員が一堂に集まっていた。
実は今朝、皆の師であるアデルが、重大な報告ある…と言ってここに集まるよう託けたのだった。広場に全員いることを見計らって、アデルは高らかに話しだす。
「今日は皆に、新しい仲間を紹介したいと思う」
途端に、おおおっ、と歓声が湧き上がる。新加入者の到来は、皆にとって、とても嬉しいものだ。
「新しい仲間って、イヴちゃんやテアちゃん以来だよね〜!」
「ふふっ、今度はどんな人が入ってくるのか楽しみね♪」
シャルルとローラの仲良しコンビが、明るく喋りあう。
そして、皆の期待が膨らむ中、アデルに手招きされて、目の前に見知らぬ青年が姿を現した。
高く結い上げられた暗緑の長髪、やや子供っぽさを残した顔立ち、髪より更に深い色をした大きな瞳。右手には、細身のそれに似使わないほどの大きな斧を携えている。
全員が、また個性的なその新加入者を、驚きと、何だか変なデジャヴ…?を感じながら、惚れ惚れと見つめていた。
そんな視線に動じる事も無く、その青年は、にっこりと爽やかに微笑んだ。
「初めまして、剣聖のルキノです。宜しくお願いします!」
手始めに、一番前に立っていたルーウェンに、進んでルキノは握手を施す。ルーウェンはそれで我に返ると同時に、慌ててその手を握り返した。
「おっと、こりゃご丁寧にどうも……って、せ、閃光?お前何硬直してんだ?」
そこでふと、隣に立っている閃光が、何故かカッチーンと石の様に硬直している気付く。
何故かはよく分からないが、挨拶くらいしろよ、とルーウェンが突っ込む。すると次の瞬間、閃光は、ぶるぶると体中を震わせながらルキノを指差し、重い口を開く。
「……その声…、もしかして……雷光、か……?」
「へ?雷光?」
この青年の名前は『ルキノ』の筈なのに、何故か閃光の呼んだ名前は『雷光』。
…そーいえば、閃光と雷光って、名前似てるような……。それによくよく見ると、二人の顔立ちや目元は、――ルキノのが閃光より幼さが目立つが――瓜二つだ。
もしかして、さっき感じたデジャヴって……。
「そうだよ、兄さん!久し振りだね!」
「兄さん?!え、ルキノと閃光ってまさか……え、えええぇぇ?!!」



…どーやら、兄弟の感動の再会のようです。





Vaudevillian





「―――という訳で、こいつ、雷光は俺の弟なんだ…」
なんとなんと、この度仲間入りした人は、実は閃光の弟でしたというサプライズ。
当然、予想だにしていなかった人物の到来に、驚いて唖然としている皆。だがそれよりも、閃光本人の方が、この度の出来事にかなり参っているようだ。頭を抱え、まるで死にかけのような、イケメン台無しのひどい顔つきをしている。
「違うよ兄さん、今は雷光じゃなくてルキノ。ちゃんとあざなで呼んでくれよ」
「あぁはいはい……、っつーか、なんでわざわざここに来たんだよ…?」
ルキノの要望を棒読みで済ませた閃光は、一番の問題を単刀直入に切り出した。
「実はオレも修行に出る事になったんだ。で、どうせなら兄さんと一緒に戦いたいなあって思って」
「うげ……」
兄と一緒に戦いたい―――皆から見れば、なんと美しい兄弟愛。
しかし、当の閃光は、明らか〜に嫌そうである。
「ふふ、とっても兄さん想いなのね」
「いい弟さんじゃない、閃光!」
ルキノの発言に感動した様子の、ユリエとクローディア。勢いのまま、クローディアにバシンと背中を思い切り叩かれて、閃光は痛みを堪えながら、何処がだ、と小さく毒を吐いた。
「しっかし、まさか閃光に弟がいたなんてなぁ…全然知らなかったぞ」
「話してないから当たり前だろ…」
閃光がそうぶっきらぼうな発言をした途端、ルーウェンとシャルルが、ずずいっと閃光に怒り顔で詰め寄った。
どうしてマブダチの俺に言ってくれなかったんだ、とルーウェン。どーしてこいびとのあたしに教えてくれなかったの、とシャルル。弟がいるという(しかも本人登場したし)重大なことを教えてなかったのだ、二人が怒るのも無理は無い。二人の物凄い圧力に、閃光は思わずたじろいだ。
「お、俺にだって、色々と事情があるんだよ……」
「…ね、ねぇ!ところで、ちょっと気になったんだけど…ルキノだとか雷光だとか、なんで名前が二つあるの?」
大ピンチの閃光を見かねて、常識人ユリエが、なんとかフォローしようと、話をずらすために気の聞いた質問を持ちかけた。
「あぁ、実は『ルキノ』ってのはあざななんだ。オレたち侍や忍者は一種の隠密集団だから、あまり本名を知られたらいけないんだよ。だからこうして、本名の代わりにあざなをつけるんだ」
ルキノの答えに、ふうん、とユリエを始め全員が関心したように鼻を鳴らす。
「へぇ……じゃあ『ルキノ』があざなで、『雷光』が本名ってこと?」
「そういうこと」
「ねぇ、それじゃ、もしかしてイライザとヴァジーもあざななの?」
くるりと二人を振り向き、シャルルが二人に問いかける。イライザとヴァジーは、一度ちらりとお互いを見合い、すぐにうんうんと頷いた。
「御意。本名は本来、家族以外には知られてはいけぬ故、公言してはおらぬが、ちゃんと別に持っているでござる」
「にん」
「え?じゃ、閃光と若は本名なのかしら…?」
「若は違うだろ。もともとミーメイっていう旧名があるし…」
クローディアの疑問にルーウェンが答えた途端、ルーウェンの首筋に、矛先輝く、黒い槍が宛がわれていた。
「………貴様、貫かれたいか…?」
「すみませんもう言いません勘弁して下さい!!」
勿論、その槍――ガイアの槍の持ち主は、若狭。もんのすごいドスのきいた眼でルーウェンを睨みつけている。命の危機を感じたルーウェンが速攻で謝ると、漸く若狭は槍を首から離した。
「こ、怖ぇよ若…」
「まぁ、それはあなたの自業自得でしょう。ところで、閃光は…」
「ぎぐり」
クローディアが目配せをした途端、閃光はあからさまに体を強張らせた。その反応で『閃光』は本名なのだと、即刻、全員が直感した。
「………」
「う、うるせぇぇっ!!しょうがないだろ、付け忘れたんだから!!悪いかっ!!」
全員の無言に耐え切れず、顔を真っ赤に染め上げて、閃光が叫ぶ。
…あざな、付け忘れたんだ……。と、思わず、皆して閃光に哀れみの視線を送る始末である。
「まあ、閃光のへっぽこな失敗はこのへんにしておいて、恒例のあだ名付けいっきまーすっ♪」
「お、きたなぁ、いつものやつ」
一人落ち込む閃光を放置して(酷)、シャルルは早速、その独自のインスピレーションを働かせる。
「ん〜とね、ルキノにはね……そーだ、るっきーとかどう?」
「るっ…ぶふっ!」
「るっきー?!うわぁ、オレそんな風に呼ばれたの初めてだよ!」
自分の弟についた、なんとも可愛らしいあだ名に、兄が吹き出すのなんて露知らず。ルキノは、ぱぁっとものすごく嬉しそうな笑顔を見せた。
「あ、なんだか気に入ったみたい…?」
「いい趣味してるわね…」
ユリエとクローディアが、初めてあだ名を心から喜んでる人を見たせいか、ちょっと驚き気に呟いた。
「それじゃ、これから宜しくねっ、るっきー♪」
「ああ、勿論だよ!」
がっしり、とシャルルとルキノはかたく握手を交わす。
「はは、ルキノ、なんだか早速シャルルと仲良くなってんじゃないか?弟にとられないよう気をつけろよ?」
なんだかテンポが似てるせいか、気の合いそうな二人を見かねて、ルーウェンは冗談っぽく閃光に言う。
「雷光の野郎………俺はへっぽこって酷ェあだ名つけられたってのに、まともなあだ名にありつきやがって……っつーか、もしシャルルに手出ししがったら、弟と言えど許さねえ……その時は本気で一刀両断にしてやる……ククッ………」
思いっきり目を据わらせ、怨念のようにブツブツと、危なっかしい事を呟いてる閃光。それを直視してしまったルーウェンは、げげっ、と呻いて顔を一気に青ざめる。これはどーやら、絶対冗談じゃ済まなそうな勢いだ。
「せ、閃光落ち着け!!変なこと言った俺が悪かった!!た、頼むから落ち着いてくれ――――っっ!!!」
なんとかこの危ない侍を落ち着かせようと、必死な戦士の叫びが木霊した。






やがて、ルーウェンが閃光を落ち着かせるのに成功した頃(その代わりルーウェンは疲労によりダウン中)、兄の隠れた憤怒や一人の戦士の苦労など露知らないルキノは、早速持ち前の好奇心を輝かせて、ホルルト村のあちこちを走り回っていた。
「うわぁ…兄さん、この村って結構広いんだね!」
「ま、まあな…」
「ねえねえ兄さん、あっちの森の方をちょっと見て来てもいい?」
そんなに村が珍しいのだろうか、大きな暗緑の瞳をキラキラと輝かせて尋ねてくるルキノ。
「まあ…その、なんだ、テキトーに行って来いよ…」
「うん、分かった!」
閃光が呆れ気味に許可すると、ルキノは意気揚々と森の中に走って入っていった。実質、一番テキトーなのは閃光な気がムンムンとする。
「…ちょっと、閃光。あなたルキノのお兄さんでしょ?それなら、もっとまともに話せないの?」
「そうだよ、るっきーとってもいい人だよ?」
「まあ、ちょっと天然っぽいけど…」
クローディア、シャルル、ユリエにそう促されても、閃光はそのげっそりとした表情を崩すことはない。
「お前達は知らないんだ、雷光がどれだけ常識外れな性格をしてるか……」
「「「……?」」」
閃光の呟きの意味が分からない三人は、一体なんなんだろう、と首を傾げた。
「ハァ…まあいい、そのうち分かるさ……それにあいつは妙な所で運があってな、今頃きっと森で何か見つけて叫ぶんじゃ……」



「うわぁぁぁ―――――っっっ!!!に、兄さん、兄さ――――ん!!!!」



「………やっぱり…」
なんとまぁ、物凄いピンポイント。
閃光の予言通り、ルキノの大絶叫が、森の方から響いてきた。閃光は重苦しい溜息をつき、渋々弟のいる森の中へと入っていく。皆も(ダウンしたルーウェンをも強引に引っ張って)、閃光に着いていく。
数分歩くと、すぐにルキノは見つかった。芝生の上に膝をつくようにして座り込んで、何かを腕の中に抱えている様子だった。ここからはそれが何かは把握出来ない。
「どうした、雷光?埋ってた骨でも見つけたか?」
それなら大した宝物だなー良かったなーと、適当に片付けようとする閃光に、ルキノはぶんぶんと首を横に振って叫んだ。
「ち、違うよ!森の中に、この子が倒れてて…!」
ルキノが立ち上がると、その腕の中には、一人の女の子が抱えられていて。
……え?女の子?
「――――はぁ〜〜〜〜〜っっ?!!!」
予想だにしていなかった結果に、閃光が絶叫する。
その少女は、シャルルと色違い――濃い赤紫の盗賊の服装からして、トリックスターではないかと推測する。
顔立ちから、まだ子供っぽさを残してはいるものの、シャルルよりかは少し年上だと窺える。そして彼女には、最も特徴的な―――右目に水色の雫の、左目に橙色の星のタトゥーが施してあった。一体何故顔にこんな目立つタトゥーがあるのかは、皆誰も分からなかったが。
そして、少女は、やはり行き倒れているというせいもあり―――顔色がひどく青ざめていて、危険な状態だ。
「大変、早く診せて!」
慌てて、皆の看護役・クローディアが駆け寄り、少女の容態を診る。
…こんな森の中で倒れているとすれば、もしかしたら、何か病気にでもなっているのかもしれない。そうなれば、即座に治療をしなければ命にかかわる。
そういった危険性も考慮して、急いで触診をして診ているクローディアに、漸くダウンから復帰した(遅)ルーウェンが、心配気な顔で呼びかける。
「どうだ、クローディア?」
「うーん…どうやら、特に怪我や病気ってわけでもないみたいね。ならどうして倒れたりなんか…」
クローディアが小首を傾げた瞬間、ぐうぅ、と少女のお腹が鳴った。
「お腹……空いタ……」
「「「「「……………」」」」」
原因、発覚。
少女がうわ言のように呟いた言葉に、六人全員が硬直して固まった。






アデルの家のリビングに、食器とスプーンがぶつかるけたたましい音と、がつがつ、と出来たての大量の食事をがっつく音が木霊している。
あれから、少女を家の中にまで運んだあと、ハナコに頼んで速攻で料理を作って貰った。その途端、少女は物凄いスピードでそれを食べ始めたのである。
皿の上に大量に盛られていた筈のご飯が、物凄い勢いで減っていく。その様を、ひたすら皆は無言で見守っている。
「よく食べるわね……」
「ルキノ、とんだ拾いモンしたな……」
ぼそり、とクローディアとルーウェンが呟きあったが、それは部屋中に木霊する音に混じって消えていった。
やがて食事を綺麗に平らげた少女は、爽快な笑顔で息をついた。
「ぷはっ!あぁ、生き返ったヨ。行き倒れてた所を助けてくれた上、ご飯まで食べさせてくれて、ほんとに有難ネー」
これまた、ちょっとクセのある口調で、明るくお礼を言う少女。
「いやいやそれほどでも…っつーか、お礼は第一発見者のこいつに言ってくれ」
閃光が、ルキノをずいっと少女の前に押しやる。ぱちくり、と少女は目を瞬かせた。
「アナタがワタシを見つけてくれたノ?」
「うん、そうだよ。オレはルキノって言うんだ。君の名前は?」
ルキノは、さっきの少女の食べっぷりを気にする様子もなく、爽やかに問い返す。
「ワタシ?ワタシはジーンっていうヨ。」
「ジーンか…可愛い名前だね。ねえジーン、どうしてあんな所で行き倒れてたの?」
「ワタシ、宛てもない一人旅をしてるノ。でも、天性の方向音痴でネー。たまにヘマして、ああやって行き倒れちゃう事があるわけヨー。アハハハハー」
ジーンは、まるで人事のようにケラケラと笑った。
「旅人の癖に、方向音痴かよ……」
「笑い事じゃねえよな……」
ルーウェンと閃光が、思わず小声でそう突っ込んだのも無理はないだろう。どーりであんなとこでぶっ倒れてたわけだ、と事の真相がよーやく理解できた。
「まあ、兎に角。ジーン、空腹で行き倒れるくらいだし、長旅で疲れてるでしょう?宛てのない旅なら急ぐ必要もないわけだし、今日は泊まっていきなさい」
クローディアの気の利いた誘いに、ジーンはパァッと顔を綻ばせる。
「ホント?!いやぁ、助かるネ!それじゃあお言葉に甘えて泊まらせて貰うヨ〜」
「ふふ、自分の家だと思って(くつろ)いでね。今、アデル師匠に部屋を貸して貰えるよう言って来るわ」
「有難ネ〜!」
早速、クローディアはアデルの元へと許可を取りに行った。その背中に向けて、感謝の意にと、ジーンは何度もぶんぶんと手を振る。
そして、部屋を出て行ったのを確認すると……ジーンは手を降ろし、ふぅ、と溜息をついた。
「…………自分の家、カ…」
「………?」
先程の笑顔が信じられないほど、暗いジーンの表情を目撃してしまったルキノは、僅かに小首を傾げた。






その夜―――零時が過ぎ、皆も完全に眠りについた頃。
ふと、アデルの家の扉が、ギィィ…とゆっくり開き、すぐに閉まる。静かな足音が、徐々に村から外れた方向へと響いていく。ザァ、と夜風が木々をざわつかせ、雲を流し―――顔を出した月が照らすは、誰も居ない草原にただ一人佇む、ジーンの姿。
「………」
無言を保ったまま、片手には、ただでさえ少ない荷物を引提げて。ふと見上げた月明かりの眩しさに、堪らず目を細める。月光の下で、星のタトゥーが少しだけ輝いた。
そこで一度、ジーンは立ち止まり、村の方を振り返る。
(……お礼も言えないまま、立ち去るのは不本意だけド…しょうがないのヨネ)
一宿一飯の恩を、出来ればきちんと返したい…が、生憎そうもいかないのだ。ゴメンネ、という言葉を呑み込み、ジーンは再び歩みだそうとする。



「――――ジーン!」



「ッ?!」
突然名を呼ばれ、慌ててジーンが振り返ると、そこにいたのは、見覚えのある、暗緑の髪の青年の姿。
「……アナタ、確か…ルキノだっケ?」
ルキノは走ってジーンの元にまで辿り着くと、膝に手をつき、ぜいぜいと荒い息をした。
「はあ、はあ…良かった、なんとか追いついた…」
「もしかして、ワタシを追いかけてきたノ?」
「うん。部屋から抜け出していくのを見て……」
ルキノが息を整えるのを見計らって、ジーンはにっこりと笑顔を作り、陽気な声で話しだす。
「そっカー、ゴメンネ、追いかけて来て貰って何だけド、実はワタシもう旅立たなきゃいけないのヨ〜」
「どうして?宛てのない旅なんだろう?こんな夜中にわざわざ行かなくても…」
「そうネ、ホントはそうしたいところなんだけド、ちょっと言えない理由があってネ」
「どうして…?」
二度目のルキノの問いかけに、ジーンは、ふっとその笑顔を崩す。
「だから、"言えない理由"…ヨ」
まるでそれは、村に泊まることを促された後、一人暗い顔をした……その時の表情とそっくりだった。ルキノは、ぱちくり、と目を瞬かせる。
「……じゃ、ワタシはもう行くかラ〜!もう逢うことはないでしょウ、サヨナラ、ルキノ!」
にぱっ、と再び笑顔になったジーンは、大きく手を振りながら、走ってその場を立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと待って、ジーン!」
「何?」
「そっちに行くと逆戻りだよ」
「………ア。」
ルキノにツッコミをされ、よくよく見れば、その道は、急旋回してホルルト村へ戻る道だと気付く。
あぁ、また方向音痴を発揮してしまった…とばつの悪そうな顔をしながら、ジーンは、慌てて別の道をずんずんと大股で歩いていく。
「ジーン!」
「ま、まだ何カ?」
そこでまたもやルキノに引きとめられ、ジーンは少々苛立ちを覚えながらも振り向いた。
ところが、振り向いた際に目に入った彼の表情は、何故かとても真剣な趣で、自分を見詰めていて―――
「……あのさ。オレには君が一人旅にこだわる理由は分からない。だけど…」
「………」
整った形の唇が紡ぐ、言葉の一つ一つを、呆けるように見惚れながら、ジーンは黙して聞いていた。
「だけど、オレは思うんだ。君は一人になったらいけないって」
「…ッ?!」
カッ、とジーンが目を見開く。不意を打つようなルキノの言葉が、ぎゅぅ、と心臓を締め付ける。しかし、なんとかその痛みを堪えると、ジーンは無理矢理に笑顔を作ってみせた。
「な、なに変な冗談を言ってるノ〜?ワタシの事、アナタは何も知らないでショ?」
「そうだよ、オレはまだ君のことを何も知らない。でもオレには分かる。君は一人になったらダメだ。オレと一緒に、皆のところに帰ろう」
―――帰る?
―――いきなり何を言うかと思えば。
―――人が、どんな気持ちで、こんな笑顔を作ってるかも知らないで…!
ジーンの笑顔が、すぅっと一気に消えていく。その代わりに残ったのは、その歳に相応しくないほどの、冷酷な表情。
「……悪いけど、お断りネ。」
冷たい視線が、ルキノを貫くように睨んで、淡々とジーンはそう告げる。
「どうして?」
だが、それに動じることもなく、ルキノは問う。
「さっきも言ったネ。訳は言えなイ。」
「なんで?」
「い、言えないものは言えないネ。でもワタシはちゃんと断ったヨ、それで十分でしょウ?」
しつこく理由を問うルキノに、ジーンはやや調子を崩されながらも、なんとかきっぱりと言い放った。そして、こうなったら早々に立ち去ってしまおうと、きびすを返す。
しかし、その瞬間、ルキノに腕を掴まれて引き止められた。
「ッ?! ちょ、何ヲ…!」
「でもオレはまだ納得してない」
腕を振り払おうと暴れるが、意外と力強いルキノの腕は、離すことを許そうとはしない。
「さぁジーン、帰ろう?」
「嫌ダ!ワタシは帰らなイ、手を離しテ!」
頑として首を横に振り、尚も抵抗をするジーン。
「……ジーン!」
「エ…?」
ふと、いやに真剣な声色で、ルキノがジーンの名前を呼び、そして―――気付いた頃には、ジーンはルキノに抱き締められていた。
耳元に、吐息が触れる。自分の体をすっぽりと包み込む、暖かな温もり。
一体何が起こったのか分からず、硬直するジーンに、ルキノはそっと囁きかけた。



「……行かないで、ジーン。オレとずっと一緒にいよう」



「―――ッッ!!」
トドメの一撃にも似たルキノの言葉に、ドッキーン!!とジーンの心臓が飛び跳ねる。
まだ幼さは残しているものの、こんなイケメンに―――抱き締められて、大きな暗緑の瞳で見つめられて、まるで愛の告白めいたことを囁かれて。
……これで、ときめくなと言う方がおかしいのではないだろうか。
「ダメかな?」
「〜〜…っ」
ぱくぱく、と口を開けたまま、恥ずかしさと困惑で喋れないでいるジーンに、お構い無しにルキノは返事を問う。勿論ジーンは返答など出来ないので、ただ無言を返すばかり。
「あ、良いんだね。それじゃ、帰ろうか」
その無言を、勝手に暗黙の了解だと片付けたルキノは、そのままジーンを軽々と抱き上げ、意気揚々とホルルト村の方へ帰っていった。






「……なんで結局帰ってきてるノ、ワタシ………」
翌日―――ついに、旅立つことが出来なかったジーンは、途方に暮れて、広場でただ立ち尽くしていた。
「おはよう、ジーン。よく眠れた?」
そこで自分を引きとめた本人が、まっさらな笑顔で声をかけてきた。咄嗟にジーンは、いかにも憎らしそうにルキノを睨みつける。
「眠れるわけないじゃなイ、アナタのせいデ、ワタシは旅立てなかったのヨ?」
「あ、そうだ!」
ルキノは何かを思い出したらしく、ぽんっと両手を叩き、ジーンの苦情を見事にスルーする。
無視されて、思わずジーンが頭にムカつきマークを浮かべた。が、ルキノはそんなことに全く気付かないまま、能天気な笑顔で話しだす。
「ジーン、そのことなんだけどね。君がもう旅立ちを心配する必要は無くなったよ」
「………ハイ?」
唐突なルキノの言葉に、思わずジーンは呆気に取られて固まった。
「実はね、さっきアデルさんに頼んで、ジーンを正式にオレ達の仲間にして貰うことにしたから」
「………ハイ―――?!!!」
ちょっと待て!仲間になるだなんて、一体いつ誰が言ったッッ?!
心の中で思いっきり本音を叫んだ瞬間、ふと、昨晩のルキノとのやり取りを…彼のあの言葉を思い出す。



『……行かないで、ジーン。オレとずっと一緒にいよう。ダメかな?』



あのルキノの言葉に、自分は答えた覚えがないが……。もし、この男が自分勝手な考えで、自分の無言をOKだと思い込んだとしたら……
ずっとこの人と一緒にいる=仲間になる ってこと?
「ひぎゃァァッ!!そ、そんなバカなことガ…ッ!!」
一様に信じたくない現実に、ひたすら、これはただの悪夢であってくれ!とのた呻くジーン。
そんなジーンの様子など気にも留めず、ルキノは無情にも更に話を続ける。
「因みに、仲間になるには師匠が必要らしいんだけど、特に考え付かなかったから、無難にオレにしといたよ」
「うゲッ…!ちょっト、アナタ、なんテことしてくれたノ…!」
仲間にならなければならないという、最悪の事態に陥ってしまった上に、更にはこのとんでもない男が自分の師匠というダブルパンチ。
ジーンはいかにも嫌そうな顔をしながら、堪らずルキノの顔面に向かって拳を翳した。
「まあまあ。それに、君はここにいた方がいいってオレは思うよ」
またそれか、と思い、ジーンは呆れ返って眼を細めた。
「ハァ……ずっと気になってたんだけド、何処からその理論の根拠がくるノ?」
「ははっ、そんなの簡単だよ」
ルキノはニッコリと微笑んで答える。



「君がずっと、オレに傍にいて欲しそうな顔してるからさ」



「?!!!」
唐突な、また告白めいたルキノの言葉に、ボンッ!!とジーンの頭から湯気があがる。
「な、何…?アナタ、もしかしてワタシのこと口説いてるノ……?」
「? オレ何か変なことした?」
「も、もーイイヨ…」
ルキノは本当に何も分かっていないらしく、能天気に首を傾げている。その様を見て、もはや言い返す気力すら失ったジーンは、ハァ、と大きな溜息をついた。
そのタトゥーが施された頬を、うっすらと赤く染め上げて……。






「な、なんかすげーな、ルキノ…」
「よくもまあ、あっけからんとあんな事言えるものね…」
「あはは…、しかも本人は言葉の重大さに無自覚だし」
ルーウェン、クローディア、ユリエの三人が、只今のルキノとジーンのやり取りを見て、呆れと恥ずかしさを覚えながら言い合った。
その三人の背後から、げっそりとした顔の閃光が、重々しい声色で呟く。
「…よーやく分かってきたか?あいつはあーゆーヤツなんだよ…気に入った人を傍に置いておきたくて、とことん追い掛け回すタチなんだ……」
「じゃ、閃光がるっきーの仲間入りに不機嫌だったのって…」
シャルルの問いに、閃光はおもむろに拳を握り締め、熱く語りだす。
「そうだ…!東方にいた頃、どれだけあいつに、兄さん兄さんって無邪気に言われながら、カルガモのように何処までもしつこく着いてこられたかっ…!!」
……閃光がルキノのことを皆に話さなかったのは、どーやらこのある意味痛々しい経験のせいだったらしい。
「無意識ストーカー…確かに性質が悪いわ」
「はは…それじゃ今度は、ジーンがその餌食(ターゲット)みたいだな。ご愁傷様…」
クローディアとルーウェンが、溜息混じりにそう言い交わした。
どうやら、これからますます村が賑やかになるのは、間違いようのない事実だろう……。










あとがき。
愛が偏りすぎてやってしまった……三組目の侍×盗賊。の小説。
閃光はへっぽこ+ドS侍、若狭は傍観者、そしてルキノは……ええ、そうです。ストーカー侍です(核爆) 閃光といいルキノといいとんでもない兄弟だな!!笑
ジーンはまだまだ謎に包まれた子ですが、今後少しずつ彼女の過去なども暴いて参ります。同時にたくさんルキノに追い掛け回されると思われますが覚悟したって下さい。(誰に言ってるんだ
それでは、ここまで読んで頂いて有難うございました。楽しんで頂けましたら幸いです。



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