―――だーれかさんが、だーれかさんが、だーれかさんが見つけた……

―――誰を?

―――ねぇ、見つけて…

―――私を、見つけて…!





ここにいる





真っ暗な世界が、私を取り巻いている。
周りに犇めく生えている木々や草花が、風が凪ぐごとにざわざわと鳴いている。遠く遠くで聞こえる、獣達や、既に寝に耽った筈の鳥達の声すらもが、静かなこの森の中では、どんな音すらも鮮明に耳に入ってくる。
だからこそ増すであろう、胸の奥から這い出てくる恐怖感に、―――『妖獣』のアリエッタは震えている。
いつも持っている人形ごと膝を抱えて、冷たい地べたに座り込み、アリエッタは目元に溢れんばかりの涙を浮かべ、しかし口だけはキュッと閉じたまま、がたがたと、ひたすらに震えていた。
(………どうして、こんなことになっちゃったんだろう…)
元々は、とある六神将の任務の一つとして、この森に来たのが発端だった。任務をこなしていくうち、いつの間にか森の奥へ奥へと入り込んでしまい…ついには、迷ってしまった。いつも傍らにいて自分を慰めてくれるお友達の獣達も、はぐれてしまったようで、今はいない。身に沁みる孤独と、恐怖。それがよりいっそうに、アリエッタの身を痛めつけている。
(やだ、やだ…怖い……)
冷たい風が吹く度に、木々や草花がざわつく度に。底知れぬ不安が、襲い掛かってくる。
夜中になって冷えるせいも相成って、背筋が寒くなってくることが、また余計にそれを増幅させている。
縋るように頭の中で思い出されるのは、暖かな思い出。
これを考えてる間は、幾分心が落ち着くような、恐怖感が取り除かれるような気がして、身が凍えるのすら忘れて必死で記憶の断片を探り上げていった。
ママのこと、仲の良い獣達のこと、導師守護役を勤めていた時のこと……どれも、温もりがあって、暖かかった。
還りたい、戻りたい。
こんな暗い所は、寂しい所は、嫌だよ……!



―――――ガササッ



「ッ?!」
茂みから聞こえた物音に、急いで振り向く。けれど、それきりその茂みは何の音も発しなくなってしまった。
「な、に…?」
もしも、森に住む魔物だったら。お友達の獣だったらいいかもしれない―――でも、それだったら聞き慣れたあの声で私を呼んでくれる筈。だからきっと、違う。
じゃあ、それなら誰?



―――だーれかさんが、だーれかさんが、だーれかさんが見つけた……



いやだ、怖い、怖い、怖い、怖い。
あまりにも心が締め付けられるように痛くて、胸に抱く人形に、ぎゅうっとより一層力を込める。痛む胸に相似するみたいに、涙が次から次へと溢れ出てきて止まらなくなった。
「う……っく、ひっ……」
喉から込み上げる嗚咽を必死で噛み殺しながら、もう先程音が発された所を見る事すら怖くなって、下を向く。



―――ねぇ、誰か助けて。
―――違う。誰でもいい訳じゃない。じゃあ誰?
―――胸の奥が欲する、その名を刻む。
―――ねぇ、私を見つけて。私はここに、いる。
―――みつけて、ねぇ…



「――――――シン、クッ………!」



「―――アリエッタッ?!」
えっ、と小さな呟きが零れた。
かの導師と同じ顔をして、同じ髪の色をして、同じ声をした、同じく六神将――『烈風』のシンク。
胸の中に、いてもたってもいられない感情が湧き出してきて、胸がざわついた。ぶわ、と涙がより一層零れて来て、茂みから姿を表したばかりの彼がまだ此方に近づくよりも早く、アリエッタはシンクのもとへと駆け出した。
どんっ、とそんな音を立てて、シンクに抱きつく。
意外にも彼は抵抗せず、アリエッタを振り解きもせず、そのまま縋りつくように泣くアリエッタを無言で見下ろしていた。
「どうしてぇ…?どうして、シンクが…」
涙にまみれて、凄い酷い顔をしているのすら構わずに、シンクを見上げてアリエッタはか細い声でそう尋ねた。
「…君が森に入ったきり、戻らないって報告が来たからね。ま、たいてい迷っただけだと思ったけど…六神将が迷うなんて前代未聞じゃないか、バレる前に対処しなくちゃね」
シンクはいつもと一つも変わらない、冷ややかな声でそんな風に返した。
けれど、そんなことよりも、ただひたすらに、暖かい想いが先立った。
埋めるシンクの胸板は、自分のそれよりも僅かに暖かいだけ。
――もしかして、探してくれていた?
自惚れだと分かっていても、そんな予感がするだけで、嬉しい。






「…ねぇ、アリエッタ」
「なに?」
怯えているうちに、アリエッタは足が竦んで動けなくなったようだった。自分でも気付いていなかったらしく、シンクに『臆病者だね』と嫌味を言われたけれど、それでも渋々ながらシンクはアリエッタを背負い、森を出るべく歩き続けている。
そんな道中、シンクがいきなりそんな風に問いだしたので、アリエッタは驚きながらも聞き返した。
でも、シンクの返事は返ってこない。どうしよう、何か気に障る事でもしちゃったかな…?とアリエッタが不安を感じる。無意識に、体が強張ってきてしまう。
それに気付いたシンクが、舌打ちをしながらも、一度歩を止めて、背のアリエッタに視線を注ぐ。
「シン、ク…?」
「そんな、怖がらないでよ。別にアンタを怯えさせたい訳じゃない――ただ、聞きたい事があるだけだから」
「聞きたい、こと……?」
言うと、シンクはまるでそっぽを向くみたいに、また前を向いた。
「……んだ」
「なに…?シンク、聞こえない…です」
いつも畳み掛けるように透き通るシンクの声が、なんだか上手く聞こえない。
シンクは舌打ちをすると、我武者羅に声を張上げた。



「ッ、だから!……なんで、アイツじゃなくて、僕の名前を呼んだんだ…?」



「……え…」
シンクの言うアイツ、はイオン様のことなのだと、アリエッタは直感的に理解した。
つまりは―――あの瀬戸際で。なんでイオンじゃなくて、シンクと呼んだのか、と。
アリエッタ自身思い出してみても、なんでシンクの名を呼んだのか分からなかった。どうしてイオンじゃないのだろう。あの優しい、大好きなイオン様じゃなく。こんなに厳しくて――何処か怖いとも思ってしまう、シンクの名を。
「あ、アリエッタ、わ…わからない、です……」
「……フン、まあ…そんなことは別に、どうでもいいけどね」
素っ気なく言い放つと、またシンクは押し黙り歩き出した。なんだか、今度は早歩きだった。
(……シンクから言い出したのに…シンク、変です)
疑問を抱きつつも、なんだか今度は酷く暖かかった。
無意識に口元が和らいできて、シンクの大きな背中に体を密着させながら、ひっそりと微笑んだ。






―――だーれかさんが、だーれかさんが、だーれかさんが見つけた……
―――ねぇ、私はここにいるよ。見つけてくれたよ、暖かな、あの人が…



―――見つけてくれて、ありがとう。シンク……










あとがき。
シンク×アリエッタ小説でした。
フォルダから発掘した、随分前に書いたこの小説にちょっと手を加えて、しばらく拍手御礼小説として置かせて頂きました。
ただ、色々支離滅裂な部分はあるのは隠しようがございません。orz



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