世界は統合した。でもあたしの心は まだピースがはずれたまま――
やりのこしたこと
ここはテセアラ。ミトスの野望を打ち破り――世界は統合した。
そんな中、テセアラの首都であり、王都メルトキオでも、統合した世界の先に向けてシルヴァラントと和解しようと言う
動きを進めつつある。これもまた、あたしたちのやった事のたまものかな。
…ま、これはどっかの馬鹿のおかげでもあるんだけど。
この動きや、皆の働きも含めて、世界は良い方向へと進んでいるんだ。
テセアラに芽生えた新しい大樹の芽を、潰したり、枯らさせてしまわない限り…
ロイドやコレット達はその大樹の芽を守っていたが、今はエクスフィアを回収する旅に出たと言う。
ジーニアスやリフィルのセイジ姉弟も、ハーフエルフの差別を少しでもなくす為に旅に出たとか。
プレセア・リーガルは会社を通じてエクスフィアの発掘の阻止、そして世界への手助けにと奮闘している。
…まあ、そのプレセアの所に度々セイジ兄弟の弟が訪問に来る、とか言う野暮な風の知らせを受けてしまったのだけれど。
そんな事を思い出しながら、しいなはクスリと微笑んだ。
何度思い出しても、笑みが毀れてしまうのはあの必死ジーニアスと鈍感プレセアの普段の育みを
見ていたからならではのたまものなのか。
ここはとてもそよそよとした風が吹いてきて涼しい。それでいて美しい草原に囲まれている。
王都から少しでも離れれば、あそことは断然違う自然に囲まれた空間に出会えるものだ。
綺麗な空気をすーっと深呼吸して吸い、しいなは心が落ち着くのを感じた。
どっかの馬鹿のせいで、シルヴァラントとの和解の使者として選ばれてしまった者としては――もう疲れてクタクタなのだ。
上手く和解の使者として無事に帰って来た。王に結果を報告し、かなりの額の報酬を貰った。
勿論、それは里に九割程送ってきた。ほんの先程の事だ。
本当は全部送ろうかと思ったのだけれど、シルヴァラントとの和解についてまだ全て終わった訳ではなく
それが終わるまでは使者として責任を持ってメルトキオに滞在しなくてはならない。
それで、ここで過ごす間の分として少しでもお金は残しておいた方が良い、と一時世話になった精霊学者に助言され
少しだけ残す事にした。――でも、ミズホの里を立派な隠密集団にすると言う目標を掲げたにも関わらず
時期頭領が席をあけるとはなんたる失態で――その面目ない状況のお詫びにとでも、出来るだけの額を送ってきた。
これが少しでも役に立てば、と思いつつ。
そして、もうほとんどお役御免となり、既に今夜の宿も取り、暇となってしまいお忍びでメルトキオから抜け出してきた、と言う訳だ。
「…あ――気持ちいーい…」
久しぶりの休みに、しいなはたまらず草原の上にどさりと体を落とした。緑色の美しい草の香りが鼻に染みこんで来るようだ。
照りつける太陽も決して熱くもなく寒くもなく。まさに絶好の洗濯日和。
それでも――とある顔を思い出せば、やるせない気持ちになってしまう。
なので、それを忘れる為にも、そしてこの気持ちいい空間の中でより沈みたい気分にもなって。
――眠気に沈み込もうとした、その時。
「よーうしいな〜。お元気〜?」
「ッッ!!!!」
今一番聞きたくなかった声の主に声をかけられて、がばりと体を起こす。
眠気が来た頃にいきなり声をかけられて起こされるのは気分も悪いし悔しい。
そんな事を思いながら、声の主――ゼロスを精一杯睨みつけてやった。
でも、ゼロスはそんな事お構いなしで健やかに笑っている。同時に、「どうしたの怖い顔しちゃって、しいな〜」とか能天気な事を
先程自身を起こした忌々しい声で言ってくるのだ。
「あたしは今寝ようとしてたんだよ。よくも邪魔してくれたねゼロス」
そう恨めし気に言ってやったら、ゼロスは「あーあー」と笑顔から少し顔をしぼめたような表情をして、軽めに数回頷いた。
「そりゃあ失礼〜。でもねしいなちゃん。そんな風に隙作ってちゃ何時俺様に襲われても文句言えな…」
バシッ
生々しい音が草原に響いた。
「殴るよ!!!」
「いやもう殴ってるってしいな…いつつ」
ふん、とそっぽを向いて彼の顔を見ないようにした。邪魔された挙句、変なことを言ってからかうのはいつもと同じ。
「…あんたもこりないね」
「何が」
小さく呟いたつもりでもやっぱり聞こえるもので。「何って、あんたっ」と言って振り返る頃には、なんと奴は
先程まで自分がしていたようにごろんと寝転んで眼を瞑っていたりするのだし。
「あっ、あっ、あんたっ、何やってっ」
「いや、寝てんだけど。悪い〜?」
聞いてるのはそう言う事じゃなくて…、と言いかけてもうゼロスから規則正しい寝息が聞こえてきたので止めた。
なんと寝つきの良い事だろう。
これじゃあ、先程彼が自分に言った事について納得がいかないのではないか。
口を思わずへの字にして、視線を彼に向かって落とした。その表情の変化にもさて何よと気付かず、ゼロスはすうすうと息をしながら
既に夢の中へと入っているようだった。
しいなとしては、神子様と呼ばれてちやほやされている…まあ、確かにモテるのも無理ないだろう、彼の美しい顔を見て、ひとつ、溜息をついた。
いつもは彼自身が自分は美しい、と言っては蹴りをかましているが、こうして見てみればその言葉に間違いはない気がする。
彼の腕で、その顔にぐいと近寄せられれば顔だって有り得ない位赤面してしまうのだし。
気付かぬうちに、そんなことを考えながら、胸がとくんとくんと鳴っているのにしいなは気が付いた。
不意にハッとして、ゼロスから一、二歩ずさりと離れる。
(あ、あたし…何考えてるんだろ)
馬鹿らしい、こいつに見惚れてたなんて。そんなこと、この世がひっくり返ってもあるはずない。
そう、そんな事は絶対ない、ないんだ。
高鳴る胸にそう言い聞かせて、すーはーと少々強引で荒い深呼吸をした。
そしてもう一度「そんな事ない」と言い聞かせて、ぐるんとゼロスの方に振り向く。
その瞬間眼の中に写った、その寝顔を見て顔がぼぼっと赤く火照った。
(だから、なんでこんなに意識しちまうんだよっ、馬鹿っ)
違う、と言い聞かせる度に体が違わない、と否定する。まるでゼロスが否定するみたいに。
…違う。
違わない。
違う、違うっ!
違わない。
違う、なんであたしが、あたしは…
ゼロスが好きな筈なんかっ…
ああ、それなのに、どうして。
こんなに、こいつを見れば胸が熱くなるのか、満たされていくのか。
(ゼロ…ス)
「あたし…、」
思わず、彼の頬にそっと手を添えた。
その頬はとてもさらさらとしていて、指で押してやればとても弾力のありそうだった。
ぶる、と眠りを妨げるように触れている頬に悪戯をしてやりたくなる。
でも、このぬくもりを離したくなくて、そのまま手をゆっくりと上下させてさらりとした感触を楽しんだ。
そうしたら、自然に背中が曲がって、ゼロスの顔に自分の顔が近づいていく。
自分の手を広げた間隔くらいにまで近寄った時に、瞼が重くなったようにゆっくりと閉ざされていく。
こんなことするのはいけないと解っている…、でも体が何かに取り付かれたように行動を止めてくれない。
それに――彼に頼れば…いや、彼なら今の心の隙間を埋めてくれる気がした。
心の中のジグソーパズル…世界は再生されて、昔の痛い記憶も、コリンの死も受け止めて、頭領も目覚めて、里の皆ともまた手を取り合って
いけるようになって、時期頭領として皆の為にこれから頑張れて、シルヴァラントとの和解の為の任務もなんとか終えて。
これで全て埋まると思ってたのに、何故かひとつだけ、足りない。
心の奥底の、何か大切なのが足りない気がして…
その、パズルピースを、ゼロスなら。ゼロスなら、埋めてくれる気がした。
だから―――
「寝込みを襲うたぁ…しいなもやるねえ」
「え…っ」
肩に力と重みがかかって、ぐいと強い力で重力のかかる方に引っ張られた。
次の瞬間眼に入ったのは、一番間近で見たゼロスの顔で、それは先程まで見ていた寝顔ではなかった。
誰よりも丹精で、誰よりも自分を強く強く見つめてくれる瞳…。
そして、体に絡められた腕が、しっかりと自身を押さえつけて離さない。それから、唇に感じる暖かな感触。
動けないまま、眼だけが閉じられずに一部始終を頭に描き続けていた。
「んっ…、うっ」
口が空気を欲してもがいた時に、ゼロスの眼がうっすらと開かれる。
その際に見えた黄緑に瞬く瞳と、口の感触でしいなの体が脈を打ち抵抗力を抜かしていく。
もう駄目だ、と思った時に、ゼロスは名残惜しそうに唇を離し、自らの体を起こすと共にしいなの体をも起こした。
しいなは疲れたように息を荒くして、力の入らない体をゼロスに支えてもらっている。
悔しいのに、何故か知らないけど何も考えられない。
そんなしいなを見て、ゼロスは口をゆっくりと開けた。
「…大丈夫か?」
「! へ、平気…だよっ」
体を無理矢理動かして、ゼロスからずささと離れる。先程の事も相成って、少しばかり距離を置く。
開口一番に自分の事を心配してくれた彼には失礼だと思ったが、混乱する頭と疲れ果てた体ではそれくらいしか出来なかった。
「…しいな」
「な、何サ」
ゼイゼイと荒い息をつくしいなに、ゼロスはいきなり真面目な顔をへにゃんと変えて、ニヤリと笑い出した。
その顔の変貌振りに思わず吃驚として一歩下がってしまった。
「成程…しいなちゃんは俺様の寝顔に見惚れちゃってあんなエロチック☆な行動をしちゃった訳か〜」
「ばばばば、馬鹿!!結局したのはあんたじゃないかっ!!」
「最初に俺様を誘ったのは誰だと思ってんの」
「誘う…って、あたしは…」
ゼロスの言葉に動揺しながら、しいなは必死に喋ろうとしたけど、口がなかなかまわらない。
でも、そんな脳内思考の中で気付いた一つの疑問。
「…ちょっと待て。なんであんたがそんな事知ってるの?」
「だって俺様寝てないし〜。ただの狸寝入りって奴?しいなが気付かなかったのが悪いんじゃねーか」
「狸…寝入り…」
まさか狸寝入りしていたとは気付かず、あんな事をしてしまった自分が末恨めしい。
そしてその次に、ふつふつと芯の奥から怒りが立ち込めてきた。
「ゼ〜ロ〜ス〜…」
「ヒィッ?!し、しいなちゃ〜ん別に今回は俺様が悪い訳じゃなくて…いやっ、その、悪い事しました!!だから許し…」
問答無用、との叫びの後に甲高くも鈍い音、そして生々しい悲鳴が飛んだのは気のせいではないだろう。
「全く、あの阿呆っ」
平手打ちでノックアウトしたゼロスを置いて、さっさとメルトキオへと帰宅の旅路を急ごうとしいなが橙に染まりかけた街道を歩いていく。
ゼロスの心配は勿論考えているだろうけど、まあモンスターにやられる事もないだろうしすたすたと足を急がせた。
「………」
あんなことをされたのは不本意だけど、何故か胸の奥が高鳴って治まってくれないのをしいなは感じた。
(…あたし)
どくん、どくんと五月蝿い心臓の音を聞きながら――目の前の橙と黒い自身の影を見つめながら。
しいなの脳裏にひとつの答えが浮かび上がる。
(あたしは、やっぱり……)
それは、錯覚か 誠か。
ひとつだけ抜けたパズルピースが、今はまろうとしている。
形の合うピース、あとはただ向きを変えるだけ。
もう少しだけ、勇気を出せばこれがはまってくれる気が、した…。
そう、それがきっと、あたしが今の今までにやりのこしたこと。
とっても大切な、やりのこしてしまったこと――――
(やっぱり、ゼロスのことが好きなんだ……)
あとがき。
更新希望アンケで一位だったゼロしいです。もう三連続も一位をとってくれちゃって、嬉しいのやらなんとかやら(笑
今回は甘々で決めよう!と勇んで書きましたが、なんだかこのまま続きそうで怖いですね。
一応読みきりの筈だったのに…。まあ思いついた時にでも続編書きますか。
ゼロしいは素直になれないラヴにやっぱりなっちゃいます。「素直になれなくて」もそうだったのに…。…ま、いっか。(良くないです
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