* ひまわり養成学園 *
第七回 ドッキリ恋企画★真夏の恋伝説!
「あ、来てくれたの?」
2日目のパフォーマンス。詩乃さんは私たち三人を見て言った。
「はい。是非と思いまして。」
翠は笑顔で詩乃さんを見ていた。
「あら、若葉は?」
義理ではあるが、弟がいないことに気がついた詩乃さんはそう言った。私は翠を、翠は彼方君を見ていた。
「若葉は…来れませんでした…。」
「え…?」
彼方君の不自然な言い方に、詩乃さんは疑問の声を飛ばした。
「若葉専用の制御アイテムがあるんですけど…その威力が強くて…昨日から具合が悪くなっちゃって…。」
「で…?どうしたの?」
「病棟で入院しています…。」
その言葉を聞いて、詩乃さんはやっとほっとした様子だった。
「大変ねー。危険項目能力科も…。」
人からの視線。それはきっと温かいものではない。同じ潜在能力を持っているにも関わらず区別される。
「余計な問題は起こしたくないんだと思います。」
彼方君は詩乃さんに言った。詩乃さんはちょっと困った顔をしたが、すぐにその表情は変わった。
「もうすぐ始めるから、入ってー。」
ホールの中は、人で溢れていた。私たちは空いている席に座った。いよいよ、技術科による合唱が始まった。
「詩乃さんすごかったねー。」
翠はホールを出るなり行った。確かに、合唱はすごかった。もうプロ並のもの。
「技術科にも発明科みたいに企業とかくるの?」
「レコード会社とか…音楽プロデューサーとか…。」
「へぇ…。」
きっと体質科もスポーツ関連の人たちがたくさん来る。いい人材を選んでいく。頭脳体質科はすごいと思う。それに比べ潜在は…
「私たちって…卒業後はどうなるのかなぁ。」
ふと呟いた。彼方君と翠は私の方を見た。
「潜在能力で活躍したりもできるよ。」
彼方君は言った。
「俺はマリオネットで犯人逮捕とかできるし、翠は水神で乾燥した地に雨を降らせられる。それに時田は物体操作で物を自在に運んだり、取ったりできるでしょ?」
「些細なところで活躍できるのが私たちの能力なのよ。」
彼方君と翠は私を見て笑った。
「そっか。」
なんだか途端に足が軽くなった。心持ちが楽になったようだ。
「次どこ行く?」
私たちはこの3日間を楽しく過ごしていた。
4日間の文化祭の最終日。今日は後夜祭がある日だ。
「ラストダンス誰と踊る?」
学園の三大恋愛伝説の2つ目はこのラストダンス。ラストダンスを一緒に踊った人は結ばれるという伝説のようだ。クラスの女子は誰と踊りたいか言い合っている。
花火大会のときとは違い、好きな相手とあたる可能性が高い。
「私はやっぱり中等部の…」
相変わらず私はそういった話題について行けていない。
「美音ちゃんと翠ちゃんは誰と踊るの?」
「え?」
入りたくなかった話題へと引きずり込まれる。
「私は…別に…。」
翠はそそくさと答える。みんなの視線は私に向く。
「私も…別に…。」
「うそー。最近若葉君といい感じだったじゃん。」
どうやら翠と同じようには逃げられないようだ。
「違う。若葉君とは…」
「若葉君?」
私の室井君から若葉君と呼び方を変えたことに、1人の生徒が気がついた。
「えー!名前で呼んでるしー!」
「違う!これは彼方君…が…。」
私は心の中でやってしまったと思った。遠くの方では翠が何をやっているのという顔をして見ている。
「美音ちゃん…。若葉君と江波君、どっちと踊るの?」
「だーかーらー。2人共友達だってば。」
「本当?」
「本当だって。仲がいいだけで好きとかそんなんじゃないよ。」
私はありえないという顔をして見せた。周りにいた女子はふーんとつまらなそうな顔をして行ってしまった。
「みんなー、後夜祭の準備始めるよー。」
田口先生が教室に入って来る。みんなは待っていましたとばかりに田口先生のあとに続いて教室を出た。
「時田ー。」
後夜祭の準備も終わり、いよいよ始まると思った頃に彼方君が現れた。
「彼方君…。」
隣にいた翠が顔を見せた。
「若葉君は…?」
「それが…まだみたいで…。てか、今日高岡先生来なくて、神庭先生だったからよくわからない。」
「そう…。」
高岡先生はあれからずっと若葉君についているようです。
「2人共服、似合ってるね。」
女子生徒が着る服は妖精をモチーフにしたドレスで、初等部、中等部、高等部とデザインがそれぞれ少しずつ違っている。男子生徒はタキシードで、こっちもデザインが違う。
「ありがとう。彼方君も似合ってるよ。」
「そう?」
私が言うと、彼は照れくさそうに言った。
「どうする?踊る?」
すでにダンスの曲は流れている。
「そうだね。おどろ…」
彼方君の言葉が途切れる。
「どうした…」
「若葉?」
彼の視線の先には若葉君がいた。隣には高岡先生が立っている。若葉君はこっちに気がついたみたいで、笑顔を見せた。
「若葉ー。」
彼方君はいきなり走り出した。翠もそれについて行ったので、私も必死に追いかけた。
「大丈夫なの?」
「うん。平気。」
彼方君の質問に若葉君は答えた。
「じゃあ…おどろ…。」
彼方君に掴まれた腕を若葉君は彼から解いた。
「3人で行って来なよ。」
「なんで…若…」
「俺はまだ体調が万全じゃないから踊れない。」
若葉君ははっきりと言った。
「それに、制御アイテムをつけてないから…高岡先生と一緒にいなくちゃいけないんだ。」
若葉君は惜しそうな顔をしてみせたが、笑顔で言った。
「でも…。」
「俺は一応、去年、一昨年と参加している。大丈夫だ。」
「体に気をつけろよ。」
彼方君はそう言って、
「お大事に。」
翠はそう言って、
「無理しないでね。」
私はそう言って、2人のあとについて行った。
「若槻さん?」
みんなのダンスをしている様子を3人で見ていると、右側から声がした。
「一緒に踊らない?」
中等部の服装。その人は前に1度会ったことがあった。
「優斗先輩の…。」
「あれ、君…優斗のパートナーの…。」
「どうも…。」
私は一応挨拶した。
「で、踊らない?」
その先輩は翠を再び誘った。翠は私たちの方を気にして見ている。一緒に遊ぼうと約束したからだろう。
「翠、行って来なよ。」
「そうだよ。後夜祭ってダンスパーティみたいなもんだし、踊らないと意味ないよ。」
私と彼方君は翠を後押しした。
「じゃあ…行って来るね…。」
翠はその先輩と歩いて行った。
「俺らも踊る?」
「そうだね。翠がいないのに勝手に先に食べてるのもあれだし。」
フォークダンス。私は彼方君と踊ることにしたが…
「大丈夫?」
固まっている私に彼方君は言った。実は私、1度もダンスというものを踊ったことがない。
「私…踊ったことなくて…。」
今更なにを言っているんだろう…。恥ずかしくてたまらない。
「大丈夫だよ。ゆっくりで。」
彼方君はそう言って私の手をとった。曲に合わせて踊れてはいないけれど私は彼方君に教わりながら少しずつ踊れるようになっていた。
「うまい、うまい。その調子。」
彼方君の励ましで、さらにうまくなる。
「あ、できた。」
「時田…。」
「え?」
嬉しさのあまり、顔が笑顔のままだった。
「あの…俺…」
続きの言葉を聞いて、顔から笑顔が消えた。
「諦めようと思ったんだけど…若葉は…友達だって…聞いて…。」
いまだ流れている曲に合わせて周りの生徒は踊っている。きっと翠も、まだあの先輩と踊っているであろう。
「時田…?」
「ごめん…。」
私は彼方君をおいて走り出した。
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