「ねー跡部ー」

「……何ですか」

「それがね、タロさんに呼ばれちゃってさぁ。私、何かやったっけ?」



















































隣りで困った風に首を傾げて唸っているのは、お馴染み
跡部の眉間に皺が寄っているのは、何も青学の手塚の真似をしている訳ではない。

彼女が突拍子もなく現れるのはいつもの事だし、むしろ現役時代より良く接する様になった気もする。それはそれでどうかと思うが。
しかしそれはあくまでも放課後の部活時の事であり、TPOを弁えて貰いたい。










「その前に先輩……今、授業中なんですが」

「大丈夫、うち自習だから」

「俺のクラスは自習ではなく、現に今、授業が進行されているんですが」

「あーもー、私何したんだっけなぁ…」

「凄ぇなテメェ、堂々の無視かよ」










いつもの調子で零してから、跡部ははっとなった様に言い加える。










「すいませんでした」

「前から思ってたんだけどさー、別に無理して敬語使う必要ないよ?忍足とかジローちゃんとか、言うまでもなく使ってないし」

「いえ、一応先輩ですから」

「一応って何だ一応って」










こんな騒ぎになっているのに、クラスの皆はおろか、先生でさえも注意しようとはしない。
それどころか、跡部と目が合うと不自然なスピードで目を逸らしていく。

の(ある意味)偉業は、未だ根絶えていないらしい。

防火シャッターが全て降りた校舎内に流れた「今から皆さんには朝まで踊り狂って貰おうと思います」の放送は記憶に新しいのだろう。
それとも、一晩の内に校庭に巨大な落とし穴が掘られていて、次から次へと落っこちたことだろうか。
いや、もしかしたら学校に乗り込んできた不審者を一発で熨し、最終的には泣いて謝らせたことかもしれない。

あ、これは珍しく役に立ってるな。


何が恐ろしいって、全ての言動においてこれっぽっちも意味がわからないところが恐ろしい。
そして、いつも何処から出ているのか本当に謎な力を思う存分発揮出来る、その能力がが恐ろしい。

は基本的に楽しい事が好きらしい。
成績はいつもトップドベだ。










「ねぇ、私、何したんだと思う?」

「俺に聞かれてもわかりませんが……三日前に部室のロッカーを一つ破壊した事じゃないですか?」

「えー、そんなの日常茶飯事じゃん。今更」

「(自覚はあるのか……) じゃあ五日前に購買のパンを買い占めて十円上乗せで売りさばいた事

「うーん、でもは商業に向いているのかもしれないな』って褒めてくれたよ?」










それでいいのか榊太郎(43)…!
教室の思いは一つになった。きっと今頃くしゃみでもしているだろう。









「そういえば、宍戸に国語辞書を借りて、三行に一本マーカー引いて返したんですって?」

「あぁ、アレ。結構芸術だったでしょ? 見た?」

「見てないですけど、相変わらず暇ですね……」

「うっさいな! それはタロさんに呼び出されたのと関係ないじゃん、多分!

「(弱気じゃねーかよ……) この間はジローの歴史の教科書を蛍光ペンで塗り潰したらしいじゃないですか」

『ピカピカでカッコEー!』って言ってくれたもん!」

「忍足の眼鏡を校舎壁の時計の針に引っ掛けたのも先輩ですよね」









伊達眼鏡なので大した支障は無かったものの、必死に眼鏡を探し回る忍足はある意味見物だった。

『十二時までに見つけないと割れるわよーっ』という放送が掛かったときは、その場にいる全員が固まったものだが。
十二時になると針が重なるので、引っ掛けてある時計が割れてしまう。
言葉の意味に気付いたのは良いが、問題はどうやってそれを取りに良くか、だ。結果、無事に取れたが。

っていうか、はどうやってそこに行ったんだ。










「……何気に全部把握してるアンタが怖いわ」

「そんな無駄な事に全力投球している先輩の方が怖いです」









周りで、最強伝に新たな一ページが刻まれているなんて知らない。


跡部は押し黙って数秒考えてみたが、どれもがわざわざ呼び出される理由には成り得なかった。
否、普通ならどれもが呼び出しではすまないレベルのものばかりだか、殊更彼女の事となると、今更……といった具合になってしまう。

いい加減授業に戻りたい跡部は、もう適当に、絶対有り得ない事を言って彼女を追い返そうと試みたのだが。










「じゃあ……榊監督の鬘を水洗トイレに流したことじゃないですか」

「えっ、あれバレてたの!?」










やったのかよ! しかも榊監督ヅラだったのかよ!?

相変わらず何処までが本気なのかわからない彼女は、跡部に向かってにっこりと笑ってみせた。
こんな訳のわからない人物にときめいてしまう自分が憎い。










「まぁ、覚悟を決めて行って来ますわ。ありがとね」










ヒラヒラと手を振って、は後ろのドアから出て行った。
それを何となく目で追っていた跡部は、不意に耳に入ったチャイムの音で我に返った。
見渡せば、クラスメイトは皆一様に自分に向かって憐れみの視線を送りながら教科書類を片付けている。



しまった……結局、授業……受け損ねた…!

























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何かアレですね。敬語で書いてると、何処となく日吉に見えますね。…え、そんなことない?
このシリーズはもともと、「景吾に敬語で話されたい」というよくわからない一行が携帯のメモ帳に記されていた事が始まりです。
ようするに跡部さんに敬語使わせたかったのね。
だって考えたらキュン(死語)となっちゃうんですもんよ!(何語だ)

続きます。


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